近年、相続対策や資産承継の手段として相続時精算課税制度を活用する人が増えています。令和6年からは年間110万円の基礎控除が創設され、従来よりも利用しやすい制度へと変わりました。
一方で、この制度には大きな課題がありました。それは、「過去にどれだけ贈与したのか分かりにくい」という点です。
国税庁は2026年9月下旬以降、e-Taxマイページの機能を拡充し、相続時精算課税の適用状況などを確認できる仕組みを導入します。今回は、この新機能がどのような意味を持つのか、そして今後の相続・贈与実務にどのような影響を与えるのかを考えてみます。
相続時精算課税制度の管理は意外と難しい
相続時精算課税制度は、親や祖父母から子や孫へ財産を生前移転しやすくするための制度です。
しかし、この制度を利用すると、その後の贈与履歴を長期間管理し続けなければなりません。
例えば、60歳の親から30歳の子へ贈与した場合、親が亡くなるまで20年、30年と管理が続くこともあります。
その間に、
・申告書の控えを紛失する
・過去の贈与額を忘れる
・税理士が変更になる
・相続発生時に家族が把握できない
といった問題が発生します。
相続時精算課税制度は利用時よりも、むしろ相続発生時の確認作業が重要な制度といえるでしょう。
e-Taxマイページで何が確認できるのか
今回の機能追加で最も注目されるのが「相続時精算課税適用状況」です。
利用者は、
・特定贈与者の氏名
・制度適用開始年分
・過去の申告年分
・財産価額の合計額
・相続時精算課税分の贈与税額
などを確認できるようになります。
これまで紙の申告書や個人の記録に頼っていた情報が、電子的に一覧で確認できるようになる意義は非常に大きいといえます。
特に長期間にわたる贈与履歴の管理においては、資産承継の透明性向上につながるでしょう。
税務行政のデジタル化がさらに進む
今回の改正では相続時精算課税だけではありません。
「更正・決定の通知情報」も閲覧可能になります。
税務署から送付された更正通知書や決定通知書の情報を電子的に確認できるため、過去の税務処理の履歴を整理しやすくなります。
さらに、「書面申告提出状況」も表示されます。
これにより、過去に紙で提出した贈与税申告書についても提出記録を確認できるようになります。
デジタル申告だけでなく、紙申告の履歴も一元管理されることは、利用者にとって大きな利便性向上といえるでしょう。
相続実務は「記憶」から「データ」へ
相続手続きの現場では、
「昔にいくら贈与したのか分からない」
「申告書が見つからない」
「親しか内容を知らない」
というケースが少なくありません。
しかし今後は、e-Taxマイページが事実上の資産承継履歴管理システムとして機能する可能性があります。
特に人生100年時代では、生前贈与期間が20年、30年に及ぶことも珍しくありません。
長期間の記録を個人の記憶だけで管理することには限界があります。
だからこそ、国税庁によるデータ管理の重要性は今後ますます高まるでしょう。
税理士との情報共有も変わる
今回の機能拡充では、委任関係の登録を行った税理士も納税者のマイページ情報を参照できるようになります。
これは実務上大きな意味を持ちます。
相続税申告の際、
・過去の贈与履歴確認
・相続時精算課税の適用状況確認
・贈与税申告履歴の確認
などがスムーズになるためです。
将来的には税理士が過去の申告状況をより正確に把握できる環境が整い、申告漏れや確認ミスの防止にもつながることが期待されます。
人生100年時代の資産承継戦略
人生100年時代では、生前贈与の重要性がますます高まっています。
その一方で、生前贈与は「実行すること」よりも「記録を残すこと」の方が重要になる場面があります。
相続時精算課税制度は、まさにその代表例です。
制度が便利になればなるほど、将来の相続時に正確な履歴管理が求められます。
今回のe-Taxマイページの機能強化は、単なるシステム改修ではありません。
日本の相続・贈与管理が紙中心からデータ中心へ移行する象徴的な一歩ともいえるでしょう。
結論
2026年9月下旬から始まるe-Taxマイページの機能拡充は、相続時精算課税制度を利用している人にとって大きなメリットとなります。
これまで管理が難しかった贈与履歴や申告情報が電子的に確認できることで、相続時の負担軽減や税務手続きの効率化が期待されます。
人生100年時代において重要なのは、財産を移転することだけではありません。その履歴を正確に管理し、次世代へ確実に引き継ぐことです。
e-Taxマイページの進化は、これからの相続・贈与のあり方を大きく変える第一歩になるのではないでしょうか。
参考
税のしるべ
2026年06月08日
「9月下旬以降にe-Taxマイページの贈与税関係で閲覧できる情報を追加、相続時精算課税の適用状況」