相続税実務の中でも、特に難易度が高いと言われるのが「非上場株式(自社株)」の評価です。
実際、中小企業オーナーの相続では、
- 自宅不動産
- 預金
よりも、
「自社株評価」
が最大論点になることも少なくありません。
しかも実務では、
- 会社は儲かっていない
- 配当も出ていない
- 現金も少ない
のに、
「相続税評価だけ高額」
というケースもあります。
さらに、
- 後継者問題
- 納税資金不足
- 株主分散
- 親族対立
なども同時に発生しやすく、単なる税務問題では終わりません。
今回は、国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」を参考にしながら、非上場株式相続がなぜ難しいのかを、事業承継実務の視点から整理していきます。
なぜ自社株が問題になるのか
上場株式であれば、市場価格があります。
しかし非上場株式には、
「市場価格」
がありません。
つまり、
「いくらなのか」
を税務上計算する必要があります。
しかも、中小企業では、
- 社長=大株主
- 会社=家族財産
になっているケースも多く、相続税額へ大きく影響します。
“会社のお金”ではなく“株価”で課税される
ここは非常に重要です。
相続税は、
「会社財産」
ではなく、
「株式価値」
に対して課税されます。
つまり、
- 会社に現金がなくても
- 配当が出ていなくても
株価評価が高ければ、相続税負担が発生することがあります。
実務では、
「会社は苦しいのに相続税だけ重い」
ケースもあります。
類似業種比準方式とは何か
非上場株式評価で代表的なのが、
「類似業種比準方式」
です。
これは、
- 上場会社の株価
- 配当
- 利益
- 純資産
などと比較して評価する方法です。
つまり、
「同じような業種の上場企業なら、どの程度の株価か」
を参考にします。
そのため、
- 利益増加
- 純資産増加
- 配当増加
などによって、自社株評価が上がることがあります。
純資産価額方式とは何か
もう一つ重要なのが、
「純資産価額方式」
です。
これは簡単に言えば、
「会社を清算したらどれくらい資産が残るか」
をベースにする考え方です。
つまり、
- 現預金
- 不動産
- 有価証券
などを時価ベースで評価します。
そのため、
- 土地含み益
- 投資資産
- 保険積立
などが多い会社では、株価が高くなることがあります。
“利益が少ないのに株価が高い”問題
実務で非常に多いのが、この問題です。
例えば、
- 地方不動産保有会社
- 資産管理会社
- 昔から土地を持つ会社
などです。
利益は少なくても、
- 土地含み益
- 現預金
- 投資資産
が大きければ、株価評価が高くなることがあります。
つまり、
「会社が儲かっているか」
と
「相続税評価」
は一致しないことがあります。
配当還元方式とは何か
少数株主などでは、
「配当還元方式」
が使われる場合があります。
これは、
「将来受け取る配当」
をベースに評価する考え方です。
そのため、
- 少数持株
- 支配権なし
などでは、評価が低くなるケースがあります。
逆に、
支配株主は高評価になりやすい傾向があります。
“誰が株を持つのか”が重要
自社株相続では、
「誰が会社を継ぐのか」
が極めて重要です。
例えば、
- 長男が経営
- 他の兄弟は会社無関係
というケースでも、
相続で株が分散すると、
- 経営権不安定
- 配当要求
- 株式買取問題
などが発生することがあります。
つまり、
相続問題が、そのまま経営問題になることがあります。
納税資金不足が起きやすい
ここも重要です。
自社株は、
「評価額は高い」
のに、
「換金できない」
ケースがあります。
つまり、
- 相続税は高額
- でも現金がない
という問題が起きやすいのです。
特に、
- オーナー企業
- 非公開会社
- 地方企業
などでは深刻化しやすくなります。
事業承継税制とは何か
こうした問題に対応するために設けられているのが、
「事業承継税制」
です。
一定条件下で、
- 自社株相続税
- 贈与税
の納税猶予を受けられる制度です。
ただし実務では、
- 後継者要件
- 雇用維持
- 継続要件
- 取消リスク
など、多くの条件があります。
つまり、
「使えば安心」
という制度ではありません。
後継者問題と一体化している
現在、日本では、
- 中小企業経営者高齢化
- 後継者不足
が大きな社会問題になっています。
そのため、自社株相続は単なる税務問題ではなく、
- 会社存続
- 雇用維持
- 地域経済
にも影響します。
特に地方では、
「社長が亡くなると会社が終わる」
ケースもあります。
“会社=家族”時代の限界
日本の中小企業では、
- 会社財産
- 個人財産
- 家族生活
が強く結びついてきました。
しかし現在は、
- 相続人多様化
- 非同居化
- 価値観変化
などにより、
「家族だけで承継」
が難しくなってきています。
そのため今後は、
- 外部承継
- M&A
- 持株会社
- ファンド活用
なども含めた新しい承継形態が増える可能性があります。
今後は“株価評価見直し”議論も重要になる可能性
現在、自社株評価については、
- 類似業種比準
- 純資産評価
- 通達評価
のあり方自体も議論されています。
特に、
- 資産保有会社
- 含み益
- 実態とのズレ
などは、以前から問題視されています。
そのため今後は、
- 事業実態
- 収益力
- 流動性
などをどう反映するかが、さらに重要論点になる可能性があります。
結論
非上場株式の相続は、相続税実務の中でも特に難易度が高い分野です。
特に、
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
など、多くの評価方法があります。
また、
- 会社業績
- 株価
- 納税資金
- 経営権
が一致しないことも重要です。
さらに実務では、
- 後継者問題
- 株主分散
- 家族対立
- 地域経済
まで影響することがあります。
だからこそ、自社株相続は、
「税金だけ」
ではなく、
- 経営承継
- 家族関係
- 資金繰り
- 将来の会社存続
まで含めた長期視点で考えることが重要になります。
次回は、「相続税の申告期限『10か月』で本当に間に合うのか(スケジュール管理編)」をテーマに、戸籍収集・財産調査・遺産分割・申告準備など、“相続発生後に実際に何が起きるのか”を実務目線で整理していきます。
参考
国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」令和7年4月
国税庁「財産評価基本通達」令和7年
中小企業庁「事業承継税制の概要」令和7年