事業承継を考え始めると、多くの経営者が最初に悩むのが、「株式は相続で引き継ぐべきか、それとも生前贈与がよいのか」という問題です。
どちらにもメリットと注意点があり、一概に「こちらが有利」とは言えません。
大切なのは、税金だけで判断するのではなく、会社の将来や後継者の育成状況も含めて考えることです。
今回は、相続と生前贈与の違いについて整理してみます。
相続は自然な承継方法である
相続は、経営者が亡くなった後に財産を承継する方法です。
特別な手続きを行わなくても承継が行われるため、多くの企業で採用されてきた方法です。
一方で、相続はいつ発生するか予測できません。
経営者が十分な準備を終える前に相続が発生すると、
- 後継者の育成が途中で終わる
- 株式承継が未整理のままになる
- 遺産分割で意見が対立する
といった問題が生じる可能性があります。
自然な方法ではありますが、「突然始まる」という特徴があることを忘れてはいけません。
生前贈与は計画的に進められる
一方、生前贈与は、経営者自身が承継の時期を決められます。
例えば、
- 後継者が十分に育った時点
- 社長交代のタイミング
- 業績が安定している時期
など、会社にとって最も適した時期を選ぶことができます。
講義資料でも、事業承継税制を活用した生前贈与と社長交代を組み合わせ、数年間にわたって計画的に承継を進める事例が紹介されています。
計画的に進められることは、生前贈与の大きな強みといえるでしょう。
税金だけで比較してはいけない
相続と贈与を比較するとき、どうしても税負担だけに目が向きがちです。
もちろん税金は重要ですが、それだけでは適切な判断はできません。
例えば、
- 後継者が十分育っているか
- 会社の経営体制は整っているか
- 他の相続人への配慮はできているか
- 将来の経営方針は明確か
こうした点も同じくらい重要です。
税負担が多少変わっても、会社が安定して成長できる承継方法を選ぶことのほうが、長い目で見れば大きな価値があります。
制度も早期承継を意識している
近年の制度改正では、経営者が元気なうちに後継者へ承継することを後押しする方向性が見られます。
中小企業庁でも、事業承継税制の見直しにあたり、贈与による早期承継の促進や後継者育成の重要性について議論が進められています。
早めに承継を進めることで、
- 経営能力を育成できる
- 社内外の信頼を築ける
- 経営の空白期間を防げる
といったメリットが期待できます。
制度も、こうした考え方を後押しする方向へ進んでいると考えられます。
会社ごとに最適解は異なる
ただし、すべての会社が生前贈与を選ぶべきというわけではありません。
例えば、
創業間もない会社
後継者がまだ決まっていない会社
自社株評価が低い会社
将来的に第三者承継を検討している会社
などでは、相続による承継が適している場合もあります。
反対に、
後継者が決まり、
自社株評価が高く、
長期的な経営計画も整っている会社では、
生前贈与が有力な選択肢になることもあります。
重要なのは、制度に会社を合わせるのではなく、会社に制度を合わせるという発想です。
経営者自身が判断できる時期を大切にする
相続と生前贈与の最も大きな違いは、経営者自身が意思決定できるかどうかです。
生前贈与であれば、
「誰に承継するのか」
「いつ承継するのか」
「どのような形で引き継ぐのか」
を経営者自身が決められます。
一方、相続ではその判断を自ら行うことはできません。
事業承継は会社の未来を決める重要な経営判断です。
だからこそ、経営者自身が元気なうちに判断できる時間を大切にしたいものです。
結論
相続と生前贈与には、それぞれ異なる特徴があります。
相続は自然な承継方法ですが、時期を選ぶことはできません。
一方、生前贈与は計画的に進められ、後継者育成や経営体制の整備と合わせて承継を進められるという大きなメリットがあります。
どちらが有利かという単純な比較ではなく、自社の状況や将来の経営ビジョンを踏まえて最適な方法を選ぶことが重要です。
事業承継で最も大切なのは、税金の多寡ではありません。
会社を次の世代へ安心して引き継げる仕組みをつくることこそが、本当の成功といえるでしょう。
参考
北陸税理士会「事業承継税制(特例版)における実務上の論点整理」
中小企業庁「今後の検討の方向性について」