企業経営において、「人材の確保」はこれまで以上に重要なテーマとなっています。
そのなかで見落とされがちでありながら、確実に重要性が高まっているのが「治療と仕事の両立支援」です。
2026年4月から、この両立支援は努力義務として位置付けられました。
これは単なる制度変更ではなく、企業の人事戦略そのものに関わるテーマです。
本シリーズでは、厚生労働省のガイドラインをベースに、制度の本質から実務対応までを整理していきます。
両立支援が必要になった背景
日本の労働環境は大きく変化しています。
・高齢者の就業増加
・医療技術の進歩
・慢性疾患と共に働く人の増加
これらの要因により、「病気=退職」という時代ではなくなりました。
実際には、通院しながら働く労働者は約4割に達しています。
また、がん治療中の労働者も数十万人規模にのぼります。
つまり、病気を抱えた労働者は「例外」ではなく、「前提」になっています。
制度化の意味:努力義務への格上げ
これまで両立支援はガイドラインベースの「推奨」に過ぎませんでした。
しかし2026年4月以降は、
・労働施策総合推進法に基づく
・努力義務としての位置付け
となり、企業として「対応していること」が求められる段階に入っています。
ただし重要なのは、
これは罰則付きの義務ではないが、放置できるテーマではない
という点です。
現実:企業も従業員も苦しんでいる
理想とは裏腹に、現場では大きなギャップが存在しています。
労働者側の問題
・申し出ると不利益になるのではないか
・周囲に迷惑をかけたくない
・仕事を続けられるイメージが持てない
企業側の問題
・代替要員がいない
・業務負担が偏る
・制度が整備されていない
実際には、8割以上の企業が対応に困難を感じています。
人事戦略としての本質
両立支援は「福祉」ではありません。
これは明確に、
人材を失わないための戦略
です。
・経験ある人材の流出防止
・採用コストの抑制
・組織の安定性向上
これらに直結します。
特に人手不足の時代においては、
「辞めさせない仕組み」を持つ企業が競争優位になります。
両立支援の全体プロセス
両立支援は単発の対応ではなく、プロセスとして設計する必要があります。
大きくは次の流れです。
- 診断・通院段階
- 休業・治療段階
- 就業継続(配慮付き)
- 復職判断
- 復職後フォロー
- 就業困難時の対応
この一連の流れを「制度」として整備できているかが、実務上の分かれ目になります。
重要ポイント:個別対応からの脱却
多くの企業では、現状こうなっています。
・ケースごとに都度判断
・担当者の経験に依存
・ルールが曖昧
この状態では、
・対応のばらつき
・不公平感
・トラブル
が発生します。
したがって必要なのは、
個別対応ではなく仕組み化
です。
このシリーズで扱う内容
本シリーズでは、次の流れで整理していきます。
第2回:環境整備編
第3回:制度設計編(就業規則)
第4回:実務対応編
第5回:ケーススタディ編
第6回:総括(実務チェックリスト)
結論
治療と仕事の両立支援は、単なる福利厚生ではなく、
人材戦略・組織戦略そのもの
です。
制度が整っていない企業ほど、
・人材流出
・現場混乱
・経営リスク
を抱えやすくなります。
逆に言えば、ここを整備できれば、
辞めない会社になる
という大きな差別化になります。
参考
・企業実務 2026年4月25日号付録
治療と仕事の両立支援ガイドブック
・厚生労働省 治療と就業の両立支援指針(2026年2月)