「出向させるくらいなら退職してもらった方がいい。」
かつては、このような考え方をする企業も少なくありませんでした。
しかし、人手不足が深刻化する現在では、その考え方は大きく変わりつつあります。
2026年度の助成金制度でも、産業雇用安定助成金の「スキルアップ支援コース」では、在籍型出向を通じた人材育成を支援しています。
つまり、出向は単なる雇用維持策ではなく、「人材を成長させる仕組み」として位置付けられているのです。
今回は、在籍型出向を経営戦略という視点から考えてみます。
出向は人材を失わないための選択肢
景気の変動や事業環境の変化によって、一時的に仕事が減少することがあります。
そのような状況では、人員削減という判断が頭をよぎるかもしれません。
しかし、一度退職した人材が再び戻ってくることは容易ではありません。
採用には時間も費用もかかります。
教育にも多くの労力が必要です。
在籍型出向は、社員との雇用関係を維持したまま、一時的に他社で経験を積んでもらう仕組みです。
人材を失わずに会社を守るための、有効な選択肢と言えるでしょう。
他社での経験が会社の財産になる
在籍型出向の最大の価値は、社員が新しい経験を積めることです。
異なる業界の仕事に触れる。
新しい技術やノウハウを学ぶ。
異なる組織文化を経験する。
新しい人脈を築く。
こうした経験は、出向先だけでなく、出向元の会社にも大きな価値をもたらします。
復帰後には、新しい知識や改善提案を社内へ持ち帰り、組織全体の成長につながることも少なくありません。
出向は「人を貸す制度」ではなく、「人を育てる制度」なのです。
人材育成の方法は社内だけではない
人材育成というと、社内研修やOJTを思い浮かべる人が多いでしょう。
もちろん、それらも重要です。
しかし、自社だけでは経験できないこともあります。
他社での仕事を経験することで、これまで気付かなかった課題や改善点が見えてくることがあります。
「自社の常識」が、実は業界全体では当たり前ではないことに気付くこともあります。
外の世界を知ることは、人材の視野を広げ、会社の成長にもつながります。
助成金は企業間連携も支援している
産業雇用安定助成金では、一定の条件を満たした在籍型出向について支援が行われています。
これは単に雇用を守るためではありません。
企業同士が協力し、人材を育成し、日本全体の労働力を維持するという考え方に基づいています。
人口減少が進む日本では、一社だけで人材課題を解決することは難しくなっています。
企業同士が連携しながら人材を育てる時代へと変わり始めているのです。
税理士も企業連携を支援する役割へ
在籍型出向を実施する際には、人件費や資金繰り、助成金の活用など、経営面での検討が欠かせません。
税理士は、出向による費用負担や経営への影響を数字で分析し、適切な経営判断を支援することができます。
また、社会保険労務士と連携することで、制度の活用から経営計画まで総合的なサポートを提供できます。
これからの税理士は、一社だけを見る存在ではなく、企業同士をつなぎ、地域全体の成長を支える存在としての役割も期待されるのではないでしょうか。
結論
在籍型出向は、人材が余っている会社のための制度ではありません。
人材を守り、人材を育て、企業の未来をつくるための経営戦略です。
社員が新しい経験を積み、その成果を会社へ持ち帰ることで、企業はより強い組織へと成長していきます。
助成金を活用しながら、人材育成と企業連携を進めることは、人手不足時代を乗り越える有効な方法の一つです。
これからの時代は、「人材を囲い込む会社」ではなく、「人材を成長させる会社」が選ばれる企業になっていくのではないでしょうか。
参考
2026年度版「助成金」受給&活用マニュアル(企業実務 2026年7月号付録)