外形標準課税の計算を学んでいると、多くの人が疑問に思う項目があります。
それが「雇用安定控除額」です。
報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料を集計し、付加価値額を計算した後に、なぜさらに控除が認められるのでしょうか。
しかも、この控除額は企業によっては数億円規模になることがあります。
実は雇用安定控除額には、税制というよりも雇用政策としての意味合いが強く込められています。
今回は外形標準課税における雇用安定控除額の役割について解説します。
外形標準課税の矛盾を解消する制度
外形標準課税は事業規模に応じて課税する制度です。
そのため、人件費が多い企業ほど付加価値額が大きくなります。
しかし、ここで一つの問題が生じます。
従業員を多く雇用している企業ほど税負担が重くなるという矛盾です。
もしそのままであれば、企業は雇用を増やすことに慎重になるかもしれません。
これは社会全体として望ましいことではありません。
そこで設けられたのが雇用安定控除額です。
雇用を守る企業への配慮
雇用安定控除額は、従業員への支払いが大きい企業に一定の配慮を行う制度です。
外形標準課税は企業規模に応じて負担を求める制度ですが、一方で雇用を支える企業を過度に不利にしてはいけません。
企業は利益を生み出すだけでなく、地域社会に雇用を提供する重要な役割を担っています。
税制にもその視点が反映されています。
つまり雇用安定控除額は、税負担と雇用維持のバランスを取るための仕組みなのです。
どのように計算するのか
講義資料では、
報酬給与額
-
収益配分額×70%
という計算式が示されています。
つまり収益配分額の中で、人件費の割合が高い企業ほど控除額が大きくなります。
逆に人件費の割合が低い企業では控除額は小さくなります。
制度として非常に合理的な設計になっていることが分かります。
講義資料の計算例
講義資料の事例では、
報酬給与額
19億9,787万7,000円
収益配分額
20億8,179万8,000円
となっています。
この結果、
5億4,061万8,400円
の雇用安定控除額が算出されています。
非常に大きな金額であることが分かります。
外形標準課税において、この控除が税負担へ与える影響は決して小さくありません。
なぜ70%なのか
実務担当者からよく受ける質問が「なぜ70%なのか」というものです。
制度上、この割合は雇用への配慮と課税の公平性を両立するために設定されています。
100%であれば雇用重視企業への課税が大幅に軽減されますが、制度本来の課税目的が弱まります。
逆に控除がなければ雇用を維持する企業ほど不利になります。
その中間点として設定されているのが現在の仕組みです。
税制と雇用政策の妥協点ともいえるでしょう。
人を大切にする企業ほど有利になる
この制度の特徴は、人を重視する企業ほど恩恵を受けやすいことです。
例えば同じ売上規模の企業でも、
従業員を多く抱える企業
設備中心で人員が少ない企業
では結果が異なります。
前者は雇用安定控除額が大きくなる傾向があります。
つまり制度の中に「雇用を支える企業を評価する仕組み」が組み込まれているのです。
税理士が理解すべき政策的視点
税理士はつい計算方法だけに目が向きがちです。
しかし雇用安定控除額は、制度趣旨を理解することが非常に重要です。
なぜ控除があるのか。
なぜ人件費が重視されるのか。
なぜ雇用維持が評価されるのか。
こうした背景を理解すると、顧問先への説明も大きく変わります。
税理士は計算担当者ではなく、制度を説明する専門家でもあるからです。
外形標準課税の本当の姿
雇用安定控除額を見ると、外形標準課税が単なる増税制度ではないことが分かります。
企業活動の規模を評価しながらも、雇用への配慮を忘れていません。
利益だけを見る制度でもありません。
人件費だけを見る制度でもありません。
企業が社会の中で果たしている役割を総合的に評価しようとする仕組みなのです。
結論
雇用安定控除額は、雇用を維持する企業への配慮として設けられた制度です。
外形標準課税による税負担が雇用拡大の妨げにならないよう調整する役割を果たしています。
計算式だけを見るのではなく、その背景にある雇用政策を理解することが重要です。
税理士には数字の計算だけでなく、制度の趣旨を顧問先へ説明する役割も求められています。
次回は、外形標準課税のもう一つの柱である「資本割」の基礎となる資本金等の額について解説します。
参考
近畿税理士会「税法実務講座(法人税)事業税の外形標準課税対象法人の申告の基礎③ 外形標準課税対象法人の申告書作成の基礎」