相続税対策の話になると、「家なき子なら小規模宅地等の特例が使える」という言葉を耳にすることがあります。
この「家なき子」という表現は広く知られていますが、実際の制度を正確に理解している人は意外と多くありません。
「賃貸住宅に住んでいるから対象になる。」
「自宅を持っていなければ誰でも使える。」
このような認識でいると、相続が発生した後に特例が使えないことが判明し、多額の相続税を納めることになる可能性があります。
近年は制度改正によって適用要件が厳格化され、以前よりも利用できる人が限られるようになりました。
今回は、家なき子特例の考え方と、注意すべきポイントを解説します。
家なき子特例とは何か
家なき子特例とは、小規模宅地等の特例の一つで、被相続人と同居していなかった相続人でも、一定の条件を満たせば居住用宅地について特例を受けられる制度です。
本来、小規模宅地等の特例は、相続後もその家に住み続ける家族を保護することを目的としています。
しかし、仕事や結婚などの事情で親と別居している子どもも少なくありません。
そのため、一定の要件を満たす場合には、同居していなくても特例を適用できる仕組みが設けられています。
これが一般に「家なき子特例」と呼ばれている制度です。
名前だけで判断してはいけない
「家なき子」という名称から、
「持ち家がなければ対象になる」
と思われがちです。
しかし、制度上はそのような単純な基準ではありません。
重要なのは、
どこに住んでいたのか。
誰が所有する住宅だったのか。
過去の居住状況はどうだったのか。
といった点です。
つまり、「現在賃貸住宅に住んでいる」というだけでは適用できるとは限りません。
制度の趣旨に沿った要件を満たしているかどうかが判断されます。
制度改正で適用範囲は狭くなった
以前は比較的利用しやすい制度でしたが、節税目的だけの利用が増えたことから、税制改正によって適用要件が厳しくなりました。
講義資料でも、家なき子特例について、相続開始前3年以内の居住状況などが見直され、一定の親族や特別な関係にある法人が所有する住宅に居住していた場合には適用できないこと、さらに相続開始時に居住している住宅を過去に所有していたことがないことなど、細かな要件が追加されたことが説明されています。
制度は今も利用できますが、「以前は使えたから今回も大丈夫」と考えるのは危険です。
自宅を購入すると影響を受けることもある
家なき子特例を考えるうえで、見落としやすいポイントがあります。
それは、自宅の購入です。
例えば、親の相続を見据えている子どもが住宅を購入した場合、そのことが将来の特例適用に影響する可能性があります。
もちろん、住宅を購入すること自体が悪いわけではありません。
しかし、相続対策という視点では、
「今家を買うべきなのか」
「相続との関係はどうなるのか」
という検討も必要になります。
人生設計と相続対策は、別々ではなく一体で考えるべきなのです。
小規模宅地等の特例全体で考えることが重要
家なき子特例だけを切り離して考えるのではなく、小規模宅地等の特例全体の中で考えることも重要です。
例えば、
居住用宅地。
事業用宅地。
貸付事業用宅地。
これらは適用できる面積や減額割合が異なります。
さらに、複数の土地を所有している場合には、どの土地に特例を適用するかによって節税額が変わることもあります。
家なき子特例だけに注目するのではなく、資産全体を見渡して判断することが大切です。
節税だけを目的に行動すると失敗する
制度があると、「特例を受けるために住民票だけ移そう」「住まい方を変えよう」と考える人もいます。
しかし、税制はそのような形式だけでは判断されません。
実際の生活実態や制度の趣旨に照らして判断されるため、節税だけを目的とした行動では期待した結果にならないことがあります。
また、無理に制度へ合わせるよりも、
家族が安心して暮らせる住まい。
介護しやすい環境。
仕事との両立。
こうした生活全体を優先することも忘れてはいけません。
制度は生活のために利用するものであり、制度に生活を合わせるものではないのです。
制度改正を定期的に確認する
家なき子特例は、税制改正の影響を受けやすい制度の一つです。
適用要件はこれまで何度も見直されてきました。
そのため、
数年前に調べた内容。
インターネットの記事。
知人から聞いた話。
だけを信じて判断するのは危険です。
相続税対策は、一度確認したら終わりではありません。
制度改正のたびに見直しを行い、自分の状況に当てはめて確認することが重要になります。
結論
家なき子特例は、小規模宅地等の特例の中でも節税効果が非常に大きい制度です。
しかし、「持ち家がなければ利用できる」という単純な制度ではありません。
近年の税制改正によって適用要件は厳しくなり、居住状況や住宅の所有状況など、さまざまな条件を満たす必要があります。
相続税対策では、制度の名前だけを知るのではなく、その趣旨や適用要件まで理解しておくことが重要です。
そして、家族の暮らしや将来設計と調和した形で制度を活用することが、後悔しない相続対策につながるのです。
参考
東京地方税理士会 令和の資産家の相続税対策 近年の税制改正をふまえて 江本尚浩 講義資料