これまで、実務編・経営者編・内部統制編と、経理詐欺への対策を整理してきました。
しかし、どれだけ理解していても、現場で実行できなければ意味がありません。
重要なのは、「自社は本当に大丈夫か」を具体的に点検することです。
本稿では、経理部門・経営者がすぐに使える実務チェックリストとして整理します。
チェック結果はそのまま改善アクションにつなげることを前提としています。
社長・経営者に関するチェック
まず最も重要なのは、社長の関与に関する点検です。
- 金銭に関する指示は直接確認するルールが明文化されている
- メールやチャットのみで送金指示を出さない運用になっている
- 経理担当者が社長に直接確認できる雰囲気がある
- 夜間・休日でも確認をためらわない文化がある
- 確認を行ったことが評価される風土になっている
1つでも曖昧な場合、詐欺リスクは高い状態です。
支払承認フローのチェック
次に、支払プロセスの統制を確認します。
- 振込依頼の作成者と承認者が分離されている
- 最終承認者が内容を実質的に確認している
- ダブルチェックが形骸化していない
- 緊急時でも通常フローを通すルールになっている
- 即日送金が原則禁止または制限されている
特に「緊急時の扱い」が曖昧な企業は要注意です。
例外処理ルールのチェック
詐欺は必ず例外処理を狙ってきます。
- 例外時の対応ルールが明文化されている
- 「至急」「極秘」などの指示でもフローを省略しない
- 例外時には追加確認(電話・書面)が義務付けられている
- 個人判断で処理できない仕組みになっている
例外処理が“その場判断”になっている場合、ほぼ確実にリスクが存在します。
システム統制のチェック
人の判断だけに依存しない仕組みを確認します。
- 1人で振込実行ができない設定になっている
- 振込限度額が設定されている
- 未登録口座への送金に制限がある
- インターネットバンキングの権限管理が適切
- 振込先の変更は別承認が必要
「だまされても止まる仕組み」があるかがポイントです。
経理部内の運用・文化のチェック
見落とされがちですが、非常に重要なポイントです。
- 違和感を共有できる雰囲気がある
- 上司や同僚に相談しやすい環境がある
- 情報共有が日常的に行われている
- 特定の担当者に業務が集中していない
- 定期的にリスク事例を共有している
詐欺は「孤立した担当者」を狙います。
被害発生時の初動対応チェック
万が一に備えた体制も必須です。
- 取引銀行への連絡手順が明確
- 緊急連絡先がすぐに分かる
- 証拠保全の手順が決まっている
- 社内報告ルートが明確
- 緊急対応チームの体制が決まっている
初動対応はスピードがすべてです。
総合判定の目安
チェックの結果は、次のように判断できます。
- ほぼすべて〇:統制は有効に機能している
- 一部△あり:早急な改善が必要
- 複数×あり:重大なリスク状態
特に以下が×の場合は優先対応が必要です。
- 社長確認ルールがない
- 例外処理ルールが曖昧
- 1人で振込できる
結論
経理詐欺対策は、難しいものではありません。
重要なのは、「できているつもり」を排除し、具体的に点検することです。
- ルールがあるか
- 守られているか
- 仕組みで担保されているか
この3点を確認するだけで、リスクの大半は可視化できます。
そして最も重要なのは、対策を一度で終わらせないことです。
詐欺の手口は進化し続けます。
したがって、統制も見直し続ける必要があります。
このチェックリストを、定期的な点検ツールとして活用することが、実務上最も現実的な防衛策となります。
参考
企業実務 2026年5月号
実際に起きた経理にまつわる詐欺被害と実務防衛策