「再生医療」と聞くと、最先端の医療というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。
失われた組織や機能を細胞などを利用して回復させる再生医療には、これまで治療が難しかった病気に対する新しい治療法につながる可能性があります。
一方、「再生医療」という名前を掲げた自由診療も存在します。
数十万円、数百万円という高額な治療であれば、
保険がきかないほど新しい治療なのだろう
高額なのだから効果も高いのだろう
と思ってしまうかもしれません。
しかし、公的医療保険が適用されていないことは、その治療が最先端で優れていることを意味するわけではありません。
むしろ自由診療だからこそ、安全性と有効性がどの程度確認されているのかを慎重に見る必要があります。
再生医療とは何か
再生医療とは、細胞などを利用して、病気やけがによって失われたり低下したりした身体の機能を回復させることなどを目指す医療です。
例えば幹細胞などを利用する研究が進められています。
再生医療には、従来の薬や手術では十分な治療が難しかった病気に対して、新しい選択肢を生み出す可能性があります。
日本でも大学や研究機関、医療機関、企業などで研究開発が進められています。
ここで注意したいのは、
再生医療という名称
と、
安全性や有効性が十分に確立された治療
は同じ意味ではないことです。
再生医療の中にも研究段階のものから、一定の評価を経て実際の医療として利用されているものまでさまざまな段階があります。
再生医療にはさまざまな段階がある
新しい医療技術が生まれたからといって、すぐに一般の患者へ広く提供されるわけではありません。
通常、新しい治療法については、
どのような作用があるのか
安全性に問題はないのか
本当に治療効果があるのか
どのような患者に適しているのか
といったことを検証していく必要があります。
研究段階では有望に見えても、多くの患者を対象に調べると期待したほどの効果が確認できないこともあります。
予想していなかった副作用が明らかになることもあります。
そのため「新しい」ということは、それだけで「優れている」ことを意味しません。
新しいからこそ、分かっていないことが多い場合もあるのです。
再生医療と自由診療は同じではない
再生医療という言葉を見ると、
再生医療イコール自由診療
と思うかもしれません。
しかし両者は同じものではありません。
再生医療の中には、公的医療保険の対象となるものもあれば、研究として実施されるものもあります。
一方、患者が費用を全額自己負担する自由診療として提供される再生医療もあります。
したがって、
再生医療かどうか
保険診療か自由診療か
安全性や有効性がどこまで確認されているか
は、それぞれ分けて考える必要があります。
単に「再生医療」という名称だけで治療の信頼性を判断することはできません。
自由診療なら国のルールがないわけではない
自由診療について、
健康保険を使わないのだから医療機関が何をしても自由
と考えるのも正確ではありません。
日本では、再生医療等安全性確保法などに基づき、再生医療等を提供する際の手続きや安全性確保のための仕組みが設けられています。
再生医療等はリスクなどに応じて分類され、提供計画について一定の手続きが必要になります。
つまり自由診療として患者が全額を支払う場合であっても、再生医療について一定の規制が存在します。
ただし、ここで非常に重要な注意点があります。
必要な手続きを行っていることと、その治療の有効性が国によって保証されていることは同じではありません。
届け出があるから効果が保証されているとは限らない
患者にとって特に分かりにくいのがこの部分です。
医療機関のホームページなどに、
国へ届出済み
法律に基づく手続きを実施
などと書かれていると、
国がこの治療の効果を認めている
と感じるかもしれません。
しかし、法律上必要な手続きを行っていることと、その治療について医薬品の承認などと同じ意味で国が有効性を保証していることは別の問題です。
患者側は、
法律上必要な手続きを行っているか
と、
科学的にどの程度の治療効果が確認されているか
を分けて見る必要があります。
この違いを理解しないと、「国のお墨付きがある治療」と誤解する可能性があります。
安全性と有効性は別の問題
医療を評価するときには、「安全性」と「有効性」を分けて考えることも重要です。
安全性とは、治療によってどのような副作用や健康被害が起こる可能性があるのかという問題です。
一方、有効性とは、その治療によって本当に病気や症状が改善するのかという問題です。
例えば重大な副作用が少ない治療だったとしても、病気を改善する効果がほとんどなければ、有効な治療とはいえません。
反対に高い治療効果が期待できても、重大な副作用の危険性があれば、誰にでも使用できるわけではありません。
医療では、
どの程度効果があるのか
どの程度危険なのか
を両方考えて治療を判断する必要があります。
高額だから効果が高いとは限らない
自由診療の再生医療では、高額な治療費が設定されることがあります。
数十万円や数百万円という価格を見ると、
これほど高額なら、それだけ高度な治療なのだろう
と考えたくなります。
しかし自由診療では、保険診療のように全国共通の診療報酬で価格が決まるわけではありません。
医療機関が料金を設定します。
そのため治療価格と医学的な有効性が比例するとは限りません。
100万円の治療が10万円の治療より10倍効果が高いという関係にはなりません。
価格は医療機関のコストや設備、人件費、広告費、利益などさまざまな要素によって決まります。
高額であることを医学的な有効性の証明として考えないことが重要です。
最先端という言葉にも注意が必要
再生医療では「最先端」という言葉が使われることがあります。
確かに再生医療そのものは、医学研究の最前線に位置する重要な分野です。
しかし、
最先端の研究
と、
標準的な治療として効果が確立されている医療
は必ずしも同じではありません。
むしろ最先端であるということは、まだ十分なデータが蓄積されていない可能性も意味します。
長期間使用した場合にどのような影響があるのか分かっていないこともあります。
「新しいから優れている」と考えるのではなく、
どの程度の患者を対象に研究されているのか
どのような科学的根拠があるのか
標準治療と比較してどの程度優れているのか
を見る必要があります。
標準治療との比較が重要になる
患者が重い病気を抱えている場合、
最新の再生医療があります
と言われれば、試してみたいと考えるのは自然です。
特に現在の治療で十分な効果が得られていない場合、新しい治療への期待は大きくなります。
だからこそ、標準治療との比較が重要です。
標準治療とは、その時点で科学的な根拠などに基づいて広く行われている治療です。
自由診療を検討するときには、
現在の標準治療にはどのようなものがあるのか
なぜ標準治療ではなく自由診療を選ぶのか
自由診療の方が優れているという根拠はあるのか
標準治療を受ける機会を失わないか
といった点を確認する必要があります。
新しい治療を受けることによって、効果が確立された治療を受けるタイミングが遅れることもリスクになり得ます。
患者の期待が大きい分野ほど慎重さが必要になる
再生医療は、
失われた機能が戻る
治らなかった病気が治る
という大きな期待につながりやすい分野です。
だからこそ患者の希望につけ込むような情報提供が行われれば問題になります。
治療のメリットだけを大きく宣伝し、
どの程度の科学的根拠があるのか
効果が出ない可能性はどの程度あるのか
どのような健康被害が考えられるのか
といった情報が十分に説明されなければ、患者は適切な判断ができません。
特に自由診療では患者自身が高額な費用を負担します。
健康上のリスクだけでなく、大きな経済的負担も生じる可能性があります。
厚労省も自由診療の再生医療について注意を促している
自由診療として行われる再生医療については、安全性や有効性が十分に確認されていない治療が提供されることへの懸念が以前から指摘されています。
国が再生医療について安全性確保のための制度を設けている背景にも、細胞などを利用する医療には特有のリスクがあることがあります。
患者にとって重要なのは、
再生医療という名前が付いている
高額な料金が設定されている
法律上の手続きをしている
ということだけで治療を選ばないことです。
科学的な根拠や治療実績、リスク、代替となる治療などについて確認する必要があります。
セカンドオピニオンも選択肢になる
高額な自由診療を検討するときには、その治療を提供している医療機関だけから情報を得ることにも注意が必要です。
治療を提供する医療機関には、その治療を実施すれば収入が発生します。
もちろん、それだけで説明が信用できないという意味ではありません。
しかし患者と医療機関の間には、情報量だけでなく経済的な利害関係も存在します。
特に数百万円に及ぶ治療や、科学的な評価がまだ十分に定まっていない治療であれば、別の専門医から意見を聞くことも一つの方法です。
治療を受けるかどうかを急いで決める必要がないのであれば、複数の情報を比較することが重要です。
結論
再生医療は、細胞などを利用して失われたり低下したりした身体の機能を回復させることなどを目指す医療で、今後の医学を大きく変える可能性を持つ分野です。
一方、再生医療という名称が付いているだけで、安全性や有効性が十分に確立された最先端治療であると考えることはできません。
再生医療には、研究段階のものから実際の診療で利用されているものまでさまざまな段階があります。
また、自由診療として提供される再生医療についても一定の法律上のルールがありますが、必要な手続きを行っていることと、国が治療効果を保証していることは別の問題です。
さらに自由診療では医療機関が価格を設定するため、高額な治療だから効果も高いとは限りません。
患者が確認すべきなのは価格や「最先端」という言葉ではなく、
どの程度の科学的根拠があるのか
安全性と有効性はどこまで確認されているのか
標準治療と比べてどのような利点があるのか
どのようなリスクがあるのか
という点です。
保険がきかないことは、優れた医療であることの証明ではありません。
そして自由診療では、日本でそもそも承認されていない医薬品が使われることもあります。
次に重要になるのが「未承認医薬品」という問題です。
参考
日本経済新聞 2026年8月26日朝刊 不誠実な自由診療に歯止めを