事業承継は、中小企業にとって経営そのものを引き継ぐ重要な経営課題です。その中でも大きな壁となるのが、非上場株式の相続税評価です。
現在、国税庁では非上場株式の評価ルールについて約60年ぶりともいえる抜本的な見直しが議論されています。背景には、一部で行われてきた評価額を意図的に引き下げるスキームへの対応があります。
今回の見直しは単なる税制改正ではなく、中小企業の事業承継の考え方そのものに影響を与える可能性があります。
非上場株の評価が難しい理由
上場企業であれば株価が市場で決まっています。
しかし、中小企業の株式には市場価格が存在しません。そのため、相続税を計算する際には国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて評価額を算定しています。
会社の規模や利益、純資産などをもとに評価しますが、実際の企業価値とは必ずしも一致しません。
だからこそ、評価方法を巡ってさまざまな工夫や節税策が生まれてきました。
問題となっている評価引き下げスキーム
近年、非上場株の評価額を下げるために様々な方法が利用されるケースが増えています。
例えば、
・資産構成を変更する
・配当政策を変更する
・会社規模を調整する
・決算期を変更する
といった複数の手法を組み合わせ、評価額を大幅に引き下げるケースが問題視されています。
制度の範囲内で行われていても、本来の企業価値を適切に反映していないとの指摘があり、公平な課税という観点から見直しが求められています。
評価方法そのものが見直される可能性
有識者会議では、評価方法そのものについて幅広い議論が進められています。
企業価値評価では、将来生み出すキャッシュフローを現在価値に換算するDCF法が一般的になっています。
一方で、中小企業にDCF法を導入することについては、
「実務負担が大きい」
「評価コストが高い」
「専門家への依頼が必要になる」
などの課題も指摘されています。
評価の精度を高めることと、中小企業が対応できる実務負担とのバランスが大きな論点になっています。
事業承継支援と相続税評価は分けて考える時代へ
有識者からは興味深い意見も出されています。
これまで非上場株の評価には、事業承継を円滑に進めるという政策的配慮が含まれていました。
しかし、本来、
評価は公平性を重視する。
事業承継支援は税制特例で対応する。
という役割分担の方が制度として分かりやすいという考え方です。
つまり、評価ルールは客観性を高め、その代わりに事業承継税制で負担軽減を図る方向性が議論されています。
今後の税制改正では、この考え方がさらに強まる可能性があります。
経営者が今から準備しておくべきこと
今回の議論は、すぐに税負担が変わるという話ではありません。
しかし、将来的には株価評価の考え方そのものが変わる可能性があります。
そのため経営者は、
・自社株評価を定期的に確認する
・株主構成を整理する
・事業承継税制の適用可能性を検討する
・会社の収益力を把握する
・後継者への承継時期を早めに検討する
など、中長期的な準備が重要になります。
制度が変わってから対応するのではなく、変わる前から準備を始めることが成功する事業承継につながります。
税理士に求められる役割も変わる
税理士の役割も大きく変化していくでしょう。
従来は相続税評価や申告業務が中心でしたが、今後は、
企業価値分析
事業承継税制の活用
株主構成の整理
資本政策
経営改善支援
など、経営全体を踏まえたアドバイスが求められる場面が増えていきます。
税金だけを見るのではなく、「会社を次世代へどう残すか」という視点から支援することが、これからの税理士にはますます重要になります。
結論
非上場株式の相続税評価ルールの見直しは、単なる税務上の改正ではありません。
公平な課税を実現すると同時に、事業承継支援をどのように制度として位置付けるかという、日本の中小企業政策そのものに関わる議論です。
今後、評価方法と事業承継税制がそれぞれ整理されていけば、制度はより分かりやすくなる一方で、経営者には早期の準備がこれまで以上に求められるようになります。
これからの事業承継では、「株価を下げる工夫」よりも、「企業価値を高めながら円滑に承継する戦略」が重要な時代になっていくのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞(2026年6月29日 朝刊)
中小の事業承継に課題 非上場株の相続評価 見直し議論本格化