人材不足が深刻化する中、多くの企業が採用活動に力を入れています。
しかし、本当に競争力のある企業は、「採用がうまい会社」ではありません。
「社員が辞めない会社」です。
一人の社員が退職すると、新たな採用費や教育費が必要になるだけではありません。
長年培ってきた知識や経験、顧客との信頼関係まで失われる可能性があります。
だからこそ、これからの経営では「どう採用するか」以上に、「どう定着してもらうか」が重要な経営課題になっています。
退職の理由は給与だけではない
社員が会社を辞める理由として、給与だけが原因と思われることがあります。
しかし実際には、それ以外の理由も少なくありません。
仕事へのやりがいを感じられない。
成長できる環境がない。
上司とのコミュニケーションが不足している。
休暇を取得しにくい。
将来への不安がある。
こうした小さな不満が積み重なり、退職という決断につながります。
社員が安心して働ける環境づくりは、給与以上に重要な要素になっています。
社員を大切にする会社には人が集まる
社員が長く働く会社には共通点があります。
互いに助け合う文化があります。
挑戦を応援する雰囲気があります。
失敗を責めるよりも成長を支援します。
有給休暇も取得しやすく、仕事と家庭を両立しやすい制度があります。
福利厚生や社員教育にも積極的です。
社員は「会社のために働く」のではなく、「この会社で働き続けたい」と感じています。
その積み重ねが、高い定着率につながっています。
人的資本経営は社員への信頼から始まる
人的資本経営とは、人を単なる労働力ではなく、企業価値を生み出す資本として考える経営です。
その第一歩は、社員を信頼することです。
仕事を任せる。
成長の機会を与える。
学びを支援する。
働きやすい環境を整える。
こうした取り組みは短期間では成果が見えないかもしれません。
しかし、長い目で見れば企業の競争力を大きく高めます。
社員への信頼が、社員から会社への信頼につながるのです。
定着率は重要な経営指標になる
売上や利益は毎月確認していても、離職率や定着率を経営指標として見ている企業はまだ多くありません。
しかし、定着率は企業の将来を左右する重要な数字です。
離職率が高ければ、
採用費が増える。
教育費が増える。
生産性が低下する。
顧客対応の品質も不安定になります。
反対に、社員が長く働く会社では経験やノウハウが蓄積され、組織全体が成長していきます。
定着率は人的資本経営の成果を示す重要な指標といえるでしょう。
税理士が支援できる人的資本経営
税理士は毎月の試算表を通じて、企業の変化を最も身近で確認できる専門家です。
採用費や教育費の推移。
残業代の増減。
福利厚生費への投資。
こうした数字を分析することで、人材に関する課題を経営者へ伝えることができます。
また、人的資本への投資が利益や企業価値にどのような影響を与えるのかを数字で説明できることも税理士の強みです。
税務や会計だけでなく、人材定着まで支援する存在として、税理士の役割はますます広がっていくでしょう。
結論
社員が辞めない会社には、特別な魔法があるわけではありません。
社員を大切にし、安心して成長できる環境をつくるという地道な積み重ねがあります。
人的資本経営とは、人をコストではなく企業の未来をつくる資本として考える経営です。
採用が難しい時代だからこそ、今いる社員に長く活躍してもらうことが企業の最大の競争力になります。
税理士もまた、数字を通じて人的資本への投資効果を経営者と共有し、社員が辞めない会社づくりを支援する経営パートナーとして、その存在価値をさらに高めていくことが期待されるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年6月28日 朝刊
国家公務員に「無給休暇」 理由問わず、時間単位可能 私生活と両立で離職防ぐ