親の介護が必要になり、介護保険の利用を申請したものの、なかなか認定結果が届かないという声を耳にします。
介護保険法では、市区町村は原則として申請から30日以内に要介護認定を行うこととされています。しかし実際には、30日以内に認定が完了するケースは少なく、多くの自治体で40日以上かかることも珍しくありません。
なぜ法律で定められた期間内に終わらないのでしょうか。その背景には、高齢化の進展と複雑な認定手続きの実態があります。
今回は要介護認定が長期化する理由について考えてみます。
要介護認定は想像以上に複雑な手続き
要介護認定は単純な申請手続きではありません。
申請後、市区町村は認定調査員を派遣し、本人の心身の状態や日常生活能力を調査します。その後、主治医から意見書を取り寄せ、医療面からも状態を確認します。
さらに介護や医療の専門家で構成される介護認定審査会で審査が行われ、最終的な認定結果が決定されます。
つまり一人の認定のために、
- 本人・家族
- 調査員
- 主治医
- 市区町村職員
- 認定審査会委員
という多くの関係者が関わっています。
そのため、一つの工程が遅れるだけでも全体の日程に大きく影響します。
最大のボトルネックは主治医意見書
認定手続きが遅れる最大の理由の一つが主治医意見書です。
市区町村は申請を受けると主治医へ意見書の作成を依頼します。しかし医師は日々の診療で多忙を極めています。
診療の合間に書類を作成し、郵送する必要があるため、意見書の到着まで数週間かかることもあります。
厚生労働省の調査では、依頼から意見書到着まで平均17日以上を要しています。
30日という認定期間のうち半分以上がここで費やされている計算になります。
高齢化による申請件数の増加
認定件数そのものが増え続けていることも大きな要因です。
日本では75歳以上人口が増加を続けています。
要介護認定を必要とする高齢者も増え、市区町村には膨大な申請が寄せられています。
一方で自治体職員の人数は大幅に増えているわけではありません。
限られた人員で処理するため、どうしても認定業務が滞りやすくなります。
都市部では特に申請件数が多く、認定までの待機期間が長くなる傾向があります。
認定調査員や審査会委員も不足している
介護人材不足は認定業務にも影響しています。
認定調査を行う職員や委託事業者の確保が難しくなっています。
また認定審査会の委員である医師や看護師、介護専門職も本来業務が忙しく、日程調整に時間がかかることがあります。
審査会は複数の専門家が参加して開催されるため、一人の都合だけでは進められません。
結果として認定手続き全体が長期化してしまうのです。
紙と郵送中心の仕組みが残っている
現在でも多くの自治体では、
- 主治医意見書
- 認定調査票
- 審査会資料
などが紙で管理されています。
医療機関とのやり取りも郵送やファクスが中心です。
書類作成、発送、到着確認という作業が繰り返されるため、どうしても時間がかかります。
民間企業では当たり前となったオンライン共有が十分に進んでいないことも認定期間長期化の一因となっています。
家族にとっては待機期間が最も苦しい
認定が遅れる問題は単なる事務手続きの問題ではありません。
家族にとっては介護サービス利用開始の遅れにつながります。
仕事を続けながら介護をしている人にとっては、認定結果を待つ期間が大きな負担になります。
「いつ利用できるのか分からない」
「今どこまで進んでいるのか分からない」
という不安を抱えながら過ごすことになります。
介護離職や介護疲れの背景には、この待機期間の問題も存在しています。
デジタル化が解決の糸口になる
厚生労働省は2028年度までに認定手続きのデジタル化を進める方針です。
主治医意見書の電子化や審査資料のオンライン共有により、手続き期間を短縮することを目指しています。
また利用者自身が進捗状況を確認できる仕組みも導入される予定です。
認定制度そのものを変えるわけではありませんが、事務処理の効率化によって利用者と家族の負担軽減が期待されています。
結論
要介護認定が30日以内に終わらない理由は、主治医意見書の取得、高齢化による申請件数の増加、人材不足、そして紙中心の業務運営が重なっているためです。
認定制度は公平性を確保するため慎重な審査が必要ですが、利用者や家族にとっては迅速な対応も欠かせません。
今後のデジタル化によって認定期間の短縮が進めば、介護を必要とする人が必要な支援をより早く受けられる社会に近づくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年6月22日 朝刊
「介護認定をデジタル化 28年度までに 郵送やめ手続き短縮」