中小企業の経営者にとって、事業承継は「会社を誰に引き継ぐか」という重大な経営判断です。
かつては、長男や長女など親族が会社を引き継ぐことが一般的でした。しかし、少子高齢化や価値観の多様化により、親族内承継だけでは会社を存続できないケースが増えています。
その結果、近年はM&A(企業の合併・買収)による第三者承継も急速に広がっています。
令和8年度税制改正では、事業承継税制の特例承継計画の提出期限が延長されましたが、その背景には、円滑な事業承継を後押ししたいという国の考えがあります。
今回は、親族内承継とM&A、それぞれの特徴を比較しながら、これからの事業承継について考えてみます。
親族内承継のメリット
親族内承継の最大のメリットは、経営理念や創業者の思いを引き継ぎやすいことです。
幼い頃から会社を見て育った家族であれば、
- 会社の歴史
- 社員との関係
- 地域とのつながり
を自然に理解していることが多くあります。
また、社員や取引先にとっても、
「創業家が経営を続ける」
という安心感があるため、経営の連続性を保ちやすいという利点があります。
長年築いてきた企業文化を守りながら事業を継続できる点は、親族内承継ならではの強みです。
親族内承継の課題
一方で、親族内承継には課題もあります。
最も大きな問題は、後継者不足です。
子どもが会社を継がない理由として、
- 自分の仕事を持っている
- 経営に興味がない
- 会社の将来性に不安がある
などが挙げられます。
また、複数の相続人がいる場合には、自社株の分配をめぐって相続トラブルが発生することもあります。
「家族だから安心」とは限らず、感情が絡むからこそ難しくなるケースも少なくありません。
M&Aという選択肢
こうした背景から注目されているのがM&Aです。
M&Aというと、「会社を売る」というイメージを持たれることがありますが、現在では「会社を残すための承継手段」として活用されるケースが増えています。
後継者がいない場合でも、
- 従業員の雇用を守る
- 取引先との関係を維持する
- 会社名やブランドを残す
ことができる可能性があります。
買い手企業が事業を引き継ぐことで、会社は存続し、地域経済への影響も抑えられます。
どちらが優れているのか
親族内承継とM&Aを比べると、
「どちらが優れているか」
という答えはありません。
例えば、
親族に優秀な後継者がいるのであれば、親族内承継が最適かもしれません。
一方で、
後継者がいない場合に無理に家族へ引き継ぐよりも、M&Aによって会社を発展させる方が社員や取引先にとって良い結果となることもあります。
重要なのは、「会社を誰が持つか」ではなく、「会社が将来も成長し続けられるか」という視点です。
税金だけで判断しない
事業承継では税金の問題が注目されがちです。
確かに、事業承継税制を利用すれば、自社株に係る相続税や贈与税の納税猶予を受けられる可能性があります。
しかし、税制はあくまで支援制度です。
税金が有利だからという理由だけで承継方法を決めると、経営そのものがうまくいかないこともあります。
本当に大切なのは、
- 後継者の経営能力
- 社員との信頼関係
- 会社の成長戦略
など、会社の未来を左右する要素です。
税金はその判断材料の一つとして考えるべきでしょう。
早めの準備が最も重要
親族内承継でもM&Aでも、共通して言えることがあります。
それは、「準備には時間がかかる」ということです。
後継者の育成には数年から十年以上かかることもあります。
M&Aでも、
- 企業価値の向上
- 財務内容の整理
- 契約関係の見直し
など、多くの準備が必要です。
経営者が元気なうちから承継を考え始めることが、会社を守る最大の対策になります。
結論
親族内承継とM&Aは、どちらも会社を未来へつなぐための重要な選択肢です。
親族内承継には企業文化や創業者の思いを引き継ぎやすいという魅力があり、M&Aには後継者不足を解消し、会社の成長につなげられる可能性があります。
どちらを選ぶべきかに正解はありません。
重要なのは、「誰に引き継ぐか」ではなく、「会社をどのような形で次世代へ残すか」という視点を持つことです。
事業承継は経営者人生最後の大きな経営判断です。税制や制度を上手に活用しながら、会社にとって最善の未来を描くことが、これからますます重要になるでしょう。
参考
令和8年度税制改正の実務ポイント 第3 資産課税・住宅税制(2026年4月6日講義資料)