これまでの一連の記事では、経理の役割を「作業」から「価値創出」へと捉え直し、さらに経営関与や現場との関係、キャリア設計まで段階的に整理してきました。本稿では、それらを踏まえ、「これからの経理は何者になるのか」という問いに対する全体像を提示します。
経理の役割はなぜ変わるのか
経理の役割が変化している最大の要因は、テクノロジーの進化です。これまで人が担ってきた定型業務は、システムや生成AIによって自動化されつつあります。
この変化は単なる効率化にとどまりません。「人がやるべき仕事の中身」を再定義する動きです。従来のように、正確に処理すること自体が価値であった時代から、「何を考え、どう活用するか」が価値となる時代へと移行しています。
作業者からの脱却が出発点
シリーズの出発点は、「作業をこなすだけの状態から抜け出す」という問題意識でした。
ルーチンワークに埋もれた状態では、仕事の全体像を捉えることができず、価値を生み出す余地も限られます。しかし、目の前の処理に対して「なぜ」を問い、前後の流れを意識することで、業務は単なる作業から意味のある活動へと変わります。
この視点の転換が、すべての出発点となります。
経理の価値は「意味を与える力」にある
作業から一歩進んだ経理の役割は、数値に意味を与えることです。
同じ財務データであっても、その背景や要因を理解し、説明できるかどうかによって、価値は大きく変わります。数値を単なる結果として扱うのではなく、企業活動の動きを示す情報として解釈することが求められます。
ここで経理は、記録者から解釈者へと役割を広げていきます。
経営に関与する「意思決定支援者」へ
さらに進んだ段階では、経理は経営の意思決定を支える存在となります。
重要なのは、意思決定そのものを行うことではなく、その質を高めるための情報を提供することです。数値の妥当性を検証し、リスクや将来の見通しを示すことで、経営判断の精度を引き上げる役割を担います。
この段階において、経理は単なる分析者ではなく、意思決定支援者としての位置づけを確立します。
現場とつながることで価値が完成する
経理の役割が高度化するほど、現場との関係は重要になります。
数値の背景にある実態を理解しなければ、どれだけ高度な分析を行っても意味を持ちません。現場との対話を通じて、数値と実態を結びつけることで、経理の提供する情報は初めて実効性を持ちます。
ここで経理は、組織の中で「つなぐ役割」を担う存在となります。
キャリアは「選択」によって決まる
こうした役割の変化は、個人のキャリア設計にも直接影響します。
経理のキャリアは、自然に積み上がるものではなく、どの領域で価値を発揮するかという選択によって形作られます。専門性を深めるのか、経営に関与するのか、テクノロジーを活用するのか。その方向性によって求められるスキルも異なります。
重要なのは、自らの位置づけを意識的に決めることです。
これからの経理は何者になるのか
以上を踏まえると、これからの経理は次のように整理できます。
作業をこなす人ではなく、
数値を解釈する人でもなく、
最終的には、意思決定を支えるために「構造を理解し、意味を翻訳する人」です。
企業活動の流れを理解し、その結果としての数値を読み解き、経営や現場に伝える。この一連のプロセスを担う存在こそが、これからの経理の姿です。
結論
経理の役割は、「作業者」から「解釈者」、そして「意思決定支援者」へと進化しています。この変化は一部の人だけに求められるものではなく、経理という職種全体に共通する方向性です。
重要なのは、日々の業務の中でその変化を自覚し、小さな行動を積み重ねることです。目の前の作業に意味を見出し、数値の背景を考え、組織とのつながりを意識すること。この積み重ねが、経理の価値を大きく変えていきます。
これからの経理は何者になるのか。その答えは、与えられるものではなく、自らの選択によって形作られるものです。
参考
企業実務 2026年5月号
松岡俊「ただ『作業』をこなす自分から抜け出すために」