高齢者等終身サポート事業では、身元保証や日常生活支援、死後事務などを依頼するため、利用者がまとまったお金を事業者に預ける場合があります。
代表的なのが預託金です。
将来の医療費や介護費、葬儀費用、納骨費用、家財処分費用などに備えて、場合によっては100万円を超える資金を預けることがあります。
そこで考えておかなければならない問題があります。
預託金を預けた事業者が、利用者より先に倒産したらどうなるのでしょうか。
高齢者等終身サポート事業は長期間にわたる可能性があります。
契約時には経営状態が良好な会社でも、10年後や20年後まで存続しているとは限りません。
高齢者にとって預託金は大切な老後資金です。
だからこそ、サービス内容や料金だけでなく、預託金がどのように管理されているのかを確認することが重要になります。
預託金は将来使うためのお金
預託金とは、将来必要になる費用に備えて利用者があらかじめ預けておくお金です。
例えば葬儀や納骨のために100万円を預けたとします。
この100万円は、契約した時点ですぐに葬儀会社へ支払われるわけではありません。
本人が亡くなるまで保管され、必要になったときに契約内容に従って使われます。
利用者から見ると、自分の将来のために確保している資金です。
一方、事業者から見ると長期間管理する必要がある資金になります。
ここに預託金特有のリスクがあります。
本人が90歳で亡くなると仮定して、70歳で契約すれば20年間資金を管理する可能性があります。
その間、事業者が安定して経営を続けられるとは限りません。
事業者が倒産すると何が問題になるのか
例えば高齢者が将来の葬儀や納骨などのために150万円を事業者へ預けたとします。
ところが5年後、事業者の経営が悪化して倒産しました。
利用者はまだ元気で、預託金も使っていません。
当然、利用者としては150万円を返してほしいと考えるでしょう。
しかし、事業者が預託金をどのような方法で管理していたのかによって状況が大きく変わる可能性があります。
もし事業者自身の運営資金と同じように扱われ、すでに事業運営などに使われていたとすれば、会社には十分なお金が残っていない可能性があります。
預託金を返還してもらう権利があったとしても、会社そのものに返す資金がなければ全額を回収できない可能性があります。
契約上返してもらえることと、実際にお金を取り戻せることは別の問題なのです。
分別管理とは何か
そこで重要になるのが分別管理です。
分別管理とは、利用者から預かった預託金と事業者自身の財産を区別して管理することです。
例えば事業者が日常的な経費を支払う口座と、利用者から預かった預託金を管理する口座を分ける方法があります。
利用者ごとに預託金の残高を管理し、誰からいくら預かっているのかを明確にしておくことも重要です。
事業者が預託金を自社の売上と同じように扱えば、会社の経営が悪化したときに利用者のお金まで失われる危険があります。
そのため、預託金を事業者の運営資金と区分して管理することが利用者保護の基本になります。
口座を分けるだけですべて安全になるわけではない
ただし、分別管理という言葉だけで安心するのも適切ではありません。
事業者自身の名義の銀行口座を二つ作り、一方を預託金専用口座として使用しただけでは、倒産時に利用者のお金が完全に守られるとは限らないからです。
会計上や社内管理上、お金を区別していることと、倒産した場合にその資金が事業者の財産から法的に切り離されていることは同じではありません。
重要なのは、どのような仕組みによって資金が管理されているのかです。
単に別口座で管理しているのか。
第三者が管理に関与しているのか。
信託など事業者自身の財産から切り離す仕組みが利用されているのか。
事業者が倒産した場合に利用者がどのような方法で資金を取り戻せるのか。
預託金の安全性を見るときには、分別管理という言葉だけではなく、その具体的な方法を確認することが重要です。
預託金を運転資金に使うことの危険性
特に危険なのが、利用者から集めた預託金を事業者の運転資金として使うことです。
例えば利用者100人から1人100万円ずつ預託金を集めれば、合計1億円になります。
この1億円を会社の家賃や人件費、新規顧客獲得の広告費などに使えば、一時的には会社の資金繰りが楽になります。
しかし、そのお金は本来、将来利用者の葬儀や納骨などのために使う資金です。
新しい利用者から預かったお金で既存利用者への支払いを賄うような状態になれば、利用者が増えている間は問題が表面化しなくても、新規契約が減少したときに資金不足が一気に表面化する可能性があります。
高齢者等終身サポート事業では、サービスを提供する時期が契約から何年も先になる可能性があります。
だからこそ、預託金を現在の事業運営に使わない仕組みが重要になります。
第三者による管理も重要になる
預託金の安全性を高める方法として考えられるのが、第三者を利用した資金管理です。
事業者自身だけで資金を管理する場合、事業者の経営状態と預託金の安全性が密接に結びついてしまいます。
そこで、信託などを活用して資金を管理する方法が考えられます。
利用者のために確保した資金を事業者自身の財産から切り離すことができれば、事業者の経営が悪化した場合の影響を小さくできる可能性があります。
もちろん、どのような方法を採用すれば完全に安全になるという単純な話ではありません。
管理方法によって法的な効果や費用も異なります。
重要なのは、利用者から多額の資金を長期間預かる以上、事業者自身の信用力だけに依存しない仕組みを検討することです。
預託金が保全されてもサービスが続くとは限らない
もう一つ重要な問題があります。
仮に預託金そのものが安全に保全されていたとしても、事業者が倒産すれば契約していたサービスを受けられなくなる可能性があります。
例えば利用者が身元保証、見守り、死後事務を一つの事業者へ依頼していたとします。
預託金100万円が安全に返還されたとしても、事業者がなくなれば身元保証や死後事務を行う人はいなくなります。
利用者は新しい事業者を探して契約し直さなければなりません。
高齢になってから新しい事業者を探すことは大きな負担です。
すでに認知症などで判断能力が低下していれば、本人自身で新しい契約を結ぶことが難しい場合もあります。
したがって、利用者保護ではお金を守るだけでは不十分です。
事業者が事業を継続できなくなった場合に、利用者を別の事業者や公的支援へどのようにつなぐのかという問題も考える必要があります。
契約期間が長いことがリスクを大きくする
高齢者等終身サポート事業の特徴は、契約期間が長くなる可能性があることです。
一般的なサービスであれば、契約期間が1カ月や1年というものも多くあります。
しかし終身サポートは文字通り本人の人生の最終段階まで続く可能性があります。
例えば65歳で契約し、95歳まで生活すれば30年間です。
30年間あれば、企業を取り巻く環境は大きく変わります。
経営者が交代することもあります。
事業内容が変わる可能性もあります。
他社に買収されるかもしれません。
経営不振に陥る可能性もあります。
だからこそ、契約時点の会社の知名度や担当者の印象だけで判断するのではなく、長期間サービスを提供できる仕組みがあるのかを見る必要があります。
利用者が確認したい預託金の管理方法
高齢者等終身サポート事業を利用するときには、預託金について具体的に確認することが重要です。
まず、預託金を誰が管理するのかです。
事業者自身が管理するのか、第三者が関与するのかを確認します。
次に、事業者の運営資金とどのように区分されているのかを確認します。
さらに、利用者ごとの残高を確認できるのかも重要です。
預けた金額。
すでに使われた金額。
現在残っている金額。
こうした情報が分かる仕組みになっていることが望まれます。
そして最も重要なのが、事業者が倒産した場合です。
預託金はどうなるのか。
返還を受けるためにはどのような手続きが必要なのか。
サービスは誰かに引き継がれるのか。
契約前に確認しておく必要があります。
事業者選びでは料金以外も見る必要がある
高齢者等終身サポート事業を比較するときには、どうしても料金に目が向きます。
契約金が安い。
月額料金が安い。
預託金が少ない。
もちろん料金は重要です。
しかし、終身サービスでは安さだけで事業者を選ぶことにはリスクがあります。
預託金がどのように管理されているのか。
契約内容が明確になっているのか。
中途解約した場合の返還方法が定められているのか。
事業者がサービスを継続できなくなった場合の対応があるのか。
こうした点も重要になります。
特に預託金は高齢者の大切な老後資金です。
サービスを利用するためのお金であると同時に、本人が亡くなった後の葬儀や納骨などを確実に行うためのお金でもあります。
その資金が失われれば、本人が希望していた人生の最終段階の手続きまで実現できなくなる可能性があります。
預託金問題は民間企業の信用だけでは解決しにくい
高齢者等終身サポート事業がさらに広がれば、預託金の保全は社会全体の課題になっていくと考えられます。
一人の利用者から見れば100万円や200万円でも、多数の利用者から預託金を集める事業者では管理する資金が数億円規模になる可能性があります。
しかも、その資金を何年、場合によっては何十年も管理します。
利用者が契約後に判断能力を失う可能性もあります。
このようなサービスでは、利用者自身が事業者を継続的に監視することには限界があります。
そのため、預託金の管理方法を明確にし、第三者によるチェックや資金保全の仕組みを整えることが重要になります。
高齢者等終身サポート事業が家族に代わる社会インフラの一部になっていくのであれば、利用者が事業者の信用力だけを頼りに老後資金を預ける仕組みについても考えていく必要があります。
結論
高齢者等終身サポート事業の預託金は、将来の医療費や介護費、葬儀費用、納骨費用、家財処分費用などに備えて利用者が預けておく大切な資金です。
問題は、契約期間が長期に及ぶ可能性があり、その間に事業者が倒産するリスクがあることです。
預託金の返還を受ける権利が契約上存在していても、事業者に十分な財産が残っていなければ、実際に全額を回収できるとは限りません。
そこで重要になるのが分別管理です。
ただし、単に銀行口座を分けることと、倒産時にも資金が確実に保護されることは同じではありません。
どのような方法で事業者自身の財産と区分されているのか、第三者による管理や信託などが利用されているのかまで確認することが重要です。
さらに、預託金が守られても、事業者が倒産すれば身元保証や見守り、死後事務などのサービスを受けられなくなる可能性があります。
したがって利用者保護では、お金を守る仕組みとサービスを引き継ぐ仕組みの両方が必要になります。
高齢者等終身サポート事業は、利用者の人生の最終段階まで続く可能性のあるサービスです。
契約するときには、今いくら支払うのかだけではなく、自分が10年後や20年後まで安心してサービスを受けられる仕組みになっているのかを見る必要があります。
預託金の安全性は、単なる会社の資金管理の問題ではありません。
家族に代わって高齢者の人生の最終段階を支える仕組みを、社会としてどこまで信頼できるものにするのかという問題なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月28日朝刊 高齢者の「預託金の壁」解消を