会社員から独立して働く人や、副業から事業を始める人が増えています。YouTuberやインフルエンサー、オンライン講師、プログラマーなど、かつて存在しなかった新しい職業も次々と誕生しています。
ところが、こうした働き方の変化に税制が追いついていないとの指摘が強まっています。その代表例が「個人事業税」です。
東京都税制調査会では、個人事業税の仕組みそのものを見直すべきではないかとの議論が始まっています。今回は、個人事業税が抱える課題と、今後予想される制度改正の方向性について考えてみます。
個人事業税とは何か
個人事業税は、都道府県が課税する地方税です。
事業を営む個人のうち、法律で定められた一定の業種に該当し、所得が年間290万円の事業主控除を超える場合に課税されます。
税率は業種によって異なりますが、一般的には3%から5%程度です。
法人であれば法人事業税が原則として広く課税されますが、個人の場合は課税対象となる業種が限定されています。
この点が現在の大きな論点となっています。
なぜ問題になっているのか
個人事業税は地方税法で定められた70業種だけが課税対象です。
この制度は長年大きく変更されていません。
しかし現在では、
・YouTuber
・TikToker
・インフルエンサー
・オンラインサロン運営者
・デジタルコンテンツ販売者
・SNSマーケター
など、新しい職業が急増しています。
これらの職業は明らかに事業として収益を上げているにもかかわらず、法定業種に当てはまらないため課税されないケースがあります。
つまり、同じように利益を得ていても、
ある人は個人事業税を払う
ある人は払わない
という不公平が生じているのです。
都道府県によって判断が異なる現実
さらに問題なのは、都道府県ごとに判断が異なることです。
東京都の資料では、YouTuberやインフルエンサーは法定業種に該当しない例として紹介されています。
一方で福井県では、インフルエンサーを広告業として取り扱う考え方を示しています。
同じ仕事内容でも、
東京では非課税
福井では課税
という可能性が生じるわけです。
税制は本来、全国で公平に適用されるべきものです。
地域によって課税判断が変わる状況は、納税者にとっても分かりにくく、行政側にとっても大きな負担となります。
東京都が提案する抜本改革
東京都は国に対し、個人事業税の対象を抜本的に見直す提案を行っています。
その内容は非常にシンプルです。
現在の
「70業種だけ課税」
から
「事業所得又は不動産所得があれば原則課税」
へ変更するという考え方です。
もし実現すれば、
・業種判定が不要になる
・新しい職業にも対応できる
・課税の公平性が向上する
という効果が期待できます。
全国知事会も同様の問題意識を持っており、制度見直しへの機運は高まっています。
フリーランスに与える影響
制度改正が実現した場合、最も影響を受けるのはフリーランスや副業事業者です。
現在は個人事業税の対象外となっている職種でも、将来的には課税対象になる可能性があります。
例えば、
・動画配信
・SNS広告収入
・ネット販売
・コンテンツ制作
・オンライン講座
などが対象となるかもしれません。
所得税や住民税だけでなく、個人事業税まで考慮した資金計画が必要になります。
これまで「対象外だから関係ない」と考えていた人も、今後の制度改正の動向には注意が必要です。
税理士に求められる新たな役割
この問題は税理士にとっても重要なテーマです。
従来の税務相談では、
「この経費は認められるか」
「青色申告はどうするか」
という相談が中心でした。
しかし今後は、
「私の事業は個人事業税の対象になるのか」
「副業収入は事業所得なのか雑所得なのか」
「法人化した方が有利なのか」
といった相談が増えていくでしょう。
特にデジタルビジネスは事業形態が多様であり、従来の業種分類だけでは判断できないケースが増えています。
税理士には、制度の理解だけでなく、新しい働き方そのものを理解する姿勢が求められる時代になっています。
個人事業税の未来
個人事業税は戦後の産業構造を前提として設計された制度です。
しかし現在は、スマートフォン一台で世界中に向けて事業ができる時代になりました。
産業構造が変われば、税制も変わらなければなりません。
今回の東京都税制調査会の議論は、単なる地方税の見直しではなく、「働き方の変化に税制がどう対応するか」という大きなテーマを示しています。
今後の改正議論は、フリーランスや副業時代の税制のあり方を左右する重要な転換点になるかもしれません。
結論
個人事業税は現在、70業種限定という仕組みのため、新しい事業形態への対応が難しくなっています。
YouTuberやインフルエンサーなどの登場により、課税の公平性や都道府県ごとの判断の違いが大きな課題として浮上しています。
東京都や全国知事会は制度の抜本的な見直しを提案しており、将来的には事業所得を得るほぼ全ての個人事業者が課税対象となる可能性もあります。
フリーランス時代の到来に伴い、税制もまた大きな転換期を迎えているのです。
参考
税のしるべ 2026年6月22日
個人事業税の見直し機運高まる、都税調が事業形態の多様化による事業性認定の課題を挙げる