税務行政のデジタル化が着実に進んでいます。国税庁は令和7年分確定申告から、長年行われてきた休日の確定申告会場対応を終了しました。その背景には、e-Taxの普及とAIを活用した相談体制の整備があります。
特に注目すべきなのは、受付時間外でも利用できる「ボイスボット」の本格活用です。試行期間中だけで約15万件もの着信がありました。この数字は、税務相談のあり方が大きく変化していることを示しています。
税務署へ行く時代から、自宅で申告し、AIに相談する時代へ。今回は税務行政DXの最前線について考えてみたいと思います。
確定申告会場の役割が変わり始めた
かつて確定申告シーズンになると、多くの納税者が税務署や特設会場へ足を運んでいました。
平成28年分の確定申告では、休日対応日に約20万人が利用していました。しかし令和7年分では約5万人まで減少しています。わずか10年足らずで4分の1になった計算です。
この背景にはe-Taxの急速な普及があります。
令和7年分確定申告では、e-Tax利用率が77.1%に達しました。もはや確定申告は「税務署で行うもの」ではなく、「自宅で行うもの」へと変わりつつあります。
スマートフォンによる申告やマイナポータル連携も進み、給与所得者や年金受給者であれば、自動入力機能を活用することで大幅な時間短縮が可能になりました。
税務署は申告書を作成する場所から、より高度な相談や支援を行う場所へと役割を変えつつあります。
AIが税務相談を受ける時代へ
今回の取り組みの中で特に注目されるのがボイスボットです。
ボイスボットとは、AIを活用した音声自動応答システムです。平日の夜間や土日祝日など、職員が対応できない時間帯でも税務相談を受けることができます。
令和7年分確定申告では全国で試行され、約15万件もの利用がありました。
これは単なる実験ではなく、納税者のニーズが十分に存在することを示しています。
現代社会では働き方が多様化しています。平日の昼間に税務署へ電話できる人ばかりではありません。
夜間や休日に疑問が生じた際、AIが即座に回答してくれる仕組みは非常に利便性が高いといえます。
税務行政も24時間対応型へ進化し始めているのです。
税理士にも求められるデジタル対応力
この流れは税理士業界にも大きな影響を与えます。
従来は税理士が説明していた基本的な質問の多くが、AIやチャットボットで解決できるようになります。
例えば、
・医療費控除の対象は何か
・ふるさと納税の限度額はどう考えるのか
・住宅ローン控除の申告方法はどうするのか
といった一般的な質問です。
今後は「調べれば分かる情報」の価値が下がり、「個別事情を踏まえた判断」の価値が高まります。
税理士には制度の説明だけでなく、
・複数の選択肢の比較
・将来を見据えた税務戦略
・相続や事業承継との連携提案
など、高度なコンサルティング能力が求められるようになるでしょう。
人生100年時代の税務相談はどう変わるのか
人生100年時代では税務相談の内容も複雑化します。
年金受給開始の選択、NISAの活用、iDeCo、相続対策、家族信託、事業承継など、単独の税法知識だけでは解決できないテーマが増えています。
AIは制度説明には強いですが、人生設計そのものを一緒に考えることはまだ得意ではありません。
だからこそ人間の専門家には新しい役割が生まれます。
AIが基礎的な質問に答え、人間は人生全体を見据えたアドバイスを行う。
そのような役割分担が今後の主流になっていくのではないでしょうか。
税務行政DXが目指す未来
国税庁の取り組みを見ると、目指しているのは単なる効率化ではありません。
納税者がいつでも、どこでも、簡単に税務手続を行える環境づくりです。
休日の申告会場を減らす一方で、e-TaxやAI相談を充実させるのはそのためです。
行政サービスは「窓口中心」から「デジタル中心」へ移行しています。
そして将来的には、申告書の作成だけでなく、税務相談や手続案内の大部分がAIによって支援される時代が訪れるかもしれません。
その変化に対応できる人ほど、時間と手間を大きく削減できるようになるでしょう。
結論
国税庁のボイスボットに約15万件もの利用があった事実は、税務相談のデジタル化に対する需要の大きさを示しています。
e-Tax利用率は8割に迫り、確定申告会場の役割も変化しています。今後はAIが基本的な税務相談を担い、人間の専門家はより高度な判断や人生設計を支援する方向へ進んでいくでしょう。
人生100年時代において重要なのは、税務知識そのものではなく、デジタルツールを活用しながら最適な意思決定を行う力です。税務行政DXは、その新しい時代の入り口に立っているのです。
参考
税のしるべ
2026年06月08日
「ボイスボットの着信件数は約15万件、7年分確定申告から施行」