非上場株式評価の見直しが進む中、実務上最大の関心事は「どこまでが許容され、どこからが否認されるのか」という点にあります。これまで広く用いられてきた評価圧縮スキームは、形式的には適法とされてきた一方で、今後はその扱いが変わる可能性があります。本稿では、代表的なスキームを整理したうえで、否認リスクの判断軸と今後の実務対応を検討します。
スキームの位置づけ―違法ではないが問題視される領域
まず重要なのは、多くのスキームが
- 法令違反ではない
- 通達上の要件にも形式的には適合する
という点です。
しかし、有識者会議で問題とされているのは、
- 評価額のみを引き下げることを主目的とする設計
- 経済実態と乖離した取引
です。
つまり、論点は「適法か違法か」ではなく、「制度趣旨との整合性」に移っています。
代表的スキームと否認リスク
ここでは、実務で用いられてきた代表的なスキームについて、リスクの観点から整理します。
① グループ内資産移転スキーム
概要
- 親会社から子会社・孫会社へ資産移転
- 親会社の純資産価額を低下させる
リスク評価
- グループ法人税制により課税は発生しない
- しかし、評価目的のみの移転と判断される場合は高リスク
判断の分岐点
- 事業上の必要性があるか
- 移転後に実質的な機能が存在するか
② 種類株式を用いた評価圧縮
概要
- 無議決権株式等を活用
- 配当還元方式を適用し評価額を低下
リスク評価
- 会社法上は適法
- しかし、支配権と経済価値の乖離が大きい場合はリスク上昇
判断の分岐点
- 株式設計に合理的な目的があるか
- 配当政策が実態に即しているか
③ 超過収益力の外部流出
概要
- 役員報酬や外注費により利益を圧縮
- 類似業種比準方式の評価額を引下げ
リスク評価
- 経費としての合理性が問われる
- 過大・不自然な水準であれば高リスク
判断の分岐点
- 対価の妥当性
- 継続性と取引の実在性
否認の法的手段とその限界
現行制度において、これらのスキームに対しては以下の手段が用いられます。
- 財産評価基本通達6項
- 行為計算否認
しかし、これらには共通の限界があります。
- 個別判断に依存する
- 予見可能性が低い
- 適用件数が少ない
その結果、
- 否認されるケースとされないケースの境界が不明確
という状況が生じています。
今後のリスク判断軸の変化
制度見直しにより、否認リスクの判断軸は以下の方向にシフトすると考えられます。
① 形式基準から実質基準へ
- 通達に適合しているか
→ 制度趣旨に適合しているか
② 個別判断からルールベースへ
- 事後的な否認
→ 事前に排除される制度設計
③ 単体評価からグループ視点へ
- 会社単体の数値
→ グループ全体の経済実態
実務上のリスクゾーンの整理
今後の実務では、スキームは大きく3つのゾーンに分かれると考えられます。
低リスクゾーン
- 事業上の合理性が明確
- 継続的に実行されている
- 経済実態と整合している
中間ゾーン
- 一定の合理性はあるが評価影響が大きい
- 説明可能性に依存
高リスクゾーン
- 評価引下げが主目的
- 短期的・一時的な取引
- 実態が伴わない
実務対応の方向性
今後は、従来のスキーム活用型の発想からの転換が求められます。
① 目的の明確化
- 税負担軽減だけでなく
- 事業戦略との整合性を確保
② 証拠の整備
- 取引の合理性を説明できる資料
- 意思決定プロセスの記録
③ 長期視点での設計
- 短期的な評価対策ではなく
- 継続的な企業価値向上との整合
結論
これまで実務で用いられてきたスキームの多くは、直ちに否認されるものではありません。しかし、
- 制度趣旨との乖離
- 経済合理性の欠如
がある場合には、今後否認リスクが大きく高まると考えられます。
重要なのは、「できるかどうか」ではなく、
- なぜその取引を行うのか
- 経済的に意味があるのか
という問いに答えられるかどうかです。
非上場株式評価の見直しは、単なるテクニックの問題ではなく、実務の思考方法そのものの転換を求めるものといえるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年5月4日号
「取引相場のない株式の評価の有識者会議が評価額の圧縮スキームを示す、利用を排除する仕組み構築へ」