こども家庭庁は2027年度に、子育てに役立つ商品やサービスを提供する企業を認定する新しい制度を創設し、法人減税や補助金などの優遇対象とする方針です。
ここで気になるのが、法人減税がどのような仕組みになるのかという点です。
現時点では具体的な税制の内容は決まっていませんが、企業の特定の取り組みを税制で後押しする方法の一つに税額控除があります。
税額控除は、企業が計算した法人税額から一定額を直接差し引く仕組みです。
もし子育て関連の投資に税額控除が導入されれば、企業にとって子育て支援は社会貢献だけではなく、税負担を軽減できる投資になる可能性があります。
税額控除とは何か
企業は事業によって利益を上げると、その所得を基礎として法人税を計算します。
税額控除は、そのようにして計算された法人税額から一定の金額を差し引く仕組みです。
例えば、ある企業の法人税額が1000万円だったとします。
一定の要件を満たした投資によって100万円の税額控除を受けられるのであれば、単純化すると納める法人税は900万円になります。
100万円を利益から差し引くのではありません。
計算された税金そのものから100万円を差し引くところが重要です。
そのため、税額控除は企業に特定の投資や行動を促す政策手段として利用されています。
所得控除との違い
税額控除と混同しやすいのが所得控除です。
両者は税負担を軽くするという点では同じですが、税金を減らす場所が違います。
所得控除は、税率を掛ける前の所得を減らします。
これに対して税額控除は、計算された税額から直接金額を差し引きます。
簡単な例で考えてみます。
企業の課税所得が1000万円で、仮に税率を30%とすると、税額は300万円です。
100万円の所得控除が認められる場合、課税所得が900万円になり、税額は270万円になります。
減税額は30万円です。
一方、100万円の税額控除であれば、300万円の税額から100万円を直接差し引くため、税額は200万円になります。
実際の法人税計算はもっと複雑ですが、税額控除のほうが税負担への効果を理解しやすい仕組みといえます。
子育て関連投資との関係
新しい子育て支援企業認定制度では、企業の商品やサービスを通じた子育て支援が評価される方向です。
例えば、子育て支援住宅を開発したり、オフィス内シッターを導入したり、店舗に子どもが過ごせるスペースを整備したりする取り組みが考えられます。
こうした取り組みには費用がかかります。
店舗にキッズスペースをつくるのであれば、設備投資だけでなく、本来商品を販売できたスペースを別の用途に使うことになります。
子育て支援住宅でも、共用施設などを整備すれば建設費や管理費が増える可能性があります。
社会的な価値が高くても、企業から見ると投資に見合う利益が得られるかどうかが問題になります。
そこで税制によって企業の負担の一部を軽減すれば、民間企業が子育て関連投資に踏み出しやすくなります。
税制は企業の投資判断を変える
企業が設備投資をするときには、その投資によって将来どれだけ利益を得られるかを考えます。
1000万円を投資しても、それ以上の利益を得られる見込みがなければ、通常は投資をためらいます。
しかし、その投資に税制上の優遇が付けば実質的な負担は小さくなります。
例えば子育て支援設備への1000万円の投資について、一定額の税負担軽減が受けられるとします。
企業から見ると、同じ1000万円の設備投資でも税制優遇がない場合より採算性が改善します。
これが税制によって企業行動を誘導する考え方です。
政府が直接すべての子育て施設をつくるのではなく、民間企業に投資してもらい、その一部を税制で支援するわけです。
どんな費用を対象にするかが重要になる
実際に子育て支援企業への税制優遇を導入する場合、重要になるのが対象となる費用です。
例えばキッズスペースの設置費用を対象にするのか。
授乳室やおむつ交換設備も含めるのか。
子育て支援住宅の建設費についてどこまで認めるのか。
ベビーシッターなどのサービス費用を対象にするのか。
対象範囲によって企業への効果は大きく変わります。
さらに、認定企業であれば自動的に税制優遇を受けられるのか、それとも認定に加えて一定の投資を行うことが必要なのかという制度設計も重要です。
認定制度と税制をどのようにつなげるかが今後の焦点になります。
赤字企業では税額控除の効果が小さくなる
税額控除には大きな弱点もあります。
法人税を払っていない企業には効果が出にくいことです。
例えば新しい子育てサービスを始めたばかりの企業が、先行投資によって赤字になっているとします。
法人税額がほとんど発生していなければ、そこから差し引く税金もありません。
100万円の税額控除を受けられる制度があったとしても、そもそもの法人税額が0円なら、その年度に100万円の税金が戻ってくるとは限りません。
税額控除には制度ごとに控除限度額や繰越制度などが設けられることがあります。
したがって、実際にどの程度利用できるかは最終的な制度設計によって決まります。
中小企業ではさらに問題になりやすい
この問題は中小企業にとって特に重要です。
大企業であれば既存事業から安定した利益が出ているため、新しい子育て関連事業に投資しても、会社全体では法人税を支払っているケースがあります。
一方、中小企業や新規事業者では利益そのものが小さい場合があります。
社会的に価値の高い子育てサービスを提供していても、利益が少なければ税制優遇を十分に使えません。
子ども食堂の支援など、もともと収益性が低い取り組みほど、この問題は大きくなります。
子育て支援が必要な企業ほど税額控除を利用できないという逆転が起きる可能性があるわけです。
だから補助金との組み合わせが重要になる
そこで重要になるのが補助金です。
税額控除は、基本的には税金を負担している企業にメリットを与える仕組みです。
これに対して補助金は、一定の要件を満たした事業に対して直接資金を交付できます。
赤字企業でも対象になる可能性があります。
例えば子育て関連設備を導入するときに、その費用の一部を補助金で支援すれば、法人税を払っていない企業でも投資負担を軽くできます。
黒字企業には税制優遇、利益が十分でない企業には補助金というように、複数の政策手段を組み合わせることで支援対象を広げることができます。
こども家庭庁が法人減税だけではなく補助金も検討していることには、このような意味があります。
結論
税額控除は、企業が計算した法人税額から一定額を直接差し引く仕組みです。
所得を減らしてから税金を計算する所得控除とは異なり、税金そのものを減らすため、企業に特定の投資を促す政策手段として利用できます。
もし子育て関連投資に税額控除が導入されれば、キッズスペース、子育て支援住宅、シッターサービスなどへの企業投資を後押しする可能性があります。
一方で、税額控除は法人税を負担している企業でなければ十分なメリットを受けにくいという問題があります。
特に、収益性の低い子育て支援事業や、利益の少ない中小企業ではその問題が大きくなります。
そのため、法人減税だけですべてを解決するのではなく、補助金などと組み合わせることが重要になります。
子育て支援を企業の善意だけに頼るのではなく、企業が投資しても経済的に成り立つ仕組みに変えていく。
新しい認定制度にどのような税制優遇が組み込まれるのかは、企業による子育て支援を広げるうえで重要なポイントになります。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 子育て向け商品・サービス提供企業に法人減税