定年後の人生を考えるとき、多くの人が「これから何をして社会と関わっていけばよいのか」と考えます。
現役時代は会社や組織の中で役割がありました。しかし退職後は肩書や役職から離れ、自分自身の価値を見つめ直すことになります。
そんな中で注目されているのが「市民後見人」という社会貢献活動です。
高齢化が進む日本では、認知症などによって判断能力が低下した人を支援する成年後見制度の重要性が高まっています。そして、その担い手として期待されているのが企業経験を持つ一般市民なのです。
定年後の会社員は本当に市民後見人になれるのでしょうか。
市民後見人とは何か
成年後見制度では、判断能力が十分ではない人に代わって財産管理や契約手続きを支援する後見人を選任します。
現在は弁護士や司法書士などの専門職が中心ですが、近年は一般市民が後見人を務める「市民後見人」の育成が進められています。
市民後見人とは、自治体や社会福祉協議会などが実施する研修を受け、一定の知識と能力を身につけた地域住民です。
家庭裁判所の選任を受けて後見人となり、本人の生活や財産を支援します。
専門資格は必要ありません。
重要なのは本人に寄り添う姿勢と責任感です。
企業経験は大きな武器になる
会社員として長年働いてきた人には、市民後見人として活躍できる強みがあります。
例えば営業職であれば、人との信頼関係を築く力があります。
管理職経験者であれば、複雑な問題を整理し関係者を調整する能力があります。
経理や総務の経験者であれば、財産管理や書類管理に慣れています。
企業では日々さまざまな立場の人と接します。
上司、部下、取引先、顧客、行政機関など、多様な関係者との調整を経験しています。
成年後見業務も同じです。
本人、家族、介護施設、医療機関、行政機関など、多くの関係者との連携が必要になります。
企業人生で培った経験は、そのまま後見活動に生かせるのです。
求められるのは法律知識より人間力
成年後見というと法律の専門知識が必要と思われがちです。
もちろん基本的な制度理解は欠かせません。
しかし日常的な後見活動で最も重要なのは、人間関係を築く力です。
認知症の人の中には、不安や孤独を抱えている人も少なくありません。
また家族との関係が複雑なケースもあります。
そのような場面で求められるのは、相手の話を丁寧に聞き、信頼関係を築く能力です。
長年の会社生活の中で培われたコミュニケーション能力は大きな財産になります。
むしろ専門知識は研修や実務を通じて後から学ぶことができます。
人生後半の新しい役割
定年後に多くの人が感じるのは「自分は社会に必要とされているのだろうか」という問いです。
仕事を通じて得ていた社会との接点が減ると、生きがいや自己肯定感を失うこともあります。
市民後見人は、その課題に対する一つの答えになるかもしれません。
誰かの生活を支え、人生を守る役割は非常に意義があります。
報酬は決して高額ではありません。
しかし感謝される喜びや社会とのつながりは、お金では得られない価値があります。
人生100年時代では、60歳や65歳は決して人生の終盤ではありません。
むしろ第二の人生のスタート地点です。
その時間を地域社会のために生かすことは、自分自身の人生を豊かにすることにもつながります。
専門職との連携が支える仕組み
市民後見人がすべてを一人で抱えるわけではありません。
相続問題や不動産登記、税務申告など専門的な課題が発生した場合は、弁護士、司法書士、税理士などの専門家が支援します。
近年は自治体や社会福祉協議会によるサポート体制も整備されています。
つまり市民後見人は専門家の代わりになるのではなく、本人に最も近い立場で支える存在なのです。
この役割分担によって、より多くの高齢者を支援できる社会が実現します。
これからの社会に必要な人材
今後、認知症高齢者はさらに増加していきます。
一方で、定年後も健康で活動できるシニアは増えています。
支援を必要とする人と、社会に貢献したい人。
両者をつなぐ仕組みとして、市民後見人制度には大きな可能性があります。
企業で培った経験は、退職によって価値を失うわけではありません。
むしろ地域社会では、その経験を必要としている人がたくさんいます。
会社を卒業した後も、人の役に立つ仕事は存在するのです。
結論
定年後の会社員は市民後見人になれるのでしょうか。
答えは十分になれるです。
むしろ企業人生で培った対人関係力、調整力、責任感は、市民後見人に求められる資質そのものです。
人生100年時代において、退職は社会との関わりの終わりではありません。
長年の経験を地域社会に還元し、誰かの人生を支える。
市民後見人は、そのための有力な選択肢の一つです。
これからの時代は、肩書ではなく役割が人生の充実を決める時代なのかもしれません。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年6月24日
企業経験が支える成年後見(私見卓見) 福島正純氏