中退共はどう変わるのか 掛金と制度間移行の見直しを考える編

税理士
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中小企業で働く人の退職金を支える中小企業退職金共済制度について、見直しの議論が進んでいます。

背景にあるのは、人手不足や働き方の変化です。

一つの会社で定年まで働くことを前提とするだけではなく、転職しながらキャリアを形成する人も増えています。

令和9年度税制改正要望では、厚生労働省が中退共制度の見直しを前提として、税制上の所要の措置を求めています。

注目したいのが、掛金のあり方と制度間移行の拡充です。

中退共の掛金とは何か

中退共では、事業主が従業員ごとに毎月掛金を納付します。

その積み重ねが、将来従業員が受け取る退職金につながります。

つまり、退職時に会社が突然大きな金額を準備するのではなく、従業員が働いている間から少しずつ退職金の原資を準備していく仕組みです。

掛金をどのように設定するかは、将来の退職金水準に直接関係します。

そのため、制度を時代に合わせて見直す場合、掛金のあり方は重要な論点になります。

なぜ掛金を見直す必要があるのか

退職後に必要となる生活資金は、物価や賃金などによって変わります。

長期間にわたり賃金や物価が上昇すれば、以前と同じ掛金を積み立てていても、退職時に受け取る金額の実質的な価値は低下する可能性があります。

一方、掛金負担を大きくすれば、企業側の負担も増えます。

特に中小企業では、人件費や原材料費などさまざまなコストが上昇するなかで、新たな負担をどこまで引き受けられるかという問題があります。

従業員の退職後の処遇を改善することと、企業が無理なく制度を続けられることの両方を考える必要があります。

制度間移行とは何か

もう一つの重要な論点が制度間移行です。

働く人が転職すると、勤務先の退職金制度も変わることがあります。

以前の会社では中退共、新しい会社では別の退職金制度というケースも考えられます。

このとき、退職金のために形成してきた資産を一定の条件で新しい制度へ移せれば、転職後も老後資金の形成を継続しやすくなります。

こうした仕組みが制度間移行です。

転職すると退職金が不利になる問題

退職金制度は、長期勤続を前提として設計されていることがあります。

そのため、一つの会社に長期間勤務する人と、複数の会社を転職する人では、最終的な退職金に差が生じる場合があります。

しかし、現在では転職そのものが珍しい働き方ではなくなっています。

人手不足のなかで、企業側も中途採用によって人材を確保する必要があります。

転職するたびに退職金形成が大きく不利になる仕組みでは、労働移動を妨げる可能性もあります。

そこで、勤務先が変わってもそれまで形成してきた退職金をできるだけ引き継げる仕組みの重要性が高まっています。

技能労働者の確保にも関係する

厚生労働省は、中退共制度の見直しについて、中小企業の労働者などの退職時の処遇改善だけでなく、技能労働者の担い手確保という観点も挙げています。

技能を持つ人材が不足すれば、中小企業にとって人材の獲得競争はさらに厳しくなります。

給与だけではなく、退職金を含めた長期的な処遇も採用条件の一つになります。

また、技能を持つ人が企業間を移動した場合でも退職金形成を継続できれば、働く側にとって転職の負担を小さくできる可能性があります。

退職金制度は老後政策であると同時に、労働市場政策でもあるわけです。

なぜ税制改正が必要になるのか

中退共制度には税制上の取り扱いがあります。

そのため、掛金の仕組みや制度間移行の範囲を変更すると、税制についても対応が必要になる可能性があります。

たとえば制度から制度へ資産を移す際、その時点で課税関係が発生してしまえば、資産を持ち運ぶメリットが小さくなります。

退職金や年金の制度では、いつ課税するのかが非常に重要です。

拠出するときなのか。

運用している間なのか。

最終的に本人が受け取るときなのか。

制度を変更する場合には、こうした課税関係も一緒に整備する必要があります。

まだ具体的な改正内容は決まっていない

令和9年度税制改正要望を読む際には、現時点で中退共の新しい掛金額や制度間移行の具体的な範囲が確定したわけではないことに注意が必要です。

厚生労働省では、労働政策審議会において制度の見直しが検討されています。

その検討結果を踏まえて、税制上必要となる措置を講じることが要望されています。

したがって、まず制度本体の見直しがあり、それに税制が対応するという順序になります。

今後は労働政策審議会の結論と、その内容が税制改正にどう反映されるのかを確認する必要があります。

退職金も持ち運ぶ時代になるのか

働き方が変われば、退職金制度にも変化が求められます。

一社で長期間働くことが一般的だった時代には、会社ごとに退職金制度が完結していても大きな問題にならなかったかもしれません。

しかし、転職を重ねながら40年近い職業人生を送る人が増えれば、勤務先が変わっても退職資産を引き継げる仕組みが重要になります。

公的年金は勤務先が変わっても加入記録がつながります。

これに対して退職金は企業ごとの制度という性格が強くあります。

中退共の制度間移行の拡充は、退職金についても会社ではなく働く人を中心に考える方向へ進むのかという点で注目できます。

結論

中小企業退職金共済制度では、掛金のあり方や制度間移行の拡充などについて見直しが検討されています。

掛金を充実させれば従業員の退職後の処遇改善につながる一方、企業側の負担とのバランスも必要です。

制度間移行を拡充すれば、転職してもそれまで形成してきた退職金を引き継ぎやすくなる可能性があります。

令和9年度税制改正要望では、こうした制度見直しの結果を踏まえて必要な税制措置を講じることが求められています。

これからの退職金制度で重要になるのは、一つの会社に何年勤めたかだけではないのかもしれません。

勤務先が変わっても、職業人生を通じて退職後の資産を継続して形成できるか。

中退共の見直しは、転職が一般化する時代の退職金制度を考える重要な動きといえます。

参考

税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を

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