ニュースなどで「マネー・ローンダリング」という言葉を耳にする機会が増えています。しかし、その実態について詳しく理解している人は意外と多くありません。
税理士の仕事は税務や会計が中心ですが、近年ではマネロン対策も重要な実務テーマになっています。なぜなら犯罪組織は資金を洗浄する過程で、会社設立や不動産取引、専門家への依頼など、合法的な仕組みを利用するからです。
今回はマネー・ローンダリングの基本的な仕組みについて考えてみます。
マネー・ローンダリングの目的
マネー・ローンダリングとは、犯罪によって得た資金の出所を分からなくし、合法的な資金であるように見せかける行為です。
例えば特殊詐欺で得た資金がそのまま犯罪者の口座に残っていれば、捜査機関は簡単に追跡できます。
しかし、複数の口座や会社、不動産などを経由して資金の流れを複雑化すると、元の資金の出所が分かりにくくなります。
犯罪組織の目的は犯罪収益を自由に利用できる状態にすることです。
つまり、犯罪そのものだけでなく、その後の資金洗浄が極めて重要なのです。
マネロンはどのように行われるのか
一般的にマネロンは三つの段階で行われるといわれています。
最初は「配置」です。
犯罪収益を金融機関や事業者を通じて社会に流し込みます。
次に「分散」です。
複数の口座や会社を利用して資金を移動させます。海外送金や暗号資産の利用などもここに含まれます。
最後は「統合」です。
洗浄された資金を不動産投資や事業投資などに利用し、合法的な資産に見せかけます。
こうして犯罪収益は普通の資金と区別がつきにくくなります。
犯罪組織はなぜ会社を作るのか
会社設立は本来、事業活動のための制度です。
しかし犯罪組織はペーパーカンパニーや実態のない法人を利用することがあります。
法人名義の口座を開設し、複数の取引を繰り返すことで資金の流れを見えにくくするのです。
会社設立や役員変更、株式譲渡などの手続には専門家が関与することも少なくありません。
そのため司法書士や行政書士、税理士などが知らないうちに利用されるリスクも存在します。
不動産が利用される理由
不動産は高額な資産であり、マネロンに利用されやすい分野です。
例えば犯罪収益で不動産を購入し、その後売却することで資金を合法的な売却代金に見せかけることができます。
また親族や関係会社を利用した売買を繰り返すことで、資金の流れを複雑化させるケースもあります。
不動産取引に関与する税理士は、資金の出所や取引の合理性に注意を払う必要があります。
暗号資産の登場で変わったこと
近年は暗号資産がマネロンに利用されるケースも増えています。
国境を越えた送金が容易であることや、複雑な取引を短時間で行えることが理由です。
もちろん暗号資産そのものが悪いわけではありません。
しかし犯罪組織にとっては便利な資金移動手段となる場合があります。
そのため各国で暗号資産交換業者への規制強化が進められています。
税理士が気付くべき危険信号
税理士が直接マネロン捜査を行うことはありません。
しかし日常業務の中で違和感に気付くことはあります。
例えば、
短期間で多数の法人を設立している
事業内容が不明確である
多額の現金取引を希望する
資金の出所について説明が曖昧である
実態のない取引が繰り返されている
このようなケースでは慎重な対応が必要です。
税理士が社会から期待されているのは、専門家として適切な注意を払うことです。
マネロン対策は社会全体の課題
マネー・ローンダリングは単なる金融犯罪対策ではありません。
特殊詐欺、薬物犯罪、組織犯罪、テロ資金供与など様々な犯罪と深く結び付いています。
そのため金融機関だけでなく、不動産業者、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士など多くの専門家が連携して対応する必要があります。
税理士も社会インフラの一部として重要な役割を担っているのです。
結論
マネー・ローンダリングとは、犯罪収益の出所を隠し、合法的な資金に見せかける行為です。会社設立や不動産取引、暗号資産など様々な手段が利用されるため、税理士も無関係ではありません。
これからの税理士には税務知識だけでなく、取引の背景や資金の流れを理解する視点が求められます。マネロン対策は社会全体の信頼を守るための重要な取り組みなのです。
参考
警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課犯罪収益対策室(JAFIC)
「マネー・ローンダリング対策について」講義資料
警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策第一課犯罪収益対策室(JAFIC)
「疑わしい取引の届出方法について」補助資料