必要病床数と稼働可能病床数は何が違うのか 病床があっても看護師がいなければ患者を受け入れられない理由編

人生100年時代
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地域医療を考えるとき、よく登場する数字の一つが「必要病床数」です。

高齢者が増えれば入院患者も増えるため、将来どれくらいの病床が必要になるのかを予測し、それに合わせて地域の医療提供体制を整えていく必要があります。

ところが、ここには注意しなければならない点があります。

将来1000床が必要だと計算されたからといって、実際に1000床を使えるとは限らないからです。

病院には建物があり、ベッドが置かれていても、それだけでは患者を受け入れることはできません。

医師や看護師などの医療従事者が配置され、24時間医療を提供できる体制が整って初めて病床を動かすことができます。

人口減少が進む2040年の地域医療では、「何床必要なのか」だけではなく、「実際に何床動かせるのか」という視点がこれまで以上に重要になります。

必要病床数とは何か

必要病床数とは、将来の人口や医療需要などをもとに、その地域でどれくらいの病床が必要になるのかを推計したものです。

地域医療構想では、将来の人口構造や入院需要などを踏まえて、地域ごとの医療提供体制を考えます。

例えば、高齢者が増える地域では入院医療の需要が増える可能性があります。

一方、人口そのものが大きく減少する地域では、将来的に入院患者が減る可能性もあります。

さらに必要となる医療の内容も同じではありません。

高度な手術や集中治療が必要な患者。

一般的な急性期治療が必要な患者。

急性期治療を終えてリハビリが必要な患者。

長期的な療養が必要な患者。

それぞれ必要となる医療機能が異なります。

そこで将来の患者数を推計しながら、地域ごとにどのような病床をどれくらい確保する必要があるのかを考えるわけです。

つまり必要病床数は、将来の医療需要から見た「必要量」を示す数字だと考えることができます。

許可病床と稼働病床の違い

病院の病床数を理解するときには、「許可病床」と「稼働病床」の違いも重要です。

許可病床とは、医療法上、病院が設置することを認められている病床です。

例えば、ある病院が100床の許可病床を持っているとします。

しかし、その病院が常に100床すべてを使っているとは限りません。

実際に患者を受け入れられる状態になっている病床は、それより少ない場合があります。

例えば100床の許可病床があっても、人員不足などによって80床しか動かしていなければ、実際の医療提供能力は100床ではなく80床に近いことになります。

この実際に運用されている病床を稼働病床と考えると分かりやすいでしょう。

さらに2040年を考える場合には、現在稼働している病床が将来もそのまま動かせるとは限りません。

そこで重要になるのが「稼働可能病床数」という考え方です。

これは単に病床が存在するかどうかではなく、必要な医療人材などを確保し、実際に患者を受け入れられる病床がどれくらいあるのかを見る考え方です。

必要病床数が需要側から見た数字だとすれば、稼働可能病床数は供給側から見た数字だと整理できます。

病床を動かすには看護師が必要になる

病床を稼働させるためには、多くの医療従事者が必要です。

特に重要なのが看護師です。

入院患者は昼間だけ病院にいるわけではありません。

夜間も早朝も患者の状態を確認し、薬を投与し、必要に応じて処置を行わなければなりません。

急変すれば直ちに対応する必要があります。

そのため病棟では24時間を通じて看護体制を維持する必要があります。

例えば、新しい病棟を作って50床増やしたとしても、それを担当する看護師を確保できなければ50床を稼働させることはできません。

しかも必要なのは看護師だけではありません。

医師、薬剤師、臨床検査技師、診療放射線技師、リハビリ職、看護補助者など、多くの職種が病院医療を支えています。

病床とは単なるベッドではなく、こうした人材と設備を組み合わせた医療提供能力なのです。

2040年には病床より人材が不足する可能性がある

これからの地域医療で大きな問題になるのが人口減少です。

2040年に向けて高齢者の医療需要が大きく残る一方、生産年齢人口は減少していきます。

医療や介護も例外ではありません。

看護師や介護職員を確保するためには、働き手そのものが必要です。

若い人口が減れば、新しく医療や介護の仕事に就く人を現在と同じ規模で確保することが難しくなる可能性があります。

ここで医療需要と医療供給のずれが生じます。

入院したい患者はいる。

病院の建物もある。

ベッドもある。

しかし看護師がいないため病棟を開けられない。

このような状況です。

2040年の地域医療では、「病床不足」という言葉の意味そのものが変わる可能性があります。

ベッドそのものが足りないのではなく、ベッドを動かす人が足りないという問題が大きくなるからです。

病床削減とは別に稼働病床が減ることがある

病床が減るというと、国や自治体が政策的に病床を削減しているように感じるかもしれません。

しかし実際には、それとは別の理由で病床が使えなくなることがあります。

代表的なのが人手不足です。

例えば100床を運営していた病院で看護師の退職が相次ぎ、必要な夜勤体制を組めなくなったとします。

病院として100床の許可を持っていたとしても、安全に医療を提供できなければ、一部の病床を休止せざるを得ない場合があります。

すると、

許可病床100床

稼働病床80床

という状態になることがあります。

さらに採用難が続けば、稼働できる病床が70床、60床と減っていく可能性もあります。

これは政策として病床を削減した場合とは性格が異なります。

医療を提供したくても、人材を確保できないため病床を動かせないという供給制約だからです。

必要病床数だけを見ていると医療供給力を過大評価する

例えば、2040年にある地域で1000床が必要になると推計されたとします。

その地域に病院の許可病床が1100床あれば、数字だけを見ると十分なように思えます。

しかし実際には違うかもしれません。

看護師不足によって900床しか稼働できなければ、必要とされる1000床を下回ります。

さらに病院の経営悪化や建物の老朽化によって病院そのものが閉鎖されれば、稼働可能な病床はさらに減少します。

つまり、

必要病床数

許可病床数

稼働病床数

は、それぞれ違う数字なのです。

2040年の医療提供体制を考える場合には、需要側から計算した必要病床数と、供給側から計算した稼働可能病床数を比較する必要があります。

医療人材をどこに配置するかが重要になる

働き手が減る社会では、すべての病院に現在と同じように人材を配置し続けることが難しくなる可能性があります。

そこで重要になるのが医療資源の集約です。

高度な手術や救急医療については、一定の拠点病院に医師や看護師、医療機器を集める。

一方、地域の病院では高齢者救急や在宅療養患者の急変への対応、リハビリ、在宅復帰支援などを担う。

さらに診療所、訪問看護、介護事業者などと連携して地域で高齢者を支える。

限られた人材を薄く広く配置するのではなく、それぞれの医療機関の役割を明確にしながら人材を配置する必要があります。

地域医療構想が単なる病床削減の議論ではなく、医療機能の再配置の問題である理由もここにあります。

結論

必要病床数とは、将来の人口や医療需要などから、その地域でどれくらいの病床が必要になるのかを考える数字です。

しかし必要病床数が分かったからといって、それだけの医療を実際に提供できるとは限りません。

病院には許可された病床があっても、そのすべてが稼働しているとは限らないからです。

病床を動かすためには、医師や看護師をはじめとする医療従事者が必要です。

特に入院医療では24時間の看護体制を維持しなければならないため、看護師不足はそのまま病床の供給力に影響します。

2040年に向けて重要になるのは、「何床必要なのか」という需要側の数字だけではありません。

「実際に何床動かせるのか」という供給側の数字を同時に見る必要があります。

病床が1000床必要でも、医療人材の不足によって800床しか動かせなければ、残り200床分の医療需要をどのように支えるのかを考えなければなりません。

これからの地域医療で本当に不足するのは、ベッドそのものではなく、ベッドを動かす人かもしれません。

必要病床数から稼働可能病床数へ視野を広げることは、人口減少時代の地域医療を考えるうえで重要な視点になるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月28日朝刊 2040年の地域医療構想(下) 供給制約や行動変容 考慮を

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