病院で診察を受けた際、健康保険が適用されるにもかかわらず、通常の自己負担とは別に料金を支払うことがあります。
例えば、個室を希望した場合の差額ベッド代や、大病院を紹介状なしで受診した際の特別料金などです。最近では、後発医薬品(ジェネリック医薬品)があるにもかかわらず、患者が先発医薬品を希望した場合にも追加負担が生じるようになりました。
このような仕組みは「選定療養」と呼ばれ、公的医療保険制度の中でも重要な役割を担っています。
今回は、選定療養とは何か、どのような場合に追加負担が発生するのかを分かりやすく解説します。
選定療養とは何か
選定療養とは、患者が自ら希望して受ける特別なサービスについて、その費用を自己負担する制度です。
通常の診察や検査、治療など、病気を治すために必要な医療には公的医療保険が適用されます。一方、患者の希望によって選択した利便性や快適性などのサービスについては、公的医療保険の対象外となり、患者が追加で費用を負担します。
つまり、必要な医療は保険で保障し、それ以上のサービスは利用した人が負担するという考え方です。
混合診療との違い
前回取り上げた混合診療は、保険診療と自由診療を自由に組み合わせることを原則として認めない制度でした。
一方、選定療養は国があらかじめ認めた例外制度です。
診察や検査、手術など医療として必要な部分には健康保険が適用されますが、患者が選択した特別なサービスだけを自己負担します。
そのため、保険診療部分まで全額自己負担になることはありません。
この点が混合診療との大きな違いです。
差額ベッド代は最も身近な選定療養
選定療養として最も知られているのが差額ベッド代です。
個室や少人数の病室を患者が希望した場合には、通常の入院費とは別に料金を支払います。
ただし、病院側の事情で個室に入院した場合や、感染対策など治療上の必要性から個室が必要になった場合には、差額ベッド代を請求できないケースがあります。
あくまでも患者自身の希望による選択であることが前提です。
紹介状なしで大病院を受診した場合
現在、多くの大病院では、紹介状がないまま初診を受けると特別料金が必要になります。
これは患者に負担を求めることが目的ではなく、地域医療の役割分担を進めるためです。
風邪や軽い病気は地域の診療所が担当し、専門的な治療や高度医療は大病院が担うという仕組みを維持するために設けられています。
医療資源を効率よく活用するための制度でもあるのです。
先発医薬品を希望した場合の追加負担
2024年10月からは、後発医薬品があるにもかかわらず、患者が先発医薬品を希望した場合には、一定の追加負担が生じる制度が始まりました。
これは医療上の必要性がない場合に限られます。
後発医薬品の普及を進め、医療保険財政の負担を軽減することが目的です。
一方で、医師が医療上必要と判断した場合や、後発医薬品の供給が不足している場合などは、この追加負担の対象にはなりません。
選定療養が設けられている理由
公的医療保険には限られた財源しかありません。
そのため、すべてのサービスを保険で賄うことは難しくなっています。
例えば、
・快適な病室を選びたい
・待ち時間を短くしたい
・特定の薬を希望したい
こうした患者一人ひとりの希望まで保険で負担すると、医療費はさらに膨らんでしまいます。
そこで、標準的な医療は保険で保障し、それを超えるサービスについては利用者が負担するという仕組みが採用されています。
制度拡大への課題
選定療養は合理的な制度ですが、対象が広がりすぎることへの懸念もあります。
これまで保険で受けられていたものが少しずつ自己負担になれば、患者の負担は増えていきます。
また、高齢者や慢性疾患で頻繁に通院する人ほど影響を受けやすくなります。
医療保険財政を維持することは重要ですが、必要な医療を安心して受けられる環境とのバランスも考えなければなりません。
今後の選定療養
高齢化が進み、医療費が増え続ける中で、公的医療保険制度の見直しは今後も続くと考えられます。
その中で、選定療養の対象が増える可能性もあります。
一方で、患者が十分な説明を受け、本当に自由な意思で選択できる制度でなければなりません。
制度を維持するためには、追加負担を求めるだけではなく、その理由や必要性について国民の理解を得ることも重要になるでしょう。
結論
選定療養とは、標準的な医療には健康保険を適用し、それ以上のサービスについては患者が追加負担する制度です。
差額ベッド代や紹介状なしの大病院受診、先発医薬品の希望など、私たちの身近な場面でも利用されています。
医療保険財政を維持するためには一定の役割を果たす制度ですが、負担の拡大が患者の受診機会を狭めないよう、制度の運用には十分な配慮が求められます。
これからの医療制度を考える上でも、選定療養はますます重要なテーマになっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月21日 朝刊
病院の窓口業務コスト、医療保険の適用外に 財務省、効率化向け提起