電炉とは何か 鉄鉱石ではなく鉄スクラップから鉄をつくる仕組み編

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鉄は鉄鉱石からつくられるものだと思われがちですが、実は日本では、使い終わった鉄をもう一度溶かして新しい鋼材をつくる方法も広く使われています。

その代表的な設備が電炉です。

高炉が主に鉄鉱石と原料炭を使って鉄をつくるのに対し、電炉では主に古い建物や自動車、工場などから回収した鉄スクラップを原料として使います。

大量の電気を使って鉄スクラップを溶かし、再び鋼として利用します。

鉄そのものを繰り返し利用できるため、電炉は巨大なリサイクル設備と考えることもできます。

さらに高炉と比べて二酸化炭素排出量を抑えやすいことから、脱炭素の流れのなかで電炉への注目が高まっています。

電炉とは何か

電炉とは、電気の力を利用して主に鉄スクラップを溶かし、鋼をつくる設備です。

代表的なのが電気アーク炉です。

炉の中に鉄スクラップなどを入れ、電極に大きな電流を流します。

すると電極と原料の間などに非常に高温のアークが発生します。

その熱によって鉄スクラップを溶かします。

溶けた鉄の成分を調整し、必要な性質を持つ鋼にします。

その後、

H形鋼

棒鋼

鋼板

などさまざまな鋼材へ加工されます。

つまり電炉では、社会の中ですでに一度使われた鉄を回収し、新しい鉄鋼製品へ戻しているのです。

鉄スクラップとは何か

電炉の重要な原料が鉄スクラップです。

スクラップという言葉から、価値のない廃棄物を想像するかもしれません。

しかし鉄鋼業では重要な資源です。

例えば古いビルを解体すると、大量の鉄骨や鉄筋が発生します。

使われなくなった工場設備にも鉄が含まれています。

廃車となった自動車からも鉄を回収できます。

製造工場では、鋼板などを加工した際に端材が発生します。

こうした鉄を回収し、選別や加工をして再び製鉄原料として利用します。

鉄は一度使ったら終わりではありません。

回収して溶かせば、再び新しい鋼材として社会へ戻すことができます。

高炉と電炉は何が違うのか

高炉と電炉の大きな違いは原料です。

高炉では主に鉄鉱石を使います。

鉄鉱石から酸素を取り除くため、コークスなどが必要になります。

一方、電炉では主に鉄スクラップを使います。

すでに一度鉄として利用されたものを溶かし直すため、鉄鉱石から新しく鉄を取り出す工程を大幅に減らすことができます。

単純化すると、

高炉は鉄鉱石から新しい鉄をつくる

電炉は既存の鉄をリサイクルする

という違いがあります。

そのため両者では原料価格の影響も異なります。

高炉メーカーにとっては鉄鉱石や原料炭の価格が重要です。

電炉メーカーにとっては鉄スクラップや電力の価格が重要になります。

なぜ大量の電気が必要なのか

電炉という名前の通り、鉄を溶かすために大量の電力を使います。

鉄を溶かすには非常に高い温度が必要です。

家庭用の電気製品とは比較にならない大きな電力を使って高温をつくります。

このため電炉メーカーの経営では電力料金が重要になります。

例えば鉄スクラップ価格が変わらなくても、電力料金が大幅に上昇すれば製造コストは増えます。

そのコストを鋼材価格へ転嫁できなければ利益が圧迫されます。

逆に安価な電力を安定して調達できれば、競争力につながる可能性があります。

電炉による鉄づくりは、

鉄スクラップ市況

電力価格

の両方から大きな影響を受けるのです。

電炉は需要に合わせて生産を調整しやすい

高炉との重要な違いの一つが操業の柔軟性です。

高炉は炉内を高温に保ちながら24時間体制で長期間連続操業することを基本としています。

需要が減ったからといって、毎日のように停止と再稼働を繰り返す設備ではありません。

一方、電炉は高炉に比べると操業を調整しやすい特徴があります。

例えば鋼材需要が弱い時間帯には生産を抑えたり、電力料金などを考慮しながら操業時間を調整したりすることができます。

もちろん電炉も巨大な製造設備ですから、自由自在に生産できるわけではありません。

それでも高炉に比べれば需要変動へ対応しやすい面があります。

市場が拡大し続ける時代には大量生産できる高炉の強みが大きくなります。

一方、需要が伸びにくい時代には、生産量を調整しやすいことも重要な競争力になります。

電炉でつくられる代表的な鋼材

日本の電炉メーカーが得意としてきた代表的な製品の一つが建設用鋼材です。

例えば鉄筋コンクリートの建物に使われる棒鋼があります。

コンクリートは圧縮する力には強い一方、引っ張る力には弱い性質があります。

そこで内部に鉄筋を入れて補強します。

この鉄筋として使われる棒鋼の多くが電炉で生産されています。

H形鋼も電炉メーカーが生産する代表的な製品の一つです。

ビル、工場、物流施設などの柱や梁に使われます。

そのため電炉メーカーの生産動向は、建設需要とも深く結びついています。

なぜ高炉の方が得意だった鋼材があるのか

鉄スクラップには、もともとさまざまな製品に使われていた鉄が混ざっています。

そのため品質を高度に管理する必要がある鋼材では、原料に含まれるさまざまな成分の管理が重要になります。

特に自動車用の高性能鋼板などでは、高い品質や均一性が求められます。

このため従来は、高炉を中心とした一貫製鉄所が得意とする分野と、電炉メーカーが得意とする分野に違いがありました。

高炉では自動車用鋼板など高品質な鋼材を大量生産し、電炉では建設用鋼材などを中心に生産するという構図です。

ただし、この境界は固定されたものではありません。

製造技術の向上などによって、電炉でもより高品質な鋼材を生産しようとする取り組みが進んでいます。

なぜ電炉は二酸化炭素排出量を減らしやすいのか

電炉が注目される最大の理由の一つが脱炭素です。

高炉では鉄鉱石から酸素を取り除くために、コークスなどに含まれる炭素を利用します。

この工程で大量の二酸化炭素が発生します。

一方、電炉ではすでに鉄になっている鉄スクラップを溶かして再利用します。

鉄鉱石から鉄を取り出す工程が必要ないため、高炉方式と比べて二酸化炭素排出量を大幅に減らしやすくなります。

鉄鋼業は大量のエネルギーを使う産業です。

そのため世界全体で脱炭素を進めるうえでも、製鉄方法をどのように変えるかが大きな課題になっています。

高炉から電炉への転換が注目される理由です。

電炉なら二酸化炭素が出ないわけではない

ただし、電炉なら二酸化炭素排出量がゼロになるわけではありません。

電炉では大量の電力を使用します。

その電力を石炭や天然ガスなどの火力発電でつくっていれば、発電段階で二酸化炭素が発生します。

つまり電炉の環境負荷を考える場合には、

鉄をつくる工場だけ

を見るのでは不十分です。

使用する電力がどのようにつくられているのかまで考える必要があります。

再生可能エネルギーなど二酸化炭素排出量の少ない電力を利用できれば、電炉による製鉄の環境負荷をさらに小さくできます。

そのため鉄鋼業の脱炭素と電力業界の脱炭素は密接につながっています。

鉄スクラップが重要資源になる理由

電炉による製鉄が増えれば、原料となる鉄スクラップの価値も高まります。

これまでは、

鉄鉱石

原料炭

が製鉄の代表的な原料として注目されてきました。

しかし電炉化が進めば、

良質な鉄スクラップをどれだけ安定的に確保できるか

が鉄鋼会社の競争力を左右する可能性があります。

鉄スクラップは世界各国で取引されています。

日本国内で発生した鉄スクラップが海外へ輸出されることもあります。

国内の電炉需要が増える一方で輸出も増えれば、鉄スクラップの需給が引き締まり、価格が上昇する可能性があります。

つまり脱炭素によって鉄スクラップの争奪戦が強まる可能性もあるのです。

日本は鉄の資源国になる可能性がある

日本は鉄鉱石の多くを海外から輸入しています。

その意味では鉄鉱石資源に乏しい国です。

しかし日本では高度経済成長期以降、膨大な量の鉄が社会に蓄積されてきました。

ビル

住宅

工場

鉄道

自動車

機械

などです。

これらが寿命を迎えて解体されれば、鉄スクラップとして回収できます。

つまり過去に輸入した鉄鉱石からつくった鉄が、都市やインフラの中に巨大な資源として蓄積されているとも考えられます。

これを都市鉱山と考えることもできます。

鉄スクラップを効率的に回収し、電炉で再び鋼材に戻すことができれば、海外から鉄鉱石や原料炭を輸入する依存度を一定程度下げることにもつながります。

電炉化は鉄鋼業の産業構造を変える

電炉化が進むことは、単に高炉を電炉へ置き換えるという話ではありません。

必要になる原料が変わります。

鉄鉱石や原料炭から、鉄スクラップと電力の重要性が高まります。

製鉄所の立地条件も変わる可能性があります。

高炉では大型船で大量の鉄鉱石や原料炭を輸入するため、大規模な臨海製鉄所に合理性があります。

電炉では鉄スクラップをどこから集めるのか、安定した電力をどこで確保するのかという条件が重要になります。

鉄鋼会社だけでなく、

スクラップ回収業者

物流会社

電力会社

自動車会社

建設会社

などとの関係も変化します。

脱炭素は鉄のつくり方だけではなく、鉄を巡る産業全体の仕組みを変える可能性があるのです。

結論

電炉とは、主に鉄スクラップを電気の力で溶かして新しい鋼をつくる設備です。

高炉が主に鉄鉱石と原料炭から鉄をつくるのに対し、電炉では社会ですでに使われた鉄を再利用します。

古い建物、自動車、工場設備などから回収された鉄が、新しいH形鋼や棒鋼などへ生まれ変わります。

このため電炉は巨大な鉄のリサイクル設備と考えることもできます。

さらに鉄鉱石から鉄を取り出す高炉方式と比べて、二酸化炭素排出量を減らしやすいという特徴があります。

鉄鋼業の脱炭素を進めるうえで電炉が注目される大きな理由です。

ただし電炉にも課題があります。

大量の電力が必要です。

高品質な鉄スクラップを安定的に確保する必要もあります。

高度な鋼材をつくるためには品質管理技術の向上も必要です。

今後、電炉化が進めば鉄スクラップは単なる廃材ではなく、重要な製鉄資源としての意味をさらに強めるでしょう。

鉄鉱石を海外から輸入して大量の鉄をつくる時代から、国内に蓄積された鉄を回収して繰り返し利用する時代へ。

電炉の拡大は、日本の鉄鋼業が大量生産型産業から循環型産業へ変わっていく重要な動きの一つなのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 物価の記憶(3)鋼材市況、バブル崩壊予見 浦安問屋街、競争から協業へ

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