税務調査で重加算税が問題になると、よく聞かれる言葉があります。
「税理士に任せていたのだから大丈夫だと思っていた」
確かに多くの納税者は専門家である税理士に依頼し、申告書を作成してもらっています。
そのため、
「税理士が作った申告書なのだから責任は税理士にあるのではないか」
と考える人も少なくありません。
しかし、税務調査の実務では必ずしもそうなりません。
実際には税理士が関与していても重加算税が課されるケースは数多く存在します。
では、税理士と納税者の責任はどのように区分されるのでしょうか。
今回は重加算税と責任区分の問題について考えてみます。
重加算税の対象は納税者である
まず押さえておきたいのは、重加算税が課される相手です。
重加算税は税理士ではなく納税者に課されます。
なぜなら、納税義務を負うのは納税者本人だからです。
税理士は申告を支援する専門家ですが、納税義務者ではありません。
そのため、
本税
延滞税
加算税
重加算税
はいずれも納税者本人に課されます。
ここが多くの人が誤解しやすいポイントです。
税理士は事実を作ることができない
税理士は申告書を作成します。
しかし、申告の基礎となる事実を作ることはできません。
例えば、
売上があったか
預金が存在するか
財産を誰が管理していたか
という事実は納税者しか知りません。
税理士は納税者から提供された資料や説明を前提に申告書を作成しています。
そのため、
存在を知らされていない預金
隠されていた売上
説明されていない財産
まで把握することは通常困難です。
税理士の関与があっても重加算税が課される理由はここにあります。
税理士がいても重加算税になる典型例
実務でよくあるケースがあります。
例えば相続税申告です。
相続人が家族名義口座の存在を税理士に伝えなかった場合です。
税理士は提出された資料を基に申告します。
その後の税務調査で名義預金が発見されると、
なぜ申告しなかったのか
相続人は存在を認識していたのか
という点が問題になります。
もし相続人が意図的に説明しなかったと判断されれば、重加算税の対象となる可能性があります。
税理士が関与していた事実だけでは免責されないのです。
税理士が原因となるケースもある
一方で、すべてが納税者責任というわけでもありません。
税理士の誤った判断が原因となることもあります。
例えば、
税法解釈の誤り
財産評価の誤り
制度適用の誤り
などです。
このようなケースでは過少申告加算税が問題になることはありますが、通常は重加算税には直結しません。
なぜなら、そこに隠蔽や仮装が存在しないからです。
重加算税の本質は不正行為であり、単なる判断ミスではないのです。
税務署が見ているのは誰が隠したか
税務調査で重要なのは、
誰が何を知っていたか
です。
税務署は、
税理士が知っていたのか
納税者だけが知っていたのか
双方が知っていたのか
を確認します。
例えば、
納税者が意図的に資料を隠した場合
納税者が虚偽説明をした場合
帳簿を改ざんした場合
などは納税者側の責任が強くなります。
逆に税理士にすべて開示していたのであれば、重加算税認定のハードルは高くなります。
税務署は結果だけではなく、その過程を見ているのです。
税理士が最も恐れる言葉
税務調査の現場で税理士が最も警戒する言葉があります。
それは、
「実は他にも通帳があります」
「この口座は言っていませんでした」
「この売上は別管理でした」
という言葉です。
調査の途中で初めて事実が明らかになると、税理士自身も対応が難しくなります。
なぜなら、その瞬間に問題は税法解釈から隠蔽・仮装の領域へ移るからです。
重加算税の危険信号は、税理士より先に納税者が持っていることが多いのです。
本当に重要なのは信頼関係
税理士と納税者の関係は医師と患者の関係に似ています。
正しい診断のためには正しい情報が必要です。
一部の情報を隠したままでは、適切な申告もできません。
税理士が優秀かどうか以前に、
全ての情報を開示しているか
が重要になります。
重加算税案件の多くは、税法の難解さではなく情報共有の不足から生まれています。
税理士ができる最大の防御策
税理士が重加算税リスクを下げるために行っていることがあります。
それは、
財産一覧の確認
通帳確認
家族名義口座の確認
資金移動の確認
です。
経験豊富な税理士ほど細かく質問します。
それは疑っているからではありません。
後になって大きな問題になることを知っているからです。
税理士の質問が多いのは、防御のためでもあるのです。
結論
税理士が関与していても重加算税が防げないケースは少なくありません。
なぜなら、重加算税の本質は税法解釈ではなく隠蔽や仮装という事実認定だからです。
税理士は申告書を作成できますが、納税者しか知らない事実までは把握できません。
そのため、税務調査で問われるのは申告書の出来栄えだけではなく、納税者がどれだけ正確な情報を開示していたかです。
重加算税を防ぐ最大の方法は優秀な税理士を探すことだけではありません。
税理士との信頼関係を築き、財産や取引の実態を正確に共有することです。
税務調査で最後に守ってくれるのは申告書ではなく、事実と信頼なのです。
参考
税のしるべ 2026年6月15日
連載「続・傍流の正論~税相を斬る」弁護士・税理士 品川芳宣
「第94回/重加の論点①、二重処罰」