のれん償却は廃止されるのか ― 日本の会計基準見直しの議論

会計
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日本の会計制度では、M&Aで生じる「のれん」を一定期間で償却する仕組みが採用されています。しかし近年、この扱いを見直すべきではないかという議論が続いています。

2026年3月、財務会計基準機構(FASF)は、のれん会計の見直しについてパブリックコメントの実施を検討する方針を示しました。焦点となるのは、現在のように定期的に償却する方式を維持するのか、それとも国際会計基準(IFRS)のように償却を行わない方式へ変更するのかという点です。

のれん会計は、M&A戦略や企業価値評価にも大きな影響を与える重要なテーマです。本稿では、日本でのれん償却が採用されている理由と、現在の見直し議論の背景を整理します。


のれんとは何か

のれんとは、企業買収の際に支払った金額が、被買収企業の純資産額を上回る部分を指します。

たとえば、純資産100億円の会社を150億円で買収した場合、差額の50億円が「のれん」として計上されます。

この差額には次のような価値が含まれていると考えられます。

  • ブランド力
  • 顧客基盤
  • 技術力
  • 将来の収益力

しかし、これらは明確な形を持たない無形の価値です。そのため会計上どのように扱うかは長年議論されてきました。


日本の会計基準は「償却方式」

日本基準では、のれんは一定期間で費用化(償却)します。
現在のルールでは、20年以内の合理的な期間で規則的に償却することになっています。

この方式の考え方は比較的シンプルです。

買収で生まれた価値は時間とともに減少する可能性があるため、徐々に費用として計上するという考え方です。

このため日本企業が大型M&Aを行うと、その後長期間にわたり利益が圧迫されるケースがあります。


国際会計基準は「非償却方式」

一方、国際会計基準(IFRS)では、のれんは定期的に償却しません。

代わりに採用されているのが「減損テスト」です。

企業価値が低下したと判断される場合にのみ、損失を計上します。
価値が維持されていると判断されれば費用計上は行いません。

この仕組みには次のような特徴があります。

メリット

  • M&A後の利益が減少しにくい
  • 企業価値の評価に近い

デメリット

  • 減損の判断が経営者の裁量に左右されやすい
  • 巨額損失が突然計上されることがある

なぜ日本で見直し議論が続くのか

日本でのれん会計が議論される背景には、主に次の3つがあります。

M&A戦略への影響

日本企業は近年、海外企業の買収を積極的に進めています。
しかし償却費が利益を押し下げるため、M&Aをためらう要因になるとの指摘があります。

国際基準との違い

IFRSでは非償却方式が採用されており、日本基準との違いが企業比較を難しくしているという問題があります。

投資家の評価

投資家はのれん償却の影響を除いた利益指標を重視するケースが多く、企業が独自に「のれん償却前利益」を開示する例も増えています。

こうした状況を踏まえ、日本でも制度の見直しが長年議論されています。


FASFが示した現時点の考え方

今回の議論で注目されたのは、FASF事務局の見解です。

事務局は次のような考え方を示しました。

  • 非償却が償却方式より優れている状況にはない
  • 無形資産など関連基準の見直しも必要
  • 基準改正には少なくとも3年程度かかる可能性

つまり、現時点では「すぐに非償却へ移行する状況ではない」という慎重な姿勢が示されています。

その一方で、利害関係者の関心が高いため、追加の情報収集を目的としてパブリックコメントを実施する方向となりました。


今後の議論の焦点

今後の論点として指摘されているのは次の点です。

利益表示の改善

のれん償却の影響を考慮した新しい利益指標の表示を検討する案があります。

損益計算書の表示改革

IFRSでは損益計算書の表示改革が進んでおり、日本でも表示方法の見直しを優先すべきとの意見があります。

国際基準との整合性

日本基準を国際基準に近づけるのか、それとも独自の制度を維持するのかという問題も重要なテーマです。


結論

のれん会計は、M&Aの評価や企業の利益表示に大きな影響を与える制度です。

日本では現在、償却方式が採用されていますが、国際会計基準との違いやM&A戦略への影響を背景に見直し議論が続いています。

今回、財務会計基準機構がパブリックコメントを検討することになったことで、議論はさらに広がる可能性があります。ただし現時点では、非償却方式への移行がすぐに実現する状況ではないとみられています。

のれん会計の議論は、企業の成長戦略、投資家の情報ニーズ、国際的な会計制度の整合性といった複数の視点が交錯するテーマです。今後の制度設計は、日本企業のM&A戦略にも影響を与える可能性があり、引き続き注目されます。


参考

日本経済新聞
2026年3月14日朝刊
会計基準機構、のれん償却巡りパブコメ実施へ

企業会計基準委員会
企業結合に関する会計基準

国際会計基準審議会
IFRS第3号 企業結合

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