長年、日本では「預金が一番安心」という考え方が広く浸透していました。
預金であれば元本が保証され、大きく値下がりする心配もありません。そのため、多くの人が老後資金を預金中心で準備してきました。
しかし、物価が上昇する現在では、資産の見方を少し変える必要があります。
重要なのは、お金がいくら増えたかではなく、そのお金で将来どれだけのモノやサービスを購入できるかです。
今回は、インフレ時代の資産形成で知っておきたい「実質リターン」の考え方について解説します。
実質リターンとは何か
資産運用では、「年5%の利回り」「年3%の運用成績」といった数字がよく使われます。
これらは「名目リターン」と呼ばれ、お金そのものがどれだけ増えたかを表しています。
一方で、本当に重要なのは「実質リターン」です。
実質リターンとは、運用成果から物価上昇率を差し引いた後の、本当の資産価値の伸びを表す考え方です。
例えば、年間4%で運用できても、その年の物価が3%上昇していれば、実質的な資産価値の増加は約1%です。
逆に、預金金利が0.2%で物価が3%上昇すれば、お金の額面はほとんど変わらなくても、買えるモノやサービスは減ってしまいます。
元本保証でも安心とは限らない
「預金なら元本は減らない。」
これは間違いではありません。
しかし、元本が減らないことと、資産価値が守られることは同じではありません。
例えば、現在100万円で購入できる商品が、10年後には130万円になっていたとします。
預金残高が100万円のままであれば、お金は減っていませんが、購入できる商品は以前より少なくなります。
これはインフレによって、お金の価値が下がった状態です。
資産形成では、「元本割れ」だけでなく、「購買力の低下」というリスクにも目を向ける必要があります。
長期投資は時間を味方にできる
インフレに対応する方法の一つが、長期投資です。
株式や株式を組み入れた投資信託は、短期間では価格が大きく変動することがあります。
しかし、長期間にわたり企業が利益を積み重ねていけば、株価も成長する可能性があります。
もちろん将来の運用成果を保証するものではありませんが、長期で積み立てを続けることで、短期的な価格変動の影響を和らげやすくなると考えられています。
だからこそ、iDeCoや新NISAでは長期・積立・分散という考え方が重視されているのです。
資産を一つに集中させない
インフレへの備えとして重要なのは、資産を分散することです。
預金だけでは物価上昇に弱くなります。
一方で、株式だけでは価格変動の影響を受けやすくなります。
そのため、
・預金
・国内外の株式
・債券
・投資信託
などを組み合わせ、自分に合った資産配分を考えることが大切です。
分散投資は高い利益を狙うためではなく、大きな失敗を避けながら資産を育てるための基本的な考え方です。
老後資金は増やすことだけが目的ではない
資産形成というと、「いくら増やせるか」に意識が向きがちです。
しかし、本来の目的は、老後も安心して生活を続けられる資金を準備することです。
そのためには、運用成績だけでなく、物価の変化や生活費の増加も考慮しなければなりません。
資産運用は競争ではありません。
自分や家族の生活を守るための手段であることを忘れないことが大切です。
数字だけに惑わされない
運用成績を見るときは、「何%増えたか」だけで判断しないようにしましょう。
その数字が物価上昇を上回っているのか。
手数料や税金を差し引いた後でも資産価値は増えているのか。
こうした視点を持つことで、資産形成に対する考え方が大きく変わります。
インフレ時代には、「名目の利益」よりも「実質的な資産価値」を意識することが重要になります。
結論
インフレ時代の資産形成では、お金が増えたかどうかだけでは十分ではありません。
大切なのは、その資産が将来も生活を支える力を持ち続けられるかどうかです。
預金だけに頼るのでも、価格変動を恐れて投資を避けるのでもなく、長期・積立・分散という基本を守りながら、実質リターンを意識した資産形成を続けることが重要です。
老後資金づくりは短距離走ではありません。物価の変化も見据えながら、資産の「額」ではなく「価値」を育てる視点を持つことが、これからの時代には欠かせないでしょう。
参考
日本経済新聞(2026年7月25日 朝刊)
iDeCo 金融機関が助言 インフレ対応で利回り上げ図る 厚労省、解禁の方向