税理士は遺言に関与すべきか 職域の再定義と実務の接点

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

遺言は本来、民法に基づく法的手続であり、弁護士や司法書士などが関与する領域とされてきました。
一方で、実務の現場では遺言の内容が税務に大きな影響を与えることが明らかになっています。

その結果、「税理士は遺言にどこまで関与すべきか」という問題が浮上しています。

これは単なる業際の問題ではなく、資産承継のあり方そのものに関わる論点です。
本稿では、税理士の関与の必要性と限界について整理します。


遺言は法務領域という前提

まず前提として、遺言の作成自体は法務領域に属します。

遺言の有効性や形式要件は民法によって定められており、これらの判断は法律専門職の領域です。
税理士が単独で遺言を作成することは、職域上の制約を受けます。

このため、従来は「税理士は遺言に関与しない」というスタンスが一般的でした。


しかし税務は遺言に強く依存する

一方で、遺言の内容は税務結果を直接左右します。

例えば、次のような点は遺言の設計次第で大きく変わります。

・誰がどの資産を取得するか
・資産の種類(不動産、株式、現金など)
・遺贈寄付の有無と内容

これらはすべて相続税や所得税の課税関係に直結します。

つまり、遺言を無視して税務だけを考えることはできない構造になっています。


関与しないこと自体がリスクになる

税理士が遺言に関与しない場合、次のような問題が発生します。

・税務上不利な資産配分が行われる
・みなし譲渡課税が想定外に発生する
・納税資金が不足する
・相続人間の負担が不均衡になる

これらはすべて、遺言作成段階で回避可能な問題です。

つまり、「関与しない」という選択そのものが、結果的に税務リスクを放置することにつながります。


税理士に求められる関与の範囲

では、税理士はどこまで関与すべきなのでしょうか。

実務的には、次のような関与が現実的です。

・資産構成に応じた税務影響の説明
・課税シミュレーションの提示
・納税資金の確保に関する助言
・遺贈寄付における税務論点の整理

重要なのは、「遺言を書く」のではなく、「税務の結果を可視化する」役割です。

この役割は、税理士にしか担えない領域でもあります。


職域の境界と連携の必要性

一方で、税理士が法務領域に踏み込みすぎることには注意が必要です。

遺言の法的有効性や文言の設計は、あくまで法律専門職の領域です。
この境界を曖昧にすると、かえってリスクが高まります。

したがって、実務では次のような連携が重要になります。

・税理士が税務面の設計を提示する
・弁護士や司法書士が法的に整える
・最終的に一体として遺言を構築する

この分業と連携が機能するかどうかが、実務の質を左右します。


「作業型」から「設計型」への転換

この問題の本質は、税理士の役割の変化にあります。

従来の税理士業務は、申告や計算といった「作業型」が中心でした。
しかし、資産承継の分野では「設計型」の役割が求められています。

遺言に関与するということは、単なる税務処理ではなく、
「結果を設計する」という立場に移行することを意味します。

これは、税理士の職域を拡張するというよりも、実務の本質に近づく動きといえます。


結論

税理士は遺言を作成する主体ではありません。
しかし、遺言の結果に責任を持つ立場にはあります。

そのため、遺言に関与しないという選択は、実務上のリスクを伴います。
一方で、関与の方法を誤れば職域の問題が生じます。

求められるのは、法務と税務の境界を踏まえたうえで、
税務の観点から資産承継を設計し、他の専門家と連携する姿勢です。

遺言を巡る実務は、税理士の役割を再定義する領域に入っています。
ここにどう関与するかが、今後の専門性の分岐点となります。


参考

日本経済新聞 2026年3月26日 朝刊
私見卓見「遺贈寄付、運用の透明性を高めよ」今藤里子

国税庁 相続税法基本通達
国税庁 所得税法関係通達

タイトルとURLをコピーしました