相続では、法律で定められた相続人であれば、原則として相続する権利があります。
しかし、家族だからといって、どのような場合でも相続権が守られるわけではありません。
例えば、親に対して長年にわたり虐待を繰り返したり、重大な侮辱や非行を行ったりした子どもがいた場合、その人にも相続させなければならないのでしょうか。
このような場合に利用できる制度が「相続人廃除」です。
前回解説した相続欠格とは似ていますが、制度の目的や手続きは大きく異なります。
今回は、相続人廃除について分かりやすく解説します。
相続人廃除とは被相続人が相続権を奪う制度
相続人廃除とは、被相続人が家庭裁判所へ請求し、一定の要件を満たした場合に、相続人の相続権を失わせる制度です。
相続欠格のように法律で自動的に相続権を失うわけではありません。
あくまで被相続人自身が「この人には相続させたくない」という意思を持ち、家庭裁判所がその理由を審査したうえで認められる制度です。
つまり、相続人廃除は被相続人の意思を尊重するための制度といえます。
廃除が認められるのは重大な事情がある場合
相続人廃除は、親子げんかや不仲という程度では認められません。
法律では、
- 被相続人に対する虐待
- 重大な侮辱
- 著しい非行
などが対象とされています。
例えば、
暴力を繰り返していた。
長期間にわたり深刻な嫌がらせを続けていた。
重大な犯罪行為によって家族関係が破綻していた。
このような事情がある場合に、廃除が認められる可能性があります。
制度が厳格に運用されているのは、相続権という重要な権利を奪う制度だからです。
家庭裁判所が慎重に判断する
相続人廃除は、被相続人が希望しただけで認められるわけではありません。
家庭裁判所が事実関係を詳しく調べ、本当に廃除すべき事情があるかどうかを判断します。
例えば、
親子がお互いに感情的な対立を繰り返していた。
価値観の違いから長年疎遠になっていた。
親の希望に反して結婚した。
こうした事情だけでは、通常は廃除は認められません。
制度は感情的な対立を解決するためではなく、相続人として保護することが著しく不適切な場合に限って利用されるものなのです。
相続欠格との違いを理解する
相続欠格と相続人廃除は混同されることがありますが、仕組みは大きく異なります。
相続欠格は、法律で定められた重大な行為があれば、自動的に相続権を失います。
一方、相続人廃除は、被相続人の請求と家庭裁判所の判断が必要です。
つまり、
相続欠格は法律による制裁。
相続人廃除は被相続人の意思を実現する制度。
という違いがあります。
どちらも相続権を失う結果は同じですが、その理由と手続きはまったく異なります。
実際に認められるケースは多くない
相続人廃除という制度はありますが、実際に認められる件数は決して多くありません。
これは、親子関係や家族関係にはさまざまな事情があり、一方だけに責任があるとは限らないためです。
また、相続権は法律上非常に重要な権利であるため、裁判所も慎重に判断します。
そのため、家族間の不和や意見の対立だけでは廃除が認められることは少なく、本当に重大な事情がある場合に限って適用される制度となっています。
結論
相続人廃除とは、被相続人が家庭裁判所へ請求し、虐待や重大な侮辱、著しい非行などが認められた場合に、相続人の相続権を失わせる制度です。
相続欠格とは異なり、自動的に相続権を失うわけではなく、被相続人の意思と家庭裁判所の判断が必要になります。
相続権は法律で強く保護されている権利だからこそ、それを奪う制度も厳格に運用されています。
相続人廃除は、被相続人の意思と相続制度の公平性を両立させるために設けられた、例外的な制度といえるでしょう。
参考
日本税理士会連合会 令和7年度全国統一研修会「相続法概説」(早川眞一郎)