天気予報で降水確率が10%だったのに、雨が降ることがあります。
だからといって、その天気予報が必ず間違った方法で作られていたとは限りません。
経済の予想も同じです。
利用できる情報を十分に集め、合理的に考えたとしても、将来の物価、金利、景気などを完全に当てることはできません。
将来には、予想した時点では分からなかった出来事が起こるからです。
予想した数字と後から判明した実際の数字との差を「予測誤差」といいます。
家計の期待形成を考えるときには、予想が外れたという事実だけで「その人は非合理的だった」と判断しないことが重要です。
予測誤差とは何か
予測誤差とは、事前に予想した値と実際に実現した値との差です。
例えば、ある家計が、
来年の物価上昇率は2%になる
と予想したとします。
ところが1年後、実際の物価上昇率が4%になりました。
この場合、予想と実績には2%ポイントの差があります。
反対に、2%と予想して実際には1%だった場合にも予測誤差が生じています。
将来予想と実績が完全に一致しない限り、何らかの予測誤差が発生します。
予想と実績はなぜずれるのか
将来の物価を予想するためには、多くの情報が必要です。
現在の物価だけではありません。
賃金の動きがあります。
為替相場があります。
原油や天然ガスなどの資源価格があります。
企業の価格設定があります。
政府の政策や中央銀行の金融政策も関係します。
さらに海外経済や自然災害など、さまざまな出来事が影響します。
予想した時点ですべての未来を知ることはできません。
そのため、どれだけ丁寧に予測しても実績とのずれが生じることがあります。
予想が外れることと非合理性は違う
ここは特に重要です。
予想が外れたからといって、その予想をした人が非合理的だったとは限りません。
例えば、利用できる経済情報を十分に分析して、
来年の物価上昇率は2%程度になる可能性が高い
と合理的に判断したとします。
その後、予想していなかった世界的な資源価格の急騰が起き、物価上昇率が4%になったとします。
結果だけを見れば予想は外れています。
しかし、予想した時点では知ることのできなかった出来事が原因です。
合理的であることと、未来を完全に当てられることは同じではありません。
合理的期待でも予測誤差は生じる
合理的期待という考え方でも、すべての予想が必ず的中すると考えているわけではありません。
重要なのは、予想を形成した時点で利用できる情報を適切に使っているかどうかです。
未来には予測できない出来事があります。
そのため合理的期待のもとでも、個々の予想には誤差が発生します。
ただし、予測誤差に一定の偏りが繰り返し生じるのであれば話は変わります。
例えば毎年のように物価上昇率を実際より低く予想しているとします。
利用できる情報を使えばその偏りを修正できるのに、何年たっても同じ間違いを続けているのであれば、合理的期待との整合性を検討する必要があります。
偶然の誤差と偏った誤差は違う
例えば5年間の物価予想を考えてみます。
1年目は実際より高く予想しました。
2年目は実際より低く予想しました。
3年目はほぼ的中しました。
4年目は高く予想しました。
5年目は低く予想しました。
このように誤差の方向がばらばらであれば、予測できない出来事によって誤差が生じている可能性があります。
一方、5年間すべて実際より低く予想していたらどうでしょうか。
そこには何らかの偏りがあるかもしれません。
予測誤差を見るときには、単に誤差が存在するかどうかだけでなく、一定方向への偏りが続いているかを見ることが重要です。
新しい情報が予測誤差を生む
経済には、予想した時点では分からない新しい情報が次々に登場します。
例えば突然、原油価格が大きく上昇したとします。
輸送費や原材料費が上昇し、企業が商品価格を引き上げるかもしれません。
予想していなかった円安が進めば、輸入価格が上昇する可能性があります。
反対に、世界景気が急速に悪化すれば、需要が弱まり物価上昇率が予想より低くなることもあります。
こうした新しい情報は、過去の予想には織り込めません。
予測誤差が発生すること自体は、未来に不確実性がある以上避けられないのです。
家計の予測誤差はなぜ大きくなりやすいのか
一般の家計の場合、専門家よりも大きな予測誤差が生じることがあります。
家計がすべての経済情報を収集しているとは限らないからです。
例えば、食品価格を中心に物価を判断している人がいるとします。
食品価格が大きく上昇していれば、
来年も物価全体が大幅に上昇する
と予想するかもしれません。
しかし、食品以外の価格がそれほど上昇しなければ、実際の消費者物価上昇率は予想より低くなる可能性があります。
利用している情報が限られているため、予測誤差が大きくなることがあるのです。
合理的無関心とも関係する
だからといって、家計がすべての経済情報を調べないことが必ず非合理的というわけでもありません。
ここで合理的無関心が関係します。
将来の物価を正確に予想するために、毎日大量の経済ニュースを読み、統計を分析するには時間がかかります。
一般の家計にとって、そのために使う時間の方が、予測精度を高める利益より大きいかもしれません。
そこで、
ある程度の情報で判断すれば十分だ
と考えることがあります。
結果として予測誤差が大きくなったとしても、情報収集に必要なコストまで含めれば合理的な行動だった可能性があります。
予測誤差から期待形成を調べる
予測誤差を調べることで、人々がどのように期待を形成しているのかを分析できます。
例えば家計に、
1年後の物価上昇率は何%になると思いますか
と質問します。
1年後に実際の物価上昇率が判明したら、当時の予想と比較します。
これを多くの家計について繰り返せば、
予想は平均的に高すぎるのか
低すぎるのか
どのような人の予測誤差が大きいのか
新しい情報によって予想を修正しているのか
などを調べることができます。
単に「何%と予想しているか」を見るだけでなく、その予想が後からどうなったかを見ることで期待形成の特徴が分かるのです。
同じ間違いを繰り返すかが重要になる
人間は予想を外します。
重要なのは、その後どうするかです。
例えば今年、
物価上昇率は1%だろう
と予想したのに実際には4%だったとします。
その経験から、
自分は物価を低く見積もりすぎていた
と考え、次の予想を修正することができます。
しかし新しい情報が繰り返し示されても、予想をまったく変えない場合があります。
粘着情報によって古い情報を使い続けているのかもしれません。
特定の商品価格を強く意識しすぎている可能性もあります。
予測誤差がどのように修正されるのかを見ることも、人間の期待形成を理解する重要な手掛かりになります。
予測誤差ゼロを目指すことが合理性ではない
経済の将来予測では、予測誤差を完全になくすことはできません。
もし未来に起きることをすべて正確に知ることができれば、そもそも予測ではありません。
重要なのは、
その時点で利用できた情報をどう使ったのか
新しい情報が出たときに予想を修正したのか
同じ方向の間違いを繰り返していないか
という点です。
予測の結果だけではなく、予測を作った過程を見る必要があります。
結論
予測誤差とは、事前に予想した値と後から判明した実際の値との差です。
将来の物価を2%上昇すると予想して、実際には4%上昇すれば予測誤差が生じます。
しかし、予想が外れたという事実だけで、その人が非合理的だったとは判断できません。
予想した後に、資源価格の急騰や為替変動など予測できなかった出来事が起きることがあるからです。
合理的期待のもとでも予測誤差は発生します。
重要なのは、予測誤差が一定方向へ偏り続けていないか、新しい情報を受け取ったときに予想を修正しているかを見ることです。
家計の期待形成を理解するためには、「予想が当たったか外れたか」だけを見るのでは十分ではありません。
どの情報を使って予想し、なぜ外れ、その経験を次の予想へどう反映したのかを見る必要があります。
合理的な人とは、未来を一度も外さない人ではありません。
不確実な未来について、その時点で利用できる情報を使って判断し、新しい情報が入れば予想を修正していく人だと考えることができるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 家計の「期待」と経済(3) 人間は合理的ではない