中小企業経営者の高齢化が進むなか、事業承継は日本経済全体の大きな課題となっています。
後継者への株式や事業用資産の引継ぎに伴う税負担を軽減するために設けられたのが事業承継税制です。令和8年度税制改正では、法人版・個人版ともに特例承継計画の提出期限が延長され、制度を活用できる期間が広がりました。
しかし、この制度は「使えば得をする節税制度」と単純に考えてよいものではありません。
事業承継税制の本質は税金対策ではなく、会社を次世代へ引き継ぐための経営戦略にあります。
事業承継税制とは何か
事業承継税制は、非上場会社の株式や事業用資産を後継者へ承継する際に発生する贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
特例措置では贈与税・相続税ともに100%の納税猶予が認められています。
一見すると非常に有利な制度に見えます。
実際、株価の高い優良企業では、相続税負担が数千万円から数億円になることもあります。その負担を回避できる効果は極めて大きいといえます。
しかし、制度利用後には継続的な報告義務や要件管理が必要となります。
単なる節税制度として考えると、後々大きな負担となる可能性があります。
最大の目的は税金ではなく会社の存続
経営者が事業承継税制を検討する際、多くの場合は税額に目が向きます。
しかし本来の目的は会社を存続させることです。
どれほど税金が安くなっても、
・後継者が育っていない
・経営権が安定していない
・取引先との関係が引き継がれていない
という状態では意味がありません。
会社の価値は株式だけではなく、
人材
顧客
技術
信用
という目に見えない資産によって支えられています。
承継すべきものは株式よりも経営そのものなのです。
期限延長が意味するもの
今回の税制改正では、特例承継計画の提出期限が延長されました。
法人版は令和9年9月末、個人版は令和10年9月末までとなっています。
この延長は単なる事務手続きの猶予ではありません。
国は中小企業経営者に対して、
「慌てて承継するのではなく、しっかり準備してください」
というメッセージを送っているとも考えられます。
承継は一度実行すると簡単にはやり直せません。
時間的余裕ができた今こそ、後継者育成や経営体制整備を進めるべきでしょう。
税理士に求められる役割も変わる
従来の税理士の役割は、
「相続税をいくら減らせるか」
を説明することでした。
しかし今後は、
「どのように会社を次世代へ引き継ぐか」
を経営者と一緒に考えることが求められます。
事業承継は税務だけで完結しません。
経営
人事
相続
家族関係
資金繰り
金融機関対応
など多くの要素が関係します。
税理士も申告業務だけでなく、承継の伴走者としての役割が重要になっていくでしょう。
後継者不足より深刻な問題
現在、後継者不足が社会問題となっています。
しかし実際には後継者候補がいても承継が進まないケースが少なくありません。
理由は経営者自身が決断できないからです。
長年築いてきた会社を手放すことは簡単ではありません。
しかし経営者が高齢化するほど、
取引先
従業員
金融機関
は将来への不安を感じ始めます。
事業承継で最も難しいのは税金ではなく経営者自身の決断なのです。
結論
事業承継税制は非常に有効な制度です。
しかし本当の目的は税金を減らすことではありません。
会社を次世代へ引き継ぎ、従業員や取引先、地域経済を守ることにあります。
制度を利用するかどうかは重要ですが、それ以上に重要なのは承継後の未来を描くことです。
事業承継税制は節税制度ではなく、会社の未来を設計するための経営戦略として考えるべき時代に入っています。
参考
令和8年度税制改正(中小企業・小規模事業者関係)の主な内容 中小企業庁財務課 令和8年5月29日
所長のミカタ 2026年6月20日閲覧