これまでの連載で、
報酬給与額
純支払利子
純支払賃借料
について解説してきました。
外形標準課税の付加価値額は、これらに加えて「単年度損益」で構成されています。
しかし、多くの経営者にとって最も分かりにくいのがこの単年度損益です。
利益なら分かる。
赤字なら分かる。
しかし、
「なぜ利益が付加価値になるのか」
「なぜ赤字でも課税されることがあるのか」
となると混乱してしまいます。
今回は付加価値額の最後のピースである単年度損益について考えてみます。
単年度損益とは何か
単年度損益とは、その事業年度における利益または損失です。
ただし、通常の会計上の利益と完全に同じではありません。
外形標準課税では、
繰越欠損金控除前
の所得を基準として考えます。
つまり、
過去の赤字
ではなく
今年の経営成績
を重視しているのです。
ここが重要なポイントです。
なぜ利益を加えるのか
外形標準課税は、
給与
利息
家賃
だけでは完成しません。
なぜなら企業が生み出した価値の全てが外部へ分配されるわけではないからです。
従業員へ支払う部分もあります。
銀行へ支払う部分もあります。
大家へ支払う部分もあります。
そして企業内部に残る部分もあります。
その企業内部に残る価値が利益です。
つまり利益も付加価値の一部なのです。
付加価値額の全体像
付加価値額は次のような構造になっています。
従業員への分配
=報酬給与額
金融機関への分配
=純支払利子
不動産所有者への分配
=純支払賃借料
企業内部への留保
=単年度損益
これらを合計したものが付加価値額になります。
つまり付加価値額とは、
企業が一年間で生み出した価値の総額
なのです。
利益が大きい会社は付加価値額も大きい
例えば、
給与1億円
純支払利子500万円
純支払賃借料1,500万円
利益5,000万円
であれば、
付加価値額は1億7,000万円になります。
利益が増えれば増えるほど、付加価値額も大きくなります。
これは企業内部に残る価値が増えているからです。
外形標準課税は、
儲かっている会社ほど価値を生み出している
という考え方も取り入れているのです。
赤字でも付加価値は存在する
ここが外形標準課税の特徴です。
例えば、
給与1億円
純支払利子500万円
純支払賃借料1,500万円
損失3,000万円
という会社があったとします。
利益はマイナスです。
しかし従業員へ給与を支払い、
金融機関へ利息を支払い、
家主へ家賃を支払っています。
つまり企業活動は続いています。
社会へ価値も提供しています。
そのため赤字であっても付加価値額はゼロにはなりません。
ここが法人税との決定的な違いです。
なぜ繰越欠損金を考慮しないのか
経営者からよく質問されるのが、
「過去の赤字があるのに、なぜ考慮されないのか」
という点です。
法人税では繰越欠損金制度があります。
過去の赤字を将来の黒字と相殺できます。
しかし外形標準課税は、
今年どれだけ活動したか
を測る制度です。
過去の赤字は過去の問題です。
今年生み出した価値とは直接関係ありません。
そのため繰越欠損金控除前の所得を使うのです。
赤字企業へのメッセージ
外形標準課税には一つのメッセージがあります。
それは、
利益だけが企業価値ではない
ということです。
たとえ赤字でも、
雇用を守っている
地域経済を支えている
取引先を支えている
のであれば価値を生み出しています。
会計上の利益だけで企業を評価してはいけない。
そうした考え方が制度の背景にあります。
人生100年時代の企業経営
人生100年時代になると、
短期利益
だけを追い求める経営は難しくなります。
人材育成
研究開発
設備投資
ブランド構築
こうした投資は短期的には利益を圧迫します。
しかし長期的には大きな価値を生みます。
外形標準課税の付加価値額という考え方は、
企業の長期的価値
を見る視点にも通じています。
AI時代に残る企業価値とは
AIが業務を代替しても、
価値そのものは消えません。
むしろ、
どれだけ価値を生み出したか
がより重要になります。
給与
利息
家賃
利益
という四つの視点で企業を見る外形標準課税は、
AI時代の企業価値を考えるヒントにもなります。
数字の背景にある価値創造を理解することが重要なのです。
税理士に求められる説明力
単年度損益は単なる計算項目ではありません。
企業が生み出した価値のうち、
内部に残った部分
を示しています。
税理士は、
なぜ利益が付加価値になるのか
なぜ赤字でも付加価値が存在するのか
なぜ繰越欠損金を考慮しないのか
を説明できる必要があります。
その理解があると、経営者との会話も大きく変わります。
結論
単年度損益は付加価値額を構成する最後の要素です。
給与、利息、家賃が外部への価値分配を表すのに対し、単年度損益は企業内部に残る価値を表しています。
そのため赤字であっても付加価値額がゼロになるとは限りません。
外形標準課税は利益だけを見る制度ではなく、企業が一年間で生み出した価値全体を把握しようとする制度なのです。
参考
近畿税理士会
「税法実務講座(法人税)事業税の外形標準課税対象法人の申告の基礎② 外形標準課税対象法人の付加価値割の基礎」