治療と仕事の両立支援は、環境整備だけでは機能しません。
実務として定着させるためには、「就業規則への反映」が不可欠です。
しかし現場では、
・どこまで規則に書くべきか
・どの制度を規定すべきか
・個別対応とのバランスをどう取るか
といった悩みが多く見られます。
本稿では、両立支援を制度として成立させるための就業規則設計の考え方を整理します。
就業規則に落とし込む意味
両立支援は個別性の高いテーマですが、だからこそルールが必要です。
理由は3つあります。
・判断のばらつきを防ぐ
・公平性を確保する
・トラブルを未然に防ぐ
就業規則に位置付けることで、
「特例対応」ではなく「制度対応」に変わります。
① 必ず関係する3つの領域
両立支援は、特定の条文だけで完結するものではありません。
就業規則の複数の領域にまたがって影響します。
労働時間・休暇
・始業終業時刻の変更
・短時間勤務
・時差出勤
・通院のための休暇
賃金
・短時間勤務時の給与減額
・休職中の給与の取扱い
・社会保険料の扱い
退職・解雇
・休職期間満了時の扱い
・復職不能時の対応
これらはすべて、就業規則上の重要事項です。
② 制度として規定すべき項目
両立支援において、就業規則または関連規程で整備すべき主な制度は次のとおりです。
休職・休暇制度
・私傷病休職制度
・傷病休暇制度
・積立有給制度
・時間単位年休
勤務制度
・短時間勤務
・時差出勤
・テレワーク
・出勤日数の調整
重要なのは、
すべて導入することではなく、自社で運用できる制度を選ぶこと
です。
③ 「別に定める」の活用
両立支援制度は個別性が高く、頻繁に見直しが必要になります。
そのため、
・詳細を就業規則に書き込む
・すべてを固定化する
という方法は実務的ではありません。
そこで有効なのが、
「別に定める」方式
です。
就業規則には概要のみを記載し、
詳細は別規程や運用ルールに委ねることで、
・柔軟な運用
・迅速な見直し
が可能になります。
④ いきなり完成させないという考え方
制度設計でありがちな失敗は、
「最初から完璧な制度を作ろうとすること」
です。
両立支援は、
・対象者の状態が多様
・業務内容によって対応が異なる
・実際に運用しないと問題が見えない
という特徴があります。
したがって、
・まずは運用してみる
・課題を洗い出す
・必要に応じて規則化する
というステップが有効です。
⑤ 公平性と個別配慮のバランス
両立支援で最も難しいのが、
公平性と個別対応のバランス
です。
・特定の従業員だけ優遇しているように見える
・現場の不満が高まる
・同様のケースで対応が変わる
といった問題が起きやすくなります。
これを防ぐためには、
・基本ルールを明確にする
・適用基準を統一する
・例外の考え方を整理する
ことが必要です。
⑥ 対象範囲の設計
制度を設計する際には、
・正社員のみ対象とするのか
・パート・契約社員も含めるのか
といった対象範囲の整理も重要です。
特に近年は、
・無期転換労働者の増加
・同一労働同一賃金の考え方
を踏まえる必要があります。
対象範囲が曖昧なままでは、
後のトラブルにつながります。
⑦ 周知しなければ存在しないのと同じ
就業規則に記載しただけでは、制度は機能しません。
現場では、
・規則を読んでいない
・制度の存在を知らない
・利用方法がわからない
という状態が一般的です。
そのため、
・定期的な周知
・管理職への教育
・具体事例の共有
を通じて、「使われる制度」にする必要があります。
結論
両立支援の制度設計は、
完璧なルールを作ることではなく、
運用できるルールを作ること
が本質です。
・基本ルールを明確にする
・個別対応の余地を残す
・運用しながら改善する
この3つを押さえることで、
制度は初めて現場で機能します。
参考
・企業実務 第65巻第6号(2026年4月25日)付録
治療と仕事の両立支援ガイドブック
・厚生労働省
治療と就業の両立支援指針(2026年2月)