働き方改革関連法の施行により、企業には「年5日の年次有給休暇を確実に取得させること」が義務付けられました。しかし、「有給休暇は本人が申請するものだから会社は関係ない」「希望者だけ取得すればよい」と考えている人もいるかもしれません。
実際には、この制度は企業にも働く人にも重要な意味を持っています。有給休暇は単なる福利厚生ではなく、心身の健康を維持し、生産性を高めるための大切な仕組みです。
今回は、有給休暇の年5日取得義務の概要と、企業が実務で押さえておきたいポイントについて解説します。
年5日取得義務とは何か
労働基準法では、一定の要件を満たした労働者には年次有給休暇が付与されます。
そのうち、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については、企業は毎年5日について、確実に取得させなければなりません。
これは、有給休暇を「取得できる制度」から「確実に取得する制度」へと一歩進めた大きな改正です。
企業は対象となる従業員の取得状況を把握し、必要に応じて取得日を指定することも求められます。
なぜ取得義務が設けられたのか
日本では以前から有給休暇の取得率が低いことが課題とされてきました。
「職場に迷惑をかける」「忙しくて休めない」といった理由から、有給休暇をほとんど取得しない人も少なくありませんでした。
しかし、十分な休息が取れなければ疲労が蓄積し、仕事の効率や判断力の低下につながります。
有給休暇の取得義務は、働く人の健康を守るとともに、安心して休める職場文化をつくることを目的としています。
有給休暇は企業にもメリットがある
「休まれると仕事が回らない」と感じる経営者もいるかもしれません。
しかし、有給休暇を取得しやすい職場には多くのメリットがあります。
例えば、
・従業員の疲労回復につながる
・仕事への意欲が高まる
・離職率の低下が期待できる
・採用活動で企業の魅力になる
・業務の属人化を見直すきっかけになる
休暇を取得できる職場は、結果として組織全体の生産性向上にもつながります。
計画的な取得が重要
有給休暇を年末に慌てて取得するようでは、本来の制度の目的を十分に果たせません。
企業では、
・年間の取得計画を立てる
・繁忙期を避けて取得を促す
・チーム内で業務を共有する
・休暇取得予定を早めに調整する
など、計画的な運用が重要になります。
休暇を前提とした業務体制を整えることが、安定した職場運営につながります。
管理職の意識が職場を変える
有給休暇の取得を進めるうえで重要なのが管理職の姿勢です。
管理職自身が休暇を取得しない職場では、部下も休みにくい雰囲気になりがちです。
また、「忙しいから休めない」という状況が続けば、制度があっても実際には活用されません。
管理職には、
・計画的な業務配分
・休暇取得の声掛け
・業務の引き継ぎ体制の整備
など、休みやすい環境づくりが求められます。
有給休暇は働き方改革の一部
働き方改革は、残業時間を減らすことだけが目的ではありません。
十分な休息を取りながら、限られた時間で成果を上げる働き方へ転換することが重要です。
有給休暇の取得は、その考え方を実現するための大切な制度です。
休暇を取得することで心身をリフレッシュし、新たな発想や創造性が生まれることもあります。
「休むことも仕事の一部」という意識を持つことが、これからの働き方には欠かせません。
人手不足時代だからこそ重要になる
今後は少子高齢化の影響で、人材確保はますます難しくなると考えられています。
その中で、「休みやすい会社」は求職者から選ばれる大きな理由の一つになります。
有給休暇を取得しやすい職場は、従業員満足度が高まり、長く働き続けてもらえる可能性も高くなります。
有給休暇の取得促進は、労務管理だけでなく、人材戦略としても重要な取り組みなのです。
結論
有給休暇の年5日取得義務は、法令を守るためだけの制度ではありません。働く人が十分な休息を取り、健康を維持しながら長く活躍するための大切な仕組みです。
企業は取得状況を管理するだけでなく、休暇を取りやすい職場づくりや業務改善にも取り組むことが求められます。そして働く人自身も、有給休暇を「遠慮して使わない権利」ではなく、「健康で働き続けるための権利」として積極的に活用することが重要です。
有給休暇を取得しやすい職場は、従業員にも企業にも大きな価値をもたらします。これからの時代は、「休める会社」が、持続的に成長できる会社になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞(2026年7月8日夕刊)
「マネー相談 黄金堂パーラー〉労災保険(下)補償の範囲 熱中症や腰痛、業務なら対象」
日本経済新聞(2026年7月8日夕刊)
「判断に迷ったら諦めず申請 弁護士 古川拓さん」