日本はこれから本格的な「実家じまいの時代」を迎えます。
総務省の住宅・土地統計調査によると、2023年時点で全国の空き家は約900万戸に達しました。人口減少と高齢化が進むなか、今後も増加が見込まれています。
かつて家は子どもが引き継ぐものでした。しかし現代では、子どもが都市部に定住し、親世代だけが地方に残るケースが珍しくありません。
その結果、親が亡くなった後や施設に入居した後に、誰も住まない実家が残されるようになりました。
空き家問題は単なる不動産問題ではありません。
相続、介護、認知症、家族関係、地域社会など、多くの課題が重なり合う現代社会の縮図でもあります。
本シリーズの総括として、実家じまいの時代に何を考えるべきかを整理してみたいと思います。
空き家問題はなぜ増えているのか
空き家が増加している背景には人口減少だけではなく、社会構造の変化があります。
子どもが親元を離れて生活することが一般化し、実家を継ぐ人が減りました。
さらに高齢者の単身世帯も増えています。
親が亡くなった後、相続人は遠方に住んでいることも多く、実家の管理が難しくなります。
かつて資産だった家が、維持費や管理責任を伴う存在へと変わりつつあるのです。
相続後に始まる現実
相続が発生すると、多くの人は初めて実家の問題に直面します。
固定資産税の支払い。
草刈りや建物管理。
近隣対応。
老朽化への対処。
これらは相続した瞬間から所有者の責任になります。
特に共有相続の場合には、
・売却するか
・残すか
・貸すか
で兄弟間の意見が分かれることがあります。
空き家問題の本質は建物ではなく家族関係にあるともいわれます。
制度だけでは解決できない
近年は空き家対策としてさまざまな制度が整備されています。
相続登記の義務化。
相続土地国庫帰属制度。
空き家バンク。
管理不全空家制度。
これらは重要な制度ですが、制度だけで問題は解決しません。
なぜなら空き家問題の出発点は法律ではなく家族の意思決定だからです。
制度はあくまで手段であり、家族の話し合いに代わるものではありません。
売る、貸す、解体するという選択
空き家になった実家には大きく三つの選択肢があります。
売却する。
賃貸活用する。
解体する。
売却は管理負担から解放されます。
賃貸は収益化の可能性があります。
解体は安全性を高めます。
しかし、どの選択肢にも費用やリスクがあります。
重要なのは「何が正解か」ではなく、その家にとって最適な方法を選ぶことです。
認知症がもたらす資産凍結
近年特に注目されているのが認知症の問題です。
親が認知症になると、不動産の売却が難しくなる場合があります。
施設入居費用のために実家を売りたくても、本人の意思確認ができなければ手続きが進まないことがあります。
この問題は資産凍結と呼ばれています。
そのため、
・家族信託
・任意後見契約
・生前の売却準備
などが重要視されるようになりました。
空き家対策は認知症対策でもあるのです。
施設入居は空き家問題の始まり
空き家問題は親が亡くなった後だけの話ではありません。
実際には施設入居の段階から始まることがあります。
親が介護施設へ入居すると、実家は事実上の空き家になります。
戻る可能性が低いにもかかわらず、
「とりあえずそのまま」
という状態が何年も続くことがあります。
その間にも建物は老朽化し、管理負担は増えていきます。
住み替えは介護の問題であると同時に、不動産の問題でもあるのです。
最も重要なのは生前の話し合い
本シリーズを通じて見えてきた最大の教訓があります。
それは、問題が起きてからでは選択肢が少なくなるということです。
親が元気なうちに、
・実家をどうするのか
・誰が管理するのか
・売却する可能性はあるのか
・施設入居時はどうするのか
を話し合っておくことが重要です。
生前対策は相続対策であり、空き家対策でもあります。
そして何より家族対策でもあります。
人生100年時代の実家との向き合い方
人生100年時代において、実家との関係は大きく変わりました。
かつては残すことが前提でした。
しかし今は、
残す。
売る。
貸す。
解体する。
信託する。
さまざまな選択肢があります。
大切なのは「家を残すこと」ではありません。
家族が将来困らないようにすることです。
実家は思い出の場所ですが、同時に管理責任を伴う資産でもあります。
感情と現実の両方を見ながら判断することが求められています。
結論
空き家問題は不動産の問題ではなく、家族と人生設計の問題です。
相続登記や家族信託、空き家バンクなどの制度は重要ですが、それ以上に大切なのは家族が早い段階から将来について話し合うことです。
親が元気なうちに方向性を共有しておけば、相続後の負担やトラブルは大きく減らすことができます。
実家じまいの時代とは、家を処分する時代ではありません。
家族が将来に向けて準備を始める時代なのです。
空き家問題への最大の対策は、制度でも不動産会社でもなく、家族の対話なのかもしれません。
参考
・総務省 令和5年住宅・土地統計調査
・法務省 相続登記義務化関連資料
・法務省 相続土地国庫帰属制度関連資料
・法務省 成年後見制度に関する資料
・法務省 民事信託(家族信託)関連資料
・国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法関連資料
・日本経済新聞 2026年6月6日朝刊「実家じまい、代行広がる 物件買い取りから遺品処分を一括 子世代、負担減で重宝」
・日本経済新聞 2026年6月6日朝刊「空き家、全国で900万戸 売却時、複数事業者に査定依頼を」