残余利益がマイナスになるとどうなるのか 赤字でなくても非上場株評価が下がる仕組み編

税理士
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非上場株式の新しい評価方法として検討されている残余利益方式には、これまでの感覚では少し分かりにくい特徴があります。

それは、会社が黒字であっても「残余利益」がマイナスになることがあるという点です。

例えば年間1000万円の利益を出している会社なら、普通は「利益を出しているのだから会社の価値を高めている」と考えるでしょう。

しかし残余利益方式では、利益が出ているかどうかだけでは判断しません。

その会社に投入されている株主資本に対して、十分な利益を生み出しているかを考えます。

そのため多額の純資産を持ちながら利益が少ない会社では、黒字であっても残余利益がマイナスになる可能性があります。

国税庁の有識者会議でも、残余利益がマイナスの場合には、株式価値が自己資本の簿価を下回る可能性があるという考え方が議論されています。

残余利益がマイナスになる条件

残余利益がマイナスになる仕組みは、それほど複雑ではありません。

残余利益方式では、会社が実際に稼いだ利益と、その会社の株主資本に対して最低限求められる利益を比較します。

この最低限求められる利益が正常利益です。

考え方を単純化すると、

簿価純資産に株主資本コストを掛ける

ことで正常利益を考えます。

そして、

実際の利益が正常利益を上回れば残余利益はプラス

実際の利益と正常利益が同じなら残余利益はゼロ

実際の利益が正常利益を下回れば残余利益はマイナス

になります。

つまり会社が赤字かどうかではなく、必要とされる利益を上回っているかどうかが基準になります。

黒字でも残余利益がマイナスになる理由

具体的な数字で考えてみます。

簿価純資産が5億円ある会社を想定します。

株主資本コストを5%と仮定すると、この会社に求められる正常利益は2500万円です。

ところが実際の年間利益が1000万円だったとします。

会社としては1000万円の黒字です。

損益計算書だけを見れば、利益を出している健全な会社に見えるかもしれません。

しかし残余利益は、

1000万円から2500万円を差し引いたマイナス1500万円

になります。

5億円という株主資本を使っている以上、年間2500万円程度の利益が求められるのに、1000万円しか生み出していないと考えるからです。

つまり黒字か赤字かという会計上の基準と、資本に見合った収益を生み出しているかという企業価値上の基準は違います。

赤字とマイナスの残余利益は意味が違う

ここは区別して考える必要があります。

赤字とは、基本的には収益より費用が多く、会計上の利益がマイナスになっている状態です。

一方、残余利益がマイナスというのは、会社そのものが必ず赤字という意味ではありません。

利益を出していても、その利益が株主資本に対して求められる水準に届いていない状態です。

例えば年間500万円の利益を出している会社が二つあるとします。

A社の簿価純資産は5000万円です。

B社の簿価純資産は3億円です。

株主資本コストを5%とすると、A社の正常利益は250万円です。

したがって残余利益は250万円のプラスです。

一方、B社の正常利益は1500万円です。

実際の利益は500万円なので、残余利益はマイナス1000万円です。

同じ500万円の黒字でも、残余利益から見ると評価は正反対になるわけです。

自己資本利益率との関係

残余利益がプラスになるかマイナスになるかは、自己資本利益率を見ると理解しやすくなります。

自己資本利益率は一般にROEと呼ばれます。

会社が株主から提供された自己資本を使って、どれだけ利益を生み出しているかを見る指標です。

例えば自己資本1億円に対して年間1000万円の利益なら、単純化するとROEは10%です。

自己資本5億円に対して年間1000万円の利益ならROEは2%です。

同じ1000万円の利益でも、資本効率は大きく違います。

ここで株主資本コストを5%とします。

ROE10%の会社なら、

ROE10%が株主資本コスト5%を上回る

ため、残余利益はプラスになります。

一方、ROE2%の会社なら、

ROE2%が株主資本コスト5%を下回る

ため、残余利益はマイナスになります。

残余利益方式を見るときには、ROEと株主資本コストの大小関係が重要になるのです。

ROEが株主資本コストを上回れば価値を生み出す

企業価値の考え方では、会社が単に利益を出すだけでなく、資本コストを上回る収益率を実現することが重要です。

例えば株主資本コストが5%なのにROEが10%なら、会社は株主から求められている収益率以上の利益を生み出しています。

この差が企業価値を生み出す源泉になります。

反対に株主資本コスト5%に対してROEが3%なら、利益は出ていても必要とされる収益力には達していません。

この状態が続けば、残余利益はマイナスになります。

したがって残余利益方式では、

利益の金額

だけではなく、

利益を純資産で割った収益率

を見る必要があります。

多額の内部留保を持つ会社は注意が必要になる

この考え方は、長年黒字を続けてきた中小企業にとって興味深い問題を生みます。

日本の中小企業には、利益を配当せず会社に残してきた企業が少なくありません。

利益を内部留保すると、その分だけ純資産が積み上がっていきます。

例えば毎年3000万円を会社に残し続ければ、単純化すると10年間で3億円の純資産が増えます。

財務の安全性という意味では非常に強い会社になります。

しかし純資産が増えると、残余利益方式では正常利益も増えます。

株主資本コストが5%なら、純資産が3億円増えることで、年間1500万円の正常利益が追加的に求められる計算になります。

利益がそれ以上のペースで増えていなければROEは低下します。

その結果、会社は黒字でも残余利益がマイナスになる可能性があります。

資産を持っているだけでは高い収益力とは評価されない

例えば、会社が長年の利益を蓄積し、多額の現預金を持っているとします。

純資産は5億円あります。

しかし本業から生み出す利益は年間1000万円です。

従来の感覚では、純資産5億円を持つ財務内容の良い会社と見ることができます。

もちろん倒産リスクなどを考えれば、豊富な現預金を持つことには大きな意味があります。

しかし残余利益方式では別の視点から評価します。

5億円という資本を使って1000万円しか利益を生み出していないのであれば、資本収益性は低いと考えます。

資産をたくさん持っていることと、その資産を効率的に使って利益を生み出していることは別だからです。

評価額が簿価純資産を下回る仕組み

残余利益方式で特に特徴的なのが、残余利益がマイナスの場合、理論上は企業価値が簿価純資産を下回ることがあり得る点です。

残余利益方式では、簿価純資産を企業価値の出発点として考えます。

そこに将来生み出される残余利益の価値を反映します。

残余利益がプラスなら、その価値を簿価純資産に上乗せする方向に働きます。

反対に残余利益が継続的にマイナスなら、その価値は簿価純資産から差し引く方向に働きます。

例えば簿価純資産が5億円あっても、その資本から十分な利益を生み出せない状態が今後も続くと考えられるなら、会社全体の経済的価値を5億円より低く評価するという考え方です。

なぜ純資産5億円の会社を5億円未満と評価できるのか

ここには疑問を感じるかもしれません。

会社に5億円の純資産があるなら、株式価値も最低5億円あるのではないかという考え方です。

しかし企業は通常、資産をすぐに全部売却して清算することを前提として存在しているわけではありません。

事業を継続する会社として評価する場合には、その資産を使って将来どれだけ利益を生み出せるかが重要になります。

例えば5億円の資本を使いながら、毎年わずかな利益しか生み出せない会社と、1億円の資本から毎年大きな利益を生み出す会社では、事業としての収益力が違います。

残余利益方式は、この違いを株式価値に反映しようとするものです。

そのため、簿価純資産がそのまま企業価値の最低額になるとは限らないという考え方になります。

小規模企業の評価額が下がる可能性とも関係する

今回の非上場株評価見直しでは、収益力が高く規模の大きい会社では評価額が上昇する一方、小規模な中小企業や零細企業では負担が軽減される可能性が指摘されています。

その背景を理解するうえでも、マイナスの残余利益という考え方は重要です。

純資産はあるものの収益力が低い会社では、実際の利益が正常利益を下回ることがあります。

その状態を株式価値へ反映すれば、単純に純資産だけを基準とする場合より評価額が低くなる可能性があります。

つまり残余利益方式は、収益力の高い会社の評価額を引き上げるだけの仕組みではありません。

収益力の低い会社について、その実態を評価額に反映する仕組みでもあるのです。

赤字会社ではさらに慎重な検討が必要になる

黒字会社でも残余利益がマイナスになる以上、赤字会社ではさらに大きなマイナスになる可能性があります。

ただし、一時的な赤字だけで会社の価値を大幅に引き下げることが適切とは限りません。

例えば設備投資による一時的な費用増加で赤字になった会社もあります。

災害や取引先の倒産など特殊な事情で赤字になる場合もあります。

創業直後で先行投資を行っている会社もあります。

そのため実際の制度設計では、どの期間の利益を見るのか、一時的な損益をどのように扱うのかが重要になります。

単年度の利益だけで判断するのか、複数年度の平均利益などを使うのかによって評価結果は大きく変わります。

新ルールを見るときは利益だけでは足りない

今後、残余利益方式を利用した非上場株評価の具体的な制度設計が進めば、オーナー経営者が確認すべき数字も変わってくる可能性があります。

これまでは自社株対策というと、利益額や純資産額、配当などに注目することが多かったでしょう。

しかし残余利益方式では、それらを個別に見るだけでは十分ではありません。

純資産はいくらあるのか。

その純資産からどれだけ利益を生み出しているのか。

ROEはどの程度なのか。

株主資本コストを上回る収益力があるのか。

こうした数字を一体として見る必要があります。

新しい非上場株評価では「会社が黒字だから評価額が高い」「純資産が多いから評価額が高い」という単純な関係ではなくなる可能性があるのです。

結論

残余利益がマイナスになるのは、会社が赤字だからとは限りません。

会社が黒字であっても、実際の利益が株主資本に対して求められる正常利益を下回れば、残余利益はマイナスになります。

その判断を理解するうえで重要なのがROEと株主資本コストの関係です。

ROEが株主資本コストを上回れば、会社は資本コストを超える利益を生み出しており、残余利益はプラスになります。

反対にROEが株主資本コストを下回れば、黒字でも残余利益はマイナスになります。

そして残余利益方式では、マイナスの残余利益が継続すると考えられる場合、株式価値が簿価純資産を下回る方向に評価される可能性があります。

これは非上場株評価を考えるうえで大きな発想の転換です。

単に資産を多く持っている会社を高く評価するのではなく、その資本を使ってどれだけ利益を生み出しているのかまで評価するからです。

新しい評価方法が実現すれば、高収益会社では評価額が上昇する一方、資本に対する収益力が低い会社では評価額が低下する可能性があります。

残余利益方式は「黒字か赤字か」ではなく、「資本に見合った利益を生み出しているか」という視点から非上場会社の価値を測る仕組みなのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月21日 朝刊 非上場株の相続評価新ルール案、純資産と収益力を重視

国税庁 2026年6月4日 非上場株式の評価のあり方に関する有識者会議 議事要旨

国税庁 税務大学校論叢第96号 2019年6月 今後の取引相場のない株式の評価のあり方

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