会社に売上があり、従業員も働いている。
取引先への支払いも続けている。
それでも決算書を見ると、会社が債務超過になっていることがあります。
債務超過とは、会社が持っている資産より負債の方が多い状態です。
会社の財務基盤が大きく傷んでいることを示すため、銀行が融資するときにも重要な判断材料になります。
ただし、債務超過だから会社の事業価値が必ずゼロというわけではありません。
2026年5月に始まった企業価値担保権を理解するうえでも、貸借対照表上の純資産と事業そのものの価値を分けて考えることが重要です。
債務超過とは何か
会社の財政状態は貸借対照表で確認できます。
貸借対照表では、大きく資産、負債、純資産に分けて会社の状態を表します。
例えば会社に1億円の資産があるとします。
一方、借入金などの負債が7000万円あります。
単純化すると、差額の3000万円が純資産です。
ところが資産が1億円なのに負債が1億2000万円あればどうでしょうか。
差額はマイナス2000万円になります。
このように負債が資産を上回り、純資産がマイナスになっている状態が債務超過です。
赤字と債務超過は違う
債務超過と混同されやすい言葉が赤字です。
この二つは同じではありません。
赤字は、一定期間の経営成績に関するものです。
例えば1年間の売上高が1億円あり、費用が1億1000万円なら1000万円の赤字になります。
一方、債務超過は決算日時点の財政状態に関するものです。
過去に蓄積した利益や損失の影響も受けます。
1年間赤字になっただけで、すぐ債務超過になるとは限りません。
反対に今年は黒字でも、過去の大きな赤字によって債務超過が続いている場合があります。
赤字が続くと純資産が減っていく
例えば会社を設立したときに5000万円の資本金などがあり、純資産も5000万円だったとします。
その後、毎年1000万円の赤字を出したとします。
単純化すると、赤字によって会社に蓄積された純資産が少しずつ減っていきます。
5000万円。
4000万円。
3000万円。
2000万円。
1000万円。
そしてさらに赤字が続けば、純資産がマイナスになります。
つまり債務超過は、過去の損失が積み重なった結果として発生することがあります。
会社がこれまで蓄積してきた財務上の余力を使い切った状態とも考えられます。
売上があっても債務超過になる
債務超過だからといって、会社が営業を停止しているとは限りません。
毎日商品を販売している会社でも債務超過になることがあります。
例えば売上高10億円の会社でも、毎年費用が売上を上回り、大きな赤字を出し続ければ純資産は減少します。
過去に大きな投資で失敗した会社もあります。
不採算事業で多額の損失を出した会社もあります。
資産価値が大きく下落して損失を計上する場合もあります。
そのため売上高が大きいことと財務状態が健全であることは別の問題です。
銀行は売上だけではなく貸借対照表も確認します。
なぜ銀行は債務超過を警戒するのか
銀行が会社へお金を貸すときには、将来返済してもらえるかを考えます。
債務超過の会社は、資産より負債が多い状態です。
財務上の余力が小さくなっています。
今後さらに赤字が発生すれば、状況が一段と悪化する可能性があります。
また、すでに多額の借入金を抱えている場合には、新しい融資をしても既存債務の返済に使われるだけになる可能性があります。
そのため金融機関は、
なぜ債務超過になったのか
本業は利益を出せているのか
今後黒字化できるのか
借入金を返済できるのか
といった点を慎重に確認します。
債務超過でも倒産しているとは限らない
債務超過になると、すぐ会社が倒産すると思うかもしれません。
しかし必ずしもそうではありません。
会社が事業を継続できるかどうかでは、現金を支払えるかが重要です。
債務超過でも、売上代金が安定して入ってきて、給与や仕入代金、借入金などを予定通り支払えていれば、事業を継続している場合があります。
反対に純資産がプラスでも、手元資金がなくなれば支払いができなくなる可能性があります。
債務超過は重大な財務上の問題ですが、債務超過と資金不足は分けて考える必要があります。
債務超過でも事業に価値がある場合がある
ここが企業価値を考えるうえで重要なところです。
貸借対照表上は債務超過でも、会社の事業そのものには価値が残っている場合があります。
例えば独自の加工技術があります。
長年取引している顧客があります。
地域で知られたブランドがあります。
優秀な従業員がいます。
特殊なノウハウがあります。
これらの価値が貸借対照表に十分表れているとは限りません。
会社を清算したときの財産状態と、事業を継続した場合に生み出せる価値は同じではないのです。
将来キャッシュフローが重要になる
例えば債務超過2000万円の会社があるとします。
しかし不採算事業を整理した結果、今後毎年3000万円のキャッシュフローを安定して生み出せる見込みがあるとします。
この会社を単に純資産マイナス2000万円という数字だけで判断すると、事業の将来性を十分に評価できない可能性があります。
金融機関にとって重要なのは、最終的に融資したお金を返済してもらえるかどうかです。
その返済原資は、基本的には将来の事業から生み出されるキャッシュフローです。
そのため債務超過企業への融資では、過去の損失だけでなく、将来どれだけ現金を生み出せるのかを見ることが重要になります。
シードも経営再建を進めている
参考記事では、運送業などを手掛けるシードの事例が紹介されています。
同社は食品販売への事業拡大が裏目に出て、2018年に約40億円の債務を抱えて経営破綻しました。
その後はファンド傘下で経営再建を進めています。
2026年には企業価値担保権を活用し、りそな銀行から2億円の融資を受けました。
過去の財務状態だけではなく、再建後の事業計画や将来性を金融機関が確認することによって融資につながっています。
経営再建中の会社にとって、現在の資産だけではなく将来の事業価値を評価してもらう意味は大きいといえます。
債務超過を解消するにはどうするのか
債務超過を解消する基本は、純資産をプラスへ戻すことです。
そのための王道は、本業で利益を出して内部に蓄積することです。
例えば債務超過が3000万円ある会社が、その後毎年1000万円ずつ利益を積み上げれば、単純化すると3年間で3000万円分の純資産を回復できます。
もちろん実際には配当や税金、資産評価などさまざまな要因が影響します。
増資などによって資本を増やす方法もあります。
事業再生では、債務の整理や金融支援が行われることもあります。
重要なのは、一時的に貸借対照表を整えるだけでなく、継続して利益を出せる事業構造へ変えることです。
企業価値担保権との関係
従来の融資では、財務内容や不動産担保などが重要な判断材料になってきました。
債務超過で担保にできる不動産も少ない会社は、銀行融資を受けにくくなる場合があります。
企業価値担保権では、事業全体の価値を踏まえて融資します。
現在の貸借対照表だけではありません。
顧客基盤。
技術。
ノウハウ。
ブランド。
事業計画。
将来キャッシュフロー。
こうした要素を総合的に評価します。
そのため現在の財務状態に問題があっても、再生可能性のある企業に資金が届きやすくなることが期待されます。
債務超過なら必ず融資できるわけではない
ただし、企業価値担保権ができたからといって、債務超過企業なら簡単に融資を受けられるという意味ではありません。
むしろ将来性を詳しく検証する必要があります。
なぜ債務超過になったのか。
原因は解消されているのか。
今後利益を出せるのか。
事業計画は現実的なのか。
十分なキャッシュフローを生み出せるのか。
経営者に再建能力があるのか。
こうした点を金融機関が確認します。
過去の数字が悪いから自動的に融資しないという考え方から、過去の数字が悪くても将来改善できる根拠があるかを見る考え方へ広げることに意味があります。
結論
債務超過とは、会社の資産より負債の方が多く、貸借対照表上の純資産がマイナスになっている状態です。
赤字が一定期間の経営成績を表すのに対し、債務超過は決算日時点の財政状態を表します。
過去の赤字が積み重なれば、会社に売上があり営業を続けていても債務超過になることがあります。
銀行にとって債務超過は重要な警戒材料です。
財務上の余力が小さく、追加の損失に耐えにくくなっているからです。
しかし、債務超過だから事業価値までなくなったとは限りません。
技術、ブランド、顧客基盤、ノウハウなどを活用し、将来安定したキャッシュフローを生み出せる会社もあります。
2026年5月に始まった企業価値担保権は、こうした事業全体の価値を踏まえた融資を可能にする仕組みです。
貸借対照表に記録された過去の結果を見ることはもちろん重要です。
それと同時に、その会社がこれからどれだけ稼ぐ力を持っているのかを見る。
債務超過企業への融資を考えるうえでは、この二つの視点を分けずに見ることが重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価