お酒を飲まない人が増えています。
かつては「お酒を飲めること」が大人の社交の条件のように考えられていました。しかし今、米国ではあえて飲酒をしない「ソバーキュリアス」というライフスタイルが広がっています。
健康上の理由だけではありません。人とのつながりや人生の楽しみ方そのものを見直す動きとして注目されています。
日本でも人生100年時代を迎え、定年後の人間関係づくりや健康管理が重要なテーマになっています。今回は、米国で広がるソバーキュリアス現象から、人生後半の幸福について考えてみます。
ソバーキュリアスとは何か
ソバーキュリアスとは、「しらふ」を意味するSoberと、「好奇心」を意味するCuriousを組み合わせた言葉です。
完全な禁酒を意味するわけではありません。
「今日は飲まない」
「必要がなければ飲まない」
「飲酒を当たり前と思わない」
そんな柔軟な考え方です。
従来は酒を飲まない人に対して、
「付き合いが悪い」
「場の空気を壊す」
という見方がありました。
しかし現在は、
「飲まなくても十分楽しめる」
「健康的な選択をしている」
という肯定的な評価に変わりつつあります。
価値観の変化が起きているのです。
若者ほど酒を飲まなくなっている
興味深いのは、飲酒離れが若い世代ほど顕著なことです。
米国の調査では18~34歳の飲酒率が最も低い水準となっています。
背景には複数の理由があります。
まず健康意識の高まりです。
アルコールとがんリスクとの関係が広く知られるようになりました。
次に経済的な理由があります。
物価高の中で外食費や飲酒代は大きな負担になります。
さらにSNS世代は、自分の時間や健康状態を重視する傾向があります。
二日酔いで休日を失うよりも、趣味や運動に時間を使いたいと考える人が増えているのです。
飲まない社交が広がっている
これまで社交の場といえば居酒屋やバーでした。
ところが米国では、酒を飲まない交流イベントが人気を集めています。
ノンアルコール飲料を楽しみながら会話や食事を楽しむ会です。
そこではお酒が主役ではありません。
人との出会いや会話そのものが主役です。
考えてみれば、本来の交流とはそういうものだったはずです。
お酒は会話を助ける道具であり、目的ではありません。
ところがいつの間にか、
「飲むことそのもの」
が目的になってしまった場面も少なくありません。
ソバーキュリアスは、その原点を思い出させてくれる考え方ともいえます。
定年後の人間関係づくりにも通じる
人生後半になると、多くの人が新しい人間関係づくりに悩みます。
会社を退職すると、これまでの飲み会中心の付き合いは自然に減少します。
そこで重要になるのが、
「共通の目的を持つ仲間」
です。
趣味のサークル
ボランティア活動
スポーツクラブ
地域活動
学び直しの講座
こうした場所では、お酒がなくても十分に交流できます。
むしろ素面だからこそ、深い会話や信頼関係が生まれることもあります。
定年後に幸せな人ほど、お酒ではなく共通の価値観で人とつながっています。
私自身が22年間禁酒して感じること
私は22年間、お酒を飲んでいません。
その間に感じるのは、人間関係はお酒ではなく人柄で築かれるということです。
もちろん、お酒の席が嫌いなわけではありません。
飲んでいる人と一緒に過ごすこともあります。
しかし、お酒を飲まないことで不利益を感じる場面は年々減っています。
むしろ健康面では大きなメリットを感じています。
睡眠の質
朝の目覚め
運動習慣
体重管理
これらを考えると、自分にとって禁酒は良い選択だったと思います。
ソバーキュリアスが広がる背景には、こうした実感を持つ人が増えていることもあるのでしょう。
酒文化はなくなるのか
もちろん、お酒がなくなるわけではありません。
日本酒やワイン、ビールには文化的価値があります。
友人との乾杯を楽しむ人もいるでしょう。
問題は飲むか飲まないかではありません。
選択できることです。
飲みたい人は飲む。
飲みたくない人は飲まない。
どちらも尊重される社会が成熟した社会です。
ソバーキュリアスの広がりは、飲酒文化の否定ではなく、多様な生き方を認める社会への変化といえるでしょう。
結論
米国で広がるソバーキュリアスは、単なる禁酒ブームではありません。
健康を守りながら、人とのつながりや人生の楽しみ方を見直そうとする新しい価値観です。
人生後半において本当に大切なのは、お酒の量ではなく、人との関係の質です。
定年後の幸福は、何を飲むかではなく、誰と時間を過ごすかによって決まります。
ソバーキュリアスという生き方は、そのことを改めて教えてくれているのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年6月22日夕刊
「ソバキュリアン」になるワケ 米国で広がる飲酒しない生き方