財形貯蓄の55歳未満要件とは何か 働く期間が延びても50代後半から加入できない理由編

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会社員が働く期間は長くなっています。

60歳で定年を迎えて完全に仕事を辞めるという働き方だけではなく、60歳以降も再雇用などで働き、65歳や70歳まで収入を得る人も珍しくなくなりました。

ところが、財形貯蓄制度の一部には現在も「55歳未満」という年齢要件があります。

財形貯蓄には一般財形、財形年金、財形住宅の三種類がありますが、このうち財形年金と財形住宅は原則として契約時に55歳未満であることが要件となっています。

そのため、例えば58歳の会社員が「これから60歳以降のために財形年金を始めたい」と考えても、新規に契約することは原則としてできません。

住宅についても同様です。

50代後半で住宅を購入したり、リフォームのために資金を準備したりしたい人がいても、年齢要件が壁になる可能性があります。

厚生労働省は2027年度税制改正に向けて、この加入年齢についても引き上げを含めた見直しを検討します。

今回は、なぜ55歳未満という要件が設けられているのか、一般財形にはなぜ同じ制限がないのか、長く働く時代に制度とのずれが生じている理由を整理します。

財形年金と財形住宅には年齢要件がある

財形貯蓄は、三種類すべてについて同じ加入条件が設けられているわけではありません。

一般財形には、契約開始時について財形年金や財形住宅のような55歳未満という年齢要件はありません。

一方、税制優遇のある財形年金と財形住宅については、原則として契約時に55歳未満であることが要件です。

この違いには、それぞれの制度目的が関係しています。

一般財形は、勤労者が給与天引きによって幅広い目的のために資産を形成する制度です。

財形年金は老後資金を準備する制度です。

財形住宅は住宅取得や一定のリフォームなどのために資金を準備する制度です。

特定の政策目的を持つ制度について税制優遇を設ける一方、加入条件も細かく定められているのです。

なぜ55歳未満なのか

財形年金を考えると、55歳未満という要件の背景が分かりやすくなります。

財形年金は現役時代に一定期間積み立て、原則として60歳以降に年金として受け取ることを想定した制度です。

つまり、本来は60歳になる直前に加入して短期間だけ利用するのではなく、現役時代から計画的に老後資金を準備する仕組みとして設計されています。

財形住宅についても、働いている間に給与から継続的に積み立て、住宅取得のための自己資金などを準備することが想定されています。

55歳未満という基準は、こうした「一定期間をかけて積み立てる」という制度設計と関係しています。

ただし、問題は制度が想定していた働き方そのものが大きく変化していることです。

かつては60歳が大きな区切りだった

財形制度がつくられた時代には、現在よりも60歳という年齢が仕事と老後を分ける大きな境目として意識されていました。

60歳前後で会社員生活を終え、その後は退職金や公的年金、貯蓄などを使って生活するという人生設計です。

そのような社会であれば、55歳を過ぎてから新しく老後資金形成制度へ加入する必要性はそれほど大きくないと考えることもできます。

しかし現在では、60歳は必ずしも現役生活の終わりではありません。

60歳以降も給与を受け取りながら働き続ける人が増えています。

人生が長くなれば、資産形成を終える年齢も後ろへずれていきます。

制度が想定した「現役」と「老後」の境界線そのものが変化しているのです。

65歳や70歳まで働けば50代後半も資産形成期になる

仮に60歳で仕事を辞めるなら、58歳から新しい積立制度を始めても積み立てられる期間は短くなります。

しかし70歳まで働くなら話は違います。

58歳から70歳まで12年間あります。

毎月3万円を積み立てれば、単純計算でも年間36万円です。

12年間なら432万円になります。

利子などを考慮しなくても、まとまった老後資金を準備できます。

つまり働く期間が長くなれば、50代後半も十分に資産形成期になります。

「55歳を過ぎたら新しい老後資金形成を始めるには遅い」という従来の制度設計が、現在の就業環境と合わなくなりつつあるわけです。

一般財形には55歳未満要件がない

一般財形には、財形年金や財形住宅と同じ55歳未満という加入要件はありません。

その理由を考えるうえで重要なのが、一般財形には基本的に資金の使い道の制限がないことです。

旅行に使うこともできます。

自動車購入にも利用できます。

教育費や住宅資金、老後資金として使うこともできます。

その代わり、財形年金や財形住宅のような利子などに対する非課税措置は原則としてありません。

つまり一般財形は、特定の政策目的に結び付けた税制優遇制度というより、勤労者の幅広い資産形成を支援する制度という性格が強くなっています。

そのため年齢についても比較的自由度の高い仕組みになっています。

50代後半でも老後資金を準備したい人はいる

実際、財形制度には中高年層の需要があります。

労働政策研究・研修機構が2025年に実施した調査では、財形貯蓄の加入年齢は財形年金、財形住宅とも30代以下が7割から8割を占めています。

中心となっているのは若い世代です。

しかし50歳以上も、財形年金では8.3%、財形住宅では5.3%を占めました。

しかも、いずれも45歳から49歳の割合より高くなっています。

50代になると老後が具体的に見えてきます。

公的年金がいくらになるのか。

退職金はいくら受け取れるのか。

老後の生活費はいくら必要なのか。

こうした数字を現実的に考え始めてから、「もう少し老後資金を増やしたい」と考える人もいるでしょう。

ところが55歳を過ぎてから必要性を感じても、財形年金を新規に始めることは原則としてできません。

ここに制度と実際の資産形成ニーズとのずれがあります。

50代後半の住宅需要も無視できない

同じ問題は財形住宅にもあります。

住宅は若いうちに購入するものとは限りません。

50代で子どもが独立した後に住み替える人もいます。

郊外の一戸建てから利便性の高いマンションへ移ることもあります。

現在の住宅を老後も住みやすいようにリフォームする場合もあります。

長寿化すれば、50代後半で住宅にお金をかけても、その後20年、30年と利用する可能性があります。

ところが財形住宅についても新規契約は原則55歳未満です。

住宅の取得時期やリフォーム時期が多様化する一方で、制度上の年齢基準は従来のまま残っていることになります。

加入年齢が引き上げられると誰が恩恵を受けるのか

加入年齢が引き上げられれば、最も直接的な恩恵を受けるのは現在の制度では新規加入できない50代後半以降の勤労者です。

例えば58歳で働いている人が財形年金を始め、65歳や70歳まで積み立てるという選択肢が生まれる可能性があります。

財形住宅についても、50代後半から住宅取得やリフォーム資金を給与天引きで準備できる可能性があります。

特に重要なのは、給与を受け取って働いている限り、給与天引きという財形の仕組みを利用できる余地があることです。

高齢者雇用が進めば、「何歳まで働くか」と「何歳まで資産形成するか」は連動するようになります。

加入年齢の引き上げは、単なる年齢制限の緩和ではありません。

長期就業に合わせて資産形成期間そのものを延ばす意味を持ちます。

年齢を上げればすべて解決するわけではない

一方、加入可能年齢を引き上げるだけで財形制度が再び広く利用されるとは限りません。

財形貯蓄の契約件数は長期的に大きく減少しています。

三つの財形を合わせた契約件数は、ピークだった1989年度の1955万件から2025年度には約526万件まで減少しました。

制度を導入する事業所の割合も低下しています。

さらに現在ではNISAやiDeCoなど、別の資産形成制度もあります。

特に老後資金については、財形年金だけでなくiDeCoやNISAを含めて考える人が増えています。

したがって年齢要件の見直しは財形を使いやすくする一つの改革ではありますが、制度全体の魅力をどう高めるかという問題も残ります。

人生が長くなれば資産形成期間も長くなる

55歳未満要件の見直しが象徴しているのは、人生設計そのものの変化です。

かつては、

若いうちに働き始める

現役時代に住宅を購入する

60歳前後で退職する

その後は年金と貯蓄で生活する

という比較的分かりやすいモデルがありました。

現在は働き方も住宅取得時期も老後資金の準備方法も多様化しています。

60歳を過ぎても働くなら、50代後半は「老後直前」ではなく、まだ資産形成の途中です。

70歳まで働く社会では、55歳という年齢の意味そのものが変わります。

財形制度の加入年齢見直しは、こうした人生100年時代の働き方と資産形成を制度にどう反映させるかという問題でもあります。

結論

財形貯蓄には一般財形、財形年金、財形住宅の三種類があり、このうち財形年金と財形住宅は原則として契約時に55歳未満であることが加入要件となっています。

財形年金は現役時代から老後資金を積み立て、原則60歳以降に受け取る制度であるため、一定期間をかけて資産形成することを前提として設計されています。

一方、一般財形には同じ55歳未満要件はありません。

使い道が自由で、財形年金や財形住宅のような利子などに対する非課税措置が原則として設けられていないことも制度上の違いです。

問題は、働く期間が長くなったことです。

65歳や70歳まで働くのであれば、50代後半からでも十分な資産形成期間があります。

住宅についても50代以降の購入や住み替え、リフォームは珍しくありません。

55歳という基準は、60歳が現役生活の大きな区切りだった時代には合理性があったとしても、長期就業が広がる現在では実態とのずれが大きくなっています。

厚生労働省が検討する加入年齢の引き上げは、単純に財形を利用できる人を増やすだけの改革ではありません。

働く期間が延びれば、資産形成できる期間も延びる。

その変化に合わせて、何歳までを「資産をつくる世代」と考えるのかを見直す制度改革といえます。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 厚労省、財形の非課税限度額上げ インフレ対応で検討

日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 財形貯蓄制度とは

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