株券発行会社のままで本当に大丈夫か 見落とされる会社法リスク編

経営

会社経営では、売上や利益、資金繰りには細心の注意を払っていても、「自社が株券発行会社なのかどうか」を意識している経営者は決して多くありません。

しかし、株券発行会社であることには、意外にも大きな法務リスクが潜んでいます。特に中小企業では、会社設立から何十年も経過しているため、過去の制度のまま運営されているケースが少なくありません。

今回は、株券発行会社に潜むリスクと、今こそ確認しておきたいポイントについて考えてみます。

株券発行会社は現在では例外になっている

昔は、株式会社であれば株券を発行することが当たり前でした。

しかし、2006年の会社法施行により制度は大きく変わりました。

現在では、定款で「株券を発行する」と定めた会社だけが株券発行会社となり、それ以外は株券不発行会社となります。つまり、制度上は株券不発行会社が原則なのです。

一方、会社法施行以前から存在する会社では、当時の定款を変更していないため、現在でも株券発行会社のままになっているケースがあります。

長年経営している会社ほど、一度確認しておく価値があります。

株券を交付し忘れるだけで譲渡が無効になることもある

株券発行会社では、株式を譲渡するときに株券を譲受人へ交付する必要があります。

ところが、実務では株式譲渡契約書を作成し、譲渡代金の受け渡しまで終わったことで安心してしまい、株券そのものを交付していないケースがあります。

株券発行会社では、この株券の交付がなければ譲渡が有効にならない場合があります。

将来になって、

「本当に株主なのは誰なのか」

という争いが起これば、会社だけでなく後継者や買い手まで巻き込む深刻な問題へ発展する可能性があります。

株券の紛失や盗難は経営リスクになる

紙の株券には、紙ならではのリスクがあります。

紛失や盗難です。

株券を盗まれ、それを善意の第三者が取得した場合、法律上、その第三者が株主として保護される可能性があります。元の株主は株主としての地位を失うという重大な不利益を受けることもあります。

また、事業承継をしようとした際に、

「株券が見当たらない」

というケースも珍しくありません。

株券が見つからなければ、後継者への株式移転が予定どおり進まず、事業承継全体が遅れてしまう恐れもあります。

M&Aや事業承継で大きな問題になりやすい

普段は問題がなくても、会社を売却するときや後継者へ承継するときには事情が変わります。

買収する企業や金融機関、専門家は、

「本当に現在の株主はこの人なのか」

を慎重に確認します。

株券の交付履歴が確認できなかったり、株券そのものが紛失していたりすると、株式の帰属が不明確となり、M&Aそのものが延期または中止になることもあります。

経営者にとっては、普段意識していない部分だからこそ、重大なリスクになりやすいのです。

株券不発行会社への変更はそれほど難しくない

もし現在も株券発行会社であるならば、株券不発行会社へ移行することも選択肢になります。

必要となるのは、

・定款変更の特別決議

・公告または株主への通知

・法務局への変更登記

など一定の手続きです。

もちろん会社ごとの事情はありますが、株券管理に伴うリスクを考えると、専門家へ相談しながら移行を検討する価値は十分にあるでしょう。

税理士も会社法の確認役になる時代

税理士は税金だけを見る専門家ではありません。

顧問先企業の事業承継や株式移転、相続対策に関わる機会は年々増えています。

その際、

「株券はありますか」

「株券発行会社ですか」

という一言を確認するだけで、大きなトラブルを未然に防げることがあります。

会社法上の手続きは司法書士や弁護士の専門分野ですが、最初に問題へ気付くのは顧問税理士であるケースも少なくありません。

だからこそ、税務だけでなく会社法の基本知識も備えた総合的な経営支援が、これからの税理士には求められるのではないでしょうか。

結論

株券発行会社であることは、現在では例外的な制度となっています。

それでも昔から続く中小企業では、何十年も見直されないまま株券発行会社であり続けているケースがあります。

普段は問題にならなくても、事業承継やM&A、相続といった重要な場面では、大きなリスクとなって表面化する可能性があります。

自社が株券発行会社なのか、それとも株券不発行会社なのか。

この機会に一度確認してみることが、将来の経営リスクを減らす第一歩になるでしょう。

参考

企業実務 2026年7月号

株券発行会社であることのリスク

タイトルとURLをコピーしました