ディープテックと未上場市場はなぜ相性がいいのか 宇宙や創薬企業がIPOを急がなくてよくなる理由編

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スタートアップというと、短期間で急成長し、数年後にIPOする企業をイメージするかもしれません。

しかし、すべてのスタートアップが短期間で事業を完成させられるわけではありません。

宇宙、創薬、量子技術、新素材、核融合などの分野では、研究開発から事業化まで長い時間が必要になることがあります。

こうした高度な科学技術を基盤とする事業は、ディープテックと呼ばれます。

ディープテック企業にとって重要なのは、短期間で利益を出すことより、長期間の研究開発を続けて技術を事業へ結び付けることです。

ところが投資家に資金回収の手段がIPOしかなければ、企業は十分に成長する前に上場を求められる可能性があります。

未上場株の2次流通市場が発達すれば、初期のVCから長期投資家へ株式を引き継ぐことができます。

会社はIPOを急がず、必要な時間をかけて研究開発を続けられるようになります。

ディープテックとは何か

ディープテックとは、科学的な発見や高度な技術を基盤として社会的な課題の解決や新しい産業の創出を目指す技術や事業を指します。

一般的なインターネットサービスとは事業化までの過程が大きく異なる場合があります。

例えば新しいアプリなら、比較的短期間でサービスを開発し、利用者へ提供することができます。

利用者の反応を見ながらサービスを改良することもできます。

一方、新薬を開発する場合は研究だけでは終わりません。

安全性や有効性を確認し、実際の医療で利用できるところまで進めるには長い過程が必要です。

ロケットや人工衛星などでも、高度な技術開発と実証が必要になります。

研究成果がすぐ売上高になるとは限らないことがディープテックの大きな特徴です。

研究開発期間が長い理由

ディープテックでは、まだ世の中に存在しない技術を実用化することがあります。

そのため技術そのものが成立するかという段階から検証しなければならない場合があります。

研究室では成功しても、大規模に製造すると同じ性能が出ないかもしれません。

試作品は完成しても、量産するとコストが高すぎる場合もあります。

安全性を確認するために長期間の試験が必要になる分野もあります。

法律上の認可や規制への対応が必要になることもあります。

研究。

試作。

実証。

量産。

販売。

この一つ一つに時間と資金が必要になります。

単に経営者が早く事業を進めれば解決する問題ではありません。

創薬では特に時間がかかる

創薬は長期的な研究開発が必要になる代表的な分野です。

新しい薬の候補を発見しても、それだけで患者に提供できるわけではありません。

さまざまな試験を行い、安全性や有効性を確認する必要があります。

研究が順調に進むとは限りません。

途中で期待した効果が確認できず、開発を中止することもあります。

一つの薬が成功するまでに、多数の研究プロジェクトが失敗する可能性があります。

そのため創薬スタートアップには長期間の資金供給が必要になります。

短期的な利益だけを基準に評価すると、将来性のある技術へ十分な資金が届かなくなる可能性があります。

宇宙産業も先行投資が大きい

宇宙分野も同様です。

ロケット、人工衛星、宇宙輸送などの事業では、高度な技術開発が必要です。

実際に打ち上げて初めて分かる問題もあります。

失敗すれば改良して再び試験しなければなりません。

設備や人材にも多額の資金が必要です。

利用者が増えて売上高が安定するまで、長期間にわたって先行投資が続く場合があります。

この段階で四半期ごとの利益を強く求められると、必要な研究開発投資を続けにくくなる可能性があります。

短期的に利益が出にくい

ディープテック企業では、企業価値が高くても利益が出ていないことがあります。

例えば会社が年間100億円を研究開発へ投資しているとします。

売上高はまだ50億円しかないとします。

損益だけを見れば大幅な赤字です。

しかし研究開発が成功すれば、将来巨大な市場を獲得できるかもしれません。

現在の赤字は経営不振による赤字ではなく、将来の成長に向けた先行投資の結果かもしれません。

投資家には、この違いを判断する能力が求められます。

IPOすると投資家層が大きく変わる

企業がIPOすると、株主の構成が変わります。

未上場段階ではVCなど、スタートアップ投資に慣れた投資家が中心です。

長期間赤字でも、技術や将来市場を評価して投資することがあります。

上場すると幅広い投資家が株式を売買するようになります。

決算の数字や業績予想、株価などが日々注目されます。

企業には上場企業としての情報開示や株主対応も必要になります。

もちろん上場には多くのメリットがあります。

しかし研究開発の途中にある企業にとって、いつ上場するかは慎重に考える必要があります。

早すぎるIPOが問題になる理由

例えば創薬企業が研究開発途中でIPOしたとします。

市場では将来の新薬成功への期待から高い株価が付いたとします。

ところが臨床開発が予定より遅れます。

売上高も計画通り増えません。

市場の期待が低下すれば株価が大きく下落する可能性があります。

会社は本来必要な研究開発を続けているだけでも、上場市場では業績や株価の低迷として評価されることがあります。

企業の成長段階と上場市場が求める時間軸が合わなければ、経営にも大きな負担になります。

なぜVCがIPOを求めるのか

企業自身は未上場のまま研究開発を続けたいと思っていても、既存株主には別の事情があります。

VCファンドには一定の運用期間があります。

例えば10年間のファンドなら、最終的には投資した株式を売却して出資者へ資金を返す必要があります。

投資先企業の研究開発があと5年必要でも、VCファンドが5年間待てるとは限りません。

日本では未上場株の2次流通が十分に発達していなかったため、VCが資金を回収する代表的な方法がIPOやM&Aでした。

このためファンドの期限が企業の上場時期へ影響することがありました。

未上場市場があると何が変わるのか

未上場株の2次流通市場が発達すれば、この問題を緩和できます。

例えば創業から10年間支援してきたVCがあるとします。

会社は順調に成長しています。

しかし技術を本格的に事業化するには、さらに5年必要です。

VCのファンド期限は迫っています。

そこでVCが保有株式を長期投資のできる機関投資家へ売却します。

VCは資金を回収できます。

会社はIPOしません。

新しい投資家が株主として次の成長段階を支えます。

会社はさらに5年間、未上場のまま研究開発を続けられます。

長期投資家へ株主を交代できる

企業の成長段階によって適した投資家は変わります。

創業直後は大きなリスクを取れるVCが重要です。

研究開発が進み企業価値が大きくなると、より大規模な資金を運用する機関投資家が投資できるようになります。

IPOが近づけば、未上場株と上場株の双方へ投資するクロスオーバー投資家も参加できます。

創業からIPOまで一つのVCが支える必要はありません。

成長段階に応じて投資家を交代できればよいのです。

未上場株の2次流通は、そのバトンタッチを可能にします。

新株を発行しなくても株主を変えられる

2次流通の特徴は、会社が新株を発行しなくても株主を入れ替えられることです。

例えばVCが保有する株式を機関投資家へ100億円で売却したとします。

100億円はVCへ支払われます。

会社には入りません。

一見すると会社にはメリットがないように見えます。

しかし会社は、自社の成長段階に適した新しい長期株主を迎えられます。

さらに既存VCの資金回収のためにIPOを急ぐ必要もなくなります。

会社へ直接お金が入らなくても、株主構成を最適化するという大きな意味があります。

プライマリーと組み合わせることもできる

企業が成長するための新しい資金も必要なら、プライマリー取引とセカンダリー取引を同時に行う方法があります。

例えば会社が新株を発行して100億円を調達するとします。

同時に既存VCが50億円分の株式を新しい投資家へ売却します。

新しい投資家は合計150億円を投資します。

100億円は会社へ入ります。

50億円は既存VCへ入ります。

会社は成長資金を確保できます。

既存VCは一部エグジットできます。

新しい長期投資家を株主として迎えることもできます。

ディープテックのように巨額の資金が必要な企業では、この組み合わせが重要になる可能性があります。

未上場期間が長いことは悪いことではない

日本ではIPOがスタートアップの成功の象徴として見られることがあります。

しかし企業の目的はIPOそのものではありません。

技術やサービスを事業として成長させ、長期的に企業価値を高めることが重要です。

必要なら10年でIPOする。

必要なら20年間未上場で成長する。

企業ごとに最適な時間軸が違ってよいはずです。

未上場市場が十分に機能すれば、IPOまでの期間が長いことを必ずしも問題と考える必要がなくなります。

日本版ユニコーンを育てる土台になる

今回の参考記事では、米国では未上場株の2次流通市場が日本より大きく発達していることが紹介されています。

未上場段階で企業価値を大きく高める企業が存在できる背景には、未上場のままでも資金を調達でき、既存株主も株式を売却できる市場環境があります。

日本でも同じような仕組みが育てば、企業はIPOを唯一の資金回収イベントとして考える必要が小さくなります。

特に研究開発に長い時間を必要とするディープテック企業にとって大きな意味があります。

結論

ディープテックとは、宇宙、創薬、新素材など高度な科学技術を基盤として新しい産業を生み出す分野です。

こうした企業では研究開発から事業化まで長い期間が必要になります。

短期的には利益が出ず、多額の研究開発費が先行することも珍しくありません。

そのため企業の成長時間とVCファンドの運用期間が一致しないという問題が生じます。

従来の日本では未上場株の2次流通が十分に発達していなかったため、VCが資金を回収するためにIPOやM&Aへ依存しやすい構造がありました。

その結果、企業がまだ研究開発途中でもIPOを求められる可能性がありました。

2次流通市場が発達すれば状況は変わります。

創業期を支えたVCは株式を長期投資家へ売却してエグジットできます。

会社はIPOせず、研究開発を続けられます。

必要なら新株発行によるプライマリー取引と組み合わせ、新しい成長資金も調達できます。

つまり投資家の資金回収時期と企業のIPO時期を切り離せるのです。

宇宙企業には宇宙企業の時間があります。

創薬企業には創薬企業の時間があります。

ファンドの期限に企業の成長を合わせるのではなく、企業の成長段階に合わせて投資家を交代させる。

未上場株の2次流通市場は、時間のかかるディープテック企業を日本から大きく育てるための重要なインフラになる可能性があるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

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