相続税というと、多くの人は、
- 預金
- 不動産
- 現金
などをイメージします。
しかし、実際の相続税実務では、課税対象となる財産の範囲はかなり広く、
- 生命保険
- 死亡退職金
- 海外資産
- 生前贈与
- 相続時精算課税財産
なども対象になる場合があります。
実務上は、
「これは相続財産ではないと思っていた」
という認識違いが、申告漏れや税務調査につながるケースも少なくありません。
今回は、国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」を参考にしながら、“相続税の対象になる財産”を実務目線で整理していきます。
相続税は“相続したもの全部”ではない
まず重要なのは、相続税は単純に「受け取ったもの全部」にかかるわけではないという点です。
相続税法では、
- 本来の相続財産
- みなし相続財産
- 一定の生前贈与財産
などを合算して、課税価格を計算します。
つまり、
「民法上の相続財産」
と
「相続税法上の課税財産」
は、完全には一致しません。
ここが、相続税実務を難しくしているポイントの一つです。
本来の相続財産とは何か
まず基本となるのが、「本来の相続財産」です。
これは、被相続人が死亡時に所有していた財産を指します。
例えば、
- 土地
- 建物
- 預貯金
- 現金
- 株式
- 投資信託
- 貸付金
- 金地金
- 貴金属
- ゴルフ会員権
- 事業用財産
などです。
さらに、日本国内だけでなく、海外財産も対象になる場合があります。
実務では、
- 海外口座
- 海外不動産
- 外国株式
などの申告漏れも問題になりやすい分野です。
“みなし相続財産”とは何か
相続税実務で非常に重要なのが、「みなし相続財産」です。
これは、民法上は相続財産ではなくても、相続税法上は“相続で取得したものとみなす”財産です。
代表例が、
- 死亡保険金
- 死亡退職金
です。
死亡保険金はなぜ課税対象になるのか
生命保険金は、通常、
- 契約によって受取人固有の権利
と考えられています。
つまり、民法上は遺産分割対象外になるケースが多くあります。
しかし、相続税法では、
「被相続人が保険料を負担していた部分」
については、相続税対象になります。
つまり、
- 契約者
- 被保険者
- 保険料負担者
- 受取人
の関係によって、税務上の扱いが変わります。
ここは、相続税・所得税・贈与税が分かれる非常に重要な論点です。
死亡保険金には非課税枠がある
相続人が受け取る死亡保険金には、一定の非課税枠があります。
計算式は次のとおりです。
500万円 × 法定相続人の数
例えば、
- 配偶者+子2人
なら、法定相続人3人ですので、
500万円 × 3人 = 1,500万円
が非課税になります。
ただし、
- 相続人以外
- 孫
- 内縁配偶者
などが受け取る場合は扱いが異なることがあります。
実務では、
「非課税になると思っていた」
という誤解も多いため、注意が必要です。
死亡退職金も対象になる
勤務先から支給される死亡退職金も、相続税法上は「みなし相続財産」となります。
さらに、死亡保険金と同様に、
500万円 × 法定相続人の数
の非課税枠があります。
近年は、
- 企業年金
- 退職給付制度
- 確定拠出年金
など、退職関連制度が多様化しているため、実務上の判定も複雑化しています。
相続開始前7年以内の贈与は加算対象
相続税では、生前贈与にも注意が必要です。
特に重要なのが、
「相続開始前7年以内の贈与加算」
です。
被相続人から相続人などへ行われた一定の贈与は、相続財産へ加算されます。
つまり、
「生前に渡していたから相続税は関係ない」
とは限りません。
ここは、相続対策実務で非常に重要な論点です。
相続時精算課税も相続時に合算される
相続時精算課税制度を使った財産も、最終的には相続時に合算されます。
つまり、
- 贈与時に一旦課税関係を整理し
- 相続時に再計算する
制度です。
そのため、
「相続税対策として完全に切り離された財産」
ではありません。
実務では、
- 暦年課税
- 相続時精算課税
のどちらを選択するかが、大きな判断ポイントになります。
教育資金・結婚子育て資金贈与も注意
近年は、
- 教育資金一括贈与
- 結婚・子育て資金贈与
などの非課税制度もあります。
しかし、一定の場合には、
- 管理残額
- 契約終了時残高
などが、相続税対象になるケースがあります。
制度だけを見ると「非課税」に見えても、最終的には相続税へ影響することがあるため、注意が必要です。
“課税対象外”と思い込む危険
実務では、
- 保険金は対象外
- 子ども口座は対象外
- 生前贈与済みだから大丈夫
などの思い込みによって、申告漏れが発生するケースがあります。
しかし相続税は、
- 実質
- 資金負担
- 契約関係
- 管理状況
などを総合的に見て判断されます。
そのため、
「誰名義か」
だけではなく、
「実際には誰の財産だったのか」
が非常に重要になります。
今後は“資産把握”がさらに進む可能性
現在は、
- 金融機関情報
- マイナンバー
- 国際的情報交換
- AI分析
などによって、資産把握の高度化が進んでいます。
特に、
- 海外資産
- 名義分散
- 生前移転
などは、今後さらに把握されやすくなる可能性があります。
そのため、相続税実務では、
「見つからなければよい」
ではなく、
「適切に整理・説明できる状態」
がより重要になっていくと考えられます。
結論
相続税の対象となる財産は、
- 預金
- 不動産
- 現金
だけではありません。
実際には、
- 死亡保険金
- 死亡退職金
- 生前贈与
- 相続時精算課税財産
- 海外資産
なども含め、非常に広い範囲が対象になります。
また、相続税実務では、
- 民法上の相続財産
- 相続税法上の課税財産
が一致しないことも重要です。
だからこそ、
- 財産一覧
- 契約関係
- 保険内容
- 贈与履歴
- 海外資産
などを、生前から整理しておくことが、将来の相続実務では重要になります。
次回は、「生命保険と死亡退職金の非課税枠はどう使うのか(節税実務編)」をテーマに、“500万円×法定相続人”の非課税枠の考え方や、実務上の注意点を整理していきます。
参考
国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」令和7年4月
国税庁「タックスアンサー 相続税」令和7年
国税庁「相続税のあらまし」令和7年