M&Aという言葉を聞くと、多くの人は会社を買う場面を思い浮かべます。
買収価格はいくらか。
どんなシナジーが期待できるか。
売上はどれだけ伸びるか。
こうした議論が中心になります。
しかし実際の経営現場では、買うことよりも難しい問題があります。
それは「どう終わらせるか」です。
どんな優れた企業にも終わりがあります。
事業にも寿命があります。
そしてM&Aにも出口があります。
今回で清算シリーズの締めくくりとして、なぜ現代の経営者にとって「畳む技術」が重要なのかを考えてみます。
M&Aは買った瞬間から出口戦略が始まる
多くの経営者はM&Aを入口として考えます。
しかし投資の世界では、入口より出口が重要だと言われます。
例えば株式投資でも、
いつ買うか
より
いつ売るか
の方が結果を左右します。
M&Aも同じです。
買収した会社を
いつまで保有するのか
どう成長させるのか
どう整理するのか
まで考えなければなりません。
優れた経営者ほど、買収前から出口戦略を描いています。
すべてのM&Aが成功するわけではない
現実には、期待通りにいかないM&Aもあります。
例えば、
想定したシナジーが出ない
人材が流出する
市場環境が変化する
主要顧客を失う
といったケースです。
買収時には将来有望だった事業が、数年後には不採算事業になることもあります。
それは経営者の失敗ではありません。
経営環境が変わることは当然だからです。
重要なのは失敗しないことではなく、失敗した時に被害を最小化することです。
撤退は敗北ではない
日本の経営者は撤退を苦手とする傾向があります。
一度始めた事業は続けるべき。
赤字でも頑張るべき。
会社は残すべき。
こうした価値観が根強くあります。
しかし経営とは資源配分です。
将来性のない事業に資金や人材を投入し続ければ、本来伸ばせる事業まで弱くなります。
撤退は敗北ではありません。
経営資源を守るための意思決定です。
むしろ優れた経営者ほど撤退判断が早いと言われています。
清算は最後の経営判断
このシリーズでは、
解散
清算
欠損金
残余財産
みなし配当
完全支配関係
などを見てきました。
どれも会社の最後に関わるテーマです。
会社を作るのは比較的簡単です。
しかし会社を終わらせることは簡単ではありません。
債権者への対応
従業員への対応
取引先への説明
税務申告
株主対応
多くの課題があります。
だからこそ清算は最後の経営判断なのです。
会社経営は人生と似ている
会社経営と人生には共通点があります。
若い頃は成長を追い求めます。
しかし人生後半になると、
どう生きるか
だけでなく
どう終えるか
も重要になります。
会社も同じです。
創業期は成長がテーマです。
しかし成熟期や承継期になると、
どう整理するか
どう引き継ぐか
どう終えるか
が重要になります。
人生100年時代の個人に終活が必要なように、企業にも終活が必要なのです。
中小企業の出口戦略はこれからが本番
日本では経営者の高齢化が進んでいます。
後継者不在企業も増えています。
今後は、
M&A
事業譲渡
会社分割
清算
がさらに増えていくでしょう。
つまり、
会社を作る時代
から
会社を引き継ぎ整理する時代
へ移行しているのです。
税理士や司法書士などの専門家にも、出口戦略支援が求められる時代になります。
税理士は会社の最期を支える専門家へ
従来の税理士業務は、
記帳
決算
申告
が中心でした。
しかし今後は、
事業承継
M&A
組織再編
清算
といった分野の重要性が高まります。
経営者が本当に知りたいのは、
税額計算
ではなく
最善の選択肢
です。
会社を売るべきか。
残すべきか。
畳むべきか。
税理士には、そうした経営判断を支援する役割が期待されています。
人生100年時代の経営者に必要な視点
人生100年時代では、経営者自身も長寿化します。
70代、80代になっても会社との関係が続くケースは珍しくありません。
だからこそ、
会社をどう終わらせるか
を早い段階から考える必要があります。
事業承継だけではありません。
清算も立派な出口戦略です。
残すことだけが成功ではありません。
円満に終えることも成功なのです。
結論
M&Aは買う技術だけで成功するものではありません。
本当に重要なのは、どう終えるかです。
どの事業を残し、
どの事業を売り、
どの会社を整理するのか。
その判断によって企業価値は大きく変わります。
清算は失敗ではありません。
企業価値を守るための経営戦略です。
これからの時代は、買収の専門家だけでなく、撤退と整理の専門家が求められます。
そして税理士にも、会社の誕生から成長、承継、そして最期まで寄り添う経営参謀としての役割が期待されているのです。
参考
近畿税理士会 税法実務講座 法人税
税理士として知っておきたいM&Aの基礎知識⑥ 清算、M&Aをさらに活用するために