税務調査で「重加算税」という言葉を聞くと、多くの経営者は「わざと脱税したわけではない」と考えます。確かに、重加算税は最も重い行政上の制裁措置の一つですが、実は「脱税する意思」がなければ課されないというものではありません。
この点は誤解されることが非常に多く、税務調査の現場でも重要な論点となっています。
今回は、重加算税と「故意」の関係について考えてみます。
重加算税は脱税罪とは違う
重加算税は刑事罰ではありません。
国税通則法では、納税者が事実を「隠蔽」または「仮装」した結果として申告漏れや納税不足が生じた場合に課される行政上の制裁とされています。
ここで重要なのは、刑事事件のように「脱税しよう」という意思を立証することが求められているわけではないという点です。
つまり、「故意に税金を逃れようとしたか」という心理状態よりも、「事実を意図的に隠したり偽ったりしたか」という行為そのものが重視される制度なのです。
長年続いた故意を巡る論争
この問題については、かつて三つの考え方がありました。
第一は、客観的に隠蔽や仮装が認められれば十分であり、故意まで立証する必要はないという考え方です。
第二は、事実を隠蔽・仮装する認識があれば足り、税金を少なく申告する認識までは不要とする考え方です。
第三は、隠蔽や仮装の認識だけでなく、「税金を免れよう」という意思まで必要とする考え方です。
もし第三の考え方を採用すれば、税務当局は納税者の心理状態まで証明しなければならず、実務上は極めて困難になります。
最高裁が示した判断基準
この論争に決着を付けたのが昭和62年5月8日の最高裁判決です。
最高裁は、重加算税は故意による脱税行為そのものへの制裁ではなく、不正な方法による申告違反に対する行政措置であると明確に示しました。
そのため、
・故意に事実を隠蔽または仮装したこと
・その隠蔽や仮装が原因となって過少申告などが発生したこと
この二つが認められれば足り、「税金を少なく申告しよう」という認識まで証明する必要はないと判断しています。
現在の重加算税の実務は、この最高裁判決を基本として運用されています。
実務で起こり得る身近な事例
例えば、残業時間が労働基準法の上限を超えていた会社が、労働基準監督署の指摘を避けるため、残業手当を「出張旅費」として処理していたとします。
法人税だけを見ると、どちらも経費として認められるため、所得金額に影響はありません。
しかし、給与を旅費に仮装したことで、本来徴収すべき源泉所得税が納付されていなければ、源泉所得税については過少納付が発生します。
会社側は「税金を逃れる目的ではなかった」と説明するかもしれません。
しかし、給与を旅費に仮装したことを会社自身が認識していたのであれば、重加算税の対象となる可能性があります。
つまり、目的が労基法対策であったとしても、税務上は仮装行為として評価されることがあるのです。
税理士が注意すべきポイント
税理士が確認すべきなのは、「脱税の意思があったか」だけではありません。
それ以上に重要なのは、
・帳簿を書き換えていないか
・証憑を差し替えていないか
・名義を変更していないか
・勘定科目を意図的に変更していないか
・原始記録が改ざんされていないか
といった「事実の隠蔽・仮装」に当たる行為が存在しないかを確認することです。
日常の経理処理の中には、「税金対策ではない」という理由で行われるものもあります。
しかし、その処理方法が税務上は仮装と評価されることもあるため、十分な注意が必要です。
重加算税を防ぐ最善策
重加算税は、税額の大小だけで判断されるものではありません。
問題となるのは、事実を正しく記録し、ありのまま申告しているかどうかです。
経営上の事情や他法令への対応を優先した結果であっても、帳簿や証憑の内容を事実と異なる形にしてしまえば、税務上は思わぬリスクにつながります。
だからこそ、経営者は「結果」だけではなく、「経理処理の方法」まで含めて税理士と十分に相談することが重要です。
結論
重加算税は、「脱税しようと思ったかどうか」だけで判断される制度ではありません。
現在の判例実務では、「事実を故意に隠蔽・仮装し、その結果として過少申告などが発生したか」が判断の中心となっています。
そのため、経営者は「税金を逃れるつもりはなかった」という説明だけでは安心できません。
税理士も、申告書の数字だけではなく、その数字が作られるまでの帳簿や証憑、経理処理の過程を丁寧に確認し、不適切な処理を未然に防ぐことが、顧問業務における重要な役割といえるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年06月22日
連載「続・傍流の正論~税相を斬る」弁護士・税理士 品川芳宣 第95回/重加の論点②、故意の要否