企業版ふるさと納税は、地方創生を目的とした制度として拡充されてきました。企業にとっては税負担の軽減と社会貢献を両立できる仕組みとして注目されています。
しかし令和7年度改正では、この制度に対して明確な規制強化が行われました。その背景には、制度の利用をめぐるガバナンス上の問題があります。
本稿では、企業版ふるさと納税に潜むリスクと、実務での留意点を整理します。
制度の本来の趣旨
企業版ふるさと納税は、企業が地方公共団体の実施する事業に寄附を行った場合に、法人税等の軽減措置が受けられる制度です。
この制度の本来の目的は、
- 地方創生の推進
- 民間資金の活用
- 地域と企業の連携
にあります。
したがって、本質的には「寄附」であり、「対価を伴わない支出」であることが前提となっています。
なぜ規制強化が行われたのか
今回の改正で規制が強化された背景には、制度の趣旨から逸脱する事例の発生があります。
具体的には、
- 寄附した資金が企業側に還流する
- 実質的に対価性を持つ取引となる
- 地方公共団体との癒着が疑われる
といった問題が指摘されてきました。
こうした事例は、制度の信頼性を損なうものであり、結果として規制強化につながっています。
改正のポイントは「透明性の確保」
令和7年度改正では、制度の適正な運用を確保するために、いくつかの措置が導入されています。
主な内容は次のとおりです。
- 事業実施状況の確認書面の提出義務
- 寄附企業との関係性のチェック強化
- 特定の場合における企業名の公表
これらの措置は、いずれも透明性を高めることを目的としています。
「寄附」と「見返り」の境界
実務で最も重要なのは、「寄附」と「見返り」の境界です。
制度上、寄附は無償であることが前提ですが、現実には企業側にとって何らかのメリットが生じることもあります。
例えば、
- 企業名の公表
- 地域との関係構築
- ブランドイメージの向上
などは許容される範囲と考えられます。
一方で、
- 特定の契約の受注
- 金銭的利益の還流
- 実質的な対価関係の存在
といった場合には、制度の趣旨を逸脱する可能性があります。
この線引きは明確ではないため、慎重な判断が求められます。
実務で問題となるケース
実務上問題となりやすいのは、次のようなケースです。
- 寄附と同時に業務委託契約が締結される
- 寄附先の事業に自社が関与する
- 特定の見返りを期待して寄附を行う
これらは形式的には問題がないように見えても、実質的に対価関係があると判断されるリスクがあります。
税務上のリスク
企業版ふるさと納税に関するリスクは、税務面にも及びます。
仮に寄附が対価性を有すると判断された場合、
- 寄附金としての扱いが否認される
- 損金算入の可否に影響する
- 税額控除の適用が認められない
といったリスクが生じます。
さらに、場合によっては課税関係の修正が必要となる可能性もあります。
ガバナンスの観点からのリスク
税務リスクに加えて、ガバナンス上のリスクも重要です。
企業版ふるさと納税は外部からの注目度が高く、
- 不適切な関係が疑われる
- コンプライアンス違反と評価される
- レピュテーションリスクが発生する
といった影響が考えられます。
特に上場企業や大企業にとっては、社会的評価への影響が無視できません。
実務での対応ポイント
これらのリスクを踏まえ、実務では次の点に注意する必要があります。
まず、寄附の目的と内容を明確にすることです。形式だけでなく、実質的に寄附であることを説明できる状態にしておく必要があります。
次に、地方公共団体との関係性を適切に管理することです。契約や取引との関係が疑われないように整理することが重要です。
さらに、社内での承認プロセスや記録を整備することも有効です。後から説明可能な状態を確保することが、リスク管理につながります。
制度は「使えるが、慎重さが必要」
企業版ふるさと納税は有用な制度である一方、その利用には慎重さが求められます。
制度のメリットだけで判断するのではなく、
- 税務リスク
- ガバナンスリスク
- 社会的評価
を総合的に考慮する必要があります。
結論
企業版ふるさと納税は、単なる税制優遇ではなく、企業の姿勢そのものが問われる制度です。
今後は、
- 制度を利用するかどうか
ではなく - どのように利用するか
が重要になります。
適切なガバナンスのもとで制度を活用することが、長期的な企業価値の向上につながります。
参考
東京税理士会 全国統一研修会資料 令和7年度法人課税改正関係資料(配布資料)