人生100年時代を迎え、資産形成の方法は大きく変化しています。
かつて個人投資家の多くは対面型の証券会社を利用していました。しかし現在は、スマートフォン一つで株式や投資信託を売買できるネット証券が主流になりつつあります。
新NISAの普及もあり、若い世代だけでなく高齢者の利用も増えています。
一方で、資産管理がデジタル化したことで、相続の現場には新たな課題も生まれています。
今回は、ネット証券時代の相続について考えてみたいと思います。
ネット証券が当たり前になった時代
近年の資産運用では、ネット証券の存在感が急速に高まっています。
口座開設から取引までオンラインで完結し、手数料も低いことから、多くの投資家が利用しています。
特に新NISA制度開始後は、
・投資信託
・ETF
・国内株式
・外国株式
などをネット証券で保有する人が大幅に増えました。
人生100年時代では、退職後も長期間にわたり資産運用を続ける人が増えています。
その結果、高齢者の相続財産の中にネット証券口座が含まれるケースも珍しくなくなりました。
相続人が口座の存在に気付かない問題
ネット証券時代の最大の問題は「見えない資産」です。
銀行口座であれば通帳やキャッシュカードが残ります。
しかしネット証券の場合、
・通帳がない
・郵送物が少ない
・店舗がない
という特徴があります。
そのため、相続人が口座の存在そのものを知らないケースが発生します。
実際には数百万円、場合によっては数千万円の資産が残されていても、相続人が把握できなければ手続きは始まりません。
相続財産の調査そのものが難しくなっているのです。
NISA口座も相続財産になる
新NISAで保有している資産も当然に相続財産になります。
ただし、NISAの非課税枠そのものを相続人が引き継ぐことはできません。
被相続人が保有していた株式や投資信託は相続財産として引き継がれますが、その後は相続人名義の一般口座や特定口座などで管理されることになります。
つまり、
「NISAの資産は相続できる」
一方で、
「NISAの非課税制度そのものは相続できない」
という点を理解しておく必要があります。
海外資産の相続も増えていく
ネット証券の普及によって、個人でも簡単に海外資産へ投資できるようになりました。
現在では、
・米国株
・海外ETF
・外国債券
などを保有している人も少なくありません。
しかし海外資産は国内資産よりも相続手続きが複雑になる場合があります。
証券会社による手続きの違いもあり、必要書類や期間も長くなることがあります。
人生100年時代では資産の国際化が進むため、将来的には相続の国際化も進む可能性があります。
デジタル終活が重要になる理由
ネット証券時代の相続対策として重要なのがデジタル終活です。
まず必要なのは、
・どこの証券会社に口座があるのか
・どの銀行を利用しているのか
・どのサービスを利用しているのか
を一覧化することです。
パスワードそのものを残す必要はありません。
しかし最低限、
「どこに口座があるのか」
という情報だけでも家族に伝えておくことが大切です。
口座の存在が分かれば、相続人は正式な手続きを進めることができます。
相続手続きはむしろ簡素化される面もある
ネット証券というと手続きが難しそうに感じます。
しかし実際には、相続手続きのデジタル化も進んでいます。
戸籍の取得方法や本人確認の電子化が進み、将来的には多くの手続きがオンラインで完結する可能性があります。
つまり、
資産管理はデジタル化する
相続手続きもデジタル化する
という流れが同時に進んでいるのです。
今後は「相続人が口座の存在を把握していること」が最も重要なポイントになるでしょう。
財産目録の重要性が高まる
人生100年時代では相続期間も長くなります。
退職後20年、30年にわたり資産運用を続ける人も増えています。
その結果、
・銀行口座
・証券口座
・電子マネー
・ポイント
・暗号資産
など、資産の種類はますます多様化します。
だからこそ財産目録の重要性は高まっています。
紙一枚でも構いません。
どこに何を保有しているのかを整理しておくだけで、家族の負担は大きく軽減されます。
結論
ネット証券時代の相続では、財産そのものよりも「財産の所在を把握できるか」が重要になります。
通帳や店舗が存在しないデジタル資産は、相続人が気付かなければ存在しないのと同じになってしまいます。
人生100年時代では、資産形成のデジタル化と相続のデジタル化が同時に進んでいきます。
その中で最も大切なのは、資産を増やすことだけではなく、家族が引き継げる状態にしておくことです。
ネット証券時代の相続対策とは、遺産分割の工夫だけではありません。
資産の見える化こそが、新しい時代の相続準備なのです。
参考
日本経済新聞 2026年6月3日夕刊「マネー相談 黄金堂パーラー〉終活(下)デジタル遺品 リスト化、不要な口座は解約」
日本経済新聞 2026年6月3日夕刊「SNS『追悼アカウント』も」