経理担当者は日々、勘定科目を選択しながら仕訳を行っています。
「旅費交通費にするか福利厚生費にするか」「修繕費にするか資本的支出にするか」など、判断に迷う場面は少なくありません。
しかし、勘定科目の選択を誤っただけで、すぐに重加算税の対象になるわけではありません。
一方で、意図的な科目の付け替えは「仮装」と判断され、重加算税につながる可能性があります。
今回は、その境界線について考えてみます。
勘定科目の選択ミスは直ちに仮装ではない
経理実務では、勘定科目の判断に迷うケースが数多くあります。
例えば、社員との会食を交際費とするか福利厚生費とするか、備品を消耗品費とするか工具器具備品とするかなどです。
こうした判断は税法上も解釈の余地があり、後から税務調査で修正されることがあります。
しかし、このような判断ミスだけで「仮装」と評価されることは通常ありません。
事実をありのまま記録したうえで、法令の解釈や判断を誤っただけであれば、重加算税ではなく過少申告加算税などの問題となる場合が一般的です。
仮装とは事実を違って見せること
重加算税でいう「仮装」とは、実際の取引内容を別のものに見せかけることです。
つまり、経理上の表示を意図的に変え、事実を歪める行為をいいます。
例えば、
・給与を外注費として処理する
・役員賞与を業務委託料として計上する
・私的な支出を会議費として処理する
・交際費を福利厚生費として計上する
・架空の旅費交通費を計上する
などは、内容によっては仮装と評価される可能性があります。
重要なのは、勘定科目そのものではなく、「本来の事実を隠しているかどうか」です。
なぜ科目の付け替えが問題になるのか
勘定科目には、それぞれ税務上の意味があります。
例えば交際費には損金算入限度額の問題があります。
給与には源泉所得税が発生します。
寄附金には損金算入限度があります。
これらを避けるために意図的に別の科目へ変更すると、本来適用される税法が働かなくなります。
つまり、税務上の判断を誤らせることになるため、仮装と評価される可能性が高くなるのです。
目的が税金対策でなくても注意が必要
「税金を減らそうと思ったわけではありません。」
税務調査では、この説明がされることがあります。
しかし、前回紹介した最高裁判例の考え方では、「税金を免れる意思」までは必要とされていません。
例えば、労働基準法違反を隠すために残業手当を出張旅費へ変更した場合、目的は労務管理上の問題だったとしても、結果として源泉所得税の納付不足が生じれば、重加算税が問題となる可能性があります。
つまり、税務以外の目的であっても、事実を意図的に変更したこと自体が重視されるのです。
税理士が確認すべきポイント
税理士は金額だけを見るのではなく、勘定科目の背景まで確認する必要があります。
例えば、
・請求書の内容と仕訳が一致しているか
・契約書と勘定科目に矛盾はないか
・給与を別名目で処理していないか
・取引実態を裏付ける資料が存在するか
・担当者の説明と証憑が一致しているか
こうした点を毎月確認することで、重加算税につながるリスクを大幅に減らすことができます。
月次監査は、数字を確認するだけではなく、「事実を正しく記録しているか」を確認する作業でもあるのです。
正しい経理は会社を守る
勘定科目は、会社の経営実態を表す重要な情報です。
もし事実と異なる表示が続けば、税務署だけでなく、金融機関や株主、取引先からの信用にも影響します。
経理は単なる記帳作業ではありません。
企業活動を正確に記録し、説明責任を果たすための重要な仕事です。
だからこそ、「この程度なら大丈夫」という安易な科目変更は避けるべきでしょう。
結論
勘定科目の選択ミスと、意図的な科目の付け替えは全く異なります。
判断を誤っただけであれば、通常は重加算税の対象にはなりません。
しかし、事実を隠したり、実態とは異なる科目へ意図的に変更したりすれば、「仮装」と評価される可能性があります。
税理士は、勘定科目だけを見るのではなく、その背後にある取引実態や証憑との整合性まで確認する姿勢が求められます。
経理の正確さは、会社の信頼を守り、税務リスクを防ぐ最も基本的な内部統制といえるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年06月22日
連載「続・傍流の正論~税相を斬る」弁護士・税理士 品川芳宣 第95回/重加の論点②、故意の要否