賃上げは広がっているのか ― 若手と中高年で異なる賃金上昇の実態

FP

日本では長く「賃金が上がらない国」と言われてきました。しかし近年、状況は少しずつ変わりつつあります。春闘では高い賃上げ率が続き、政府も企業に対して賃上げを強く求めています。

もっとも、統計を詳しくみると、賃金上昇の恩恵はすべての世代に均等に広がっているわけではありません。若年層では賃金の底上げが進む一方で、中高年では賃上げのばらつきが大きくなっています。

本稿では、賃金統計のデータをもとに、現在の賃上げの実態と、その背景にある企業行動の変化について整理します。


平均賃金よりも中央値の方が伸びている

内閣府の日本経済リポート(ミニ白書)は、賃金構造基本統計調査の個票データを用いて賃金の変化を分析しています。

2018年から2024年にかけての所定内給与の変化を見ると、次のような結果となりました。

  • 平均賃金:11.6%上昇
  • 中央値:12.2%上昇

中央値の方が伸びているということは、比較的所得が低い層の賃金が底上げされていることを意味します。
この結果から、賃上げは一部の高所得者だけではなく、全体的に広がりつつあると考えられます。

長年、日本では賃金がほとんど上昇しない状態が続いてきました。その状況と比較すると、現在は確かに変化の兆しが見えています。


若年層では賃金水準が全体的に上昇

年齢別にみると、賃金の上昇の仕方には世代差があります。

給与計算代行会社のデータを用いた分析では、次のような傾向が確認されています。

  • 20歳代・30歳代:賃金分布が全体的に上昇
  • 40歳代・50歳代:上昇のばらつきが拡大

若年層では、賃金水準そのものが上の方へシフトしています。つまり、全体として給与が引き上げられているということです。

背景にあるのは、人手不足と人材獲得競争です。少子化によって若い労働力が減少しており、企業は若手人材の確保と離職防止を重要課題としています。

そのため、初任給の引き上げや若手社員の給与改善が相次いでいます。


中高年では賃金のばらつきが拡大

一方で、40歳代・50歳代になると状況は変わります。

この年代では、賃金分布の全体的な上昇は小さく、高賃金層の伸びが目立つ傾向があります。
つまり、賃金が上がる人と上がらない人の差が広がっているのです。

背景にはいくつかの要因があります。

第一に、企業が人件費配分を若手に重点化していることです。
第二に、役割や成果による賃金差が広がっていることです。
第三に、企業の賃金制度が年功型から職務型へと変化していることです。

これらの変化によって、中高年層の賃金は一律に上がるのではなく、個人差が大きくなっています。


産業によっても賃金の動きは異なる

産業別にみても、賃上げの形は大きく異なります。

建設業では、2024年の賃金分布に「二つの山」が現れました。
これは、高技能労働者の賃金が大きく上昇する一方、それ以外の労働者の賃金があまり上がっていない可能性を示しています。

技能や経験の差によって賃金格差が拡大していると考えられます。

一方、医療・福祉分野では違う動きが見られます。
この分野では賃金分布が全体的に右へ移動しており、低賃金層を中心に賃上げが進みました。

背景には、公定価格の引き上げや政府の賃上げ政策があります。
特定の職種に対して賃上げを集中させた政策の影響が表れていると考えられます。


賃上げの時代は「格差の形」を変える

現在の日本では、賃上げは確かに広がりつつあります。しかし、その影響は世代や産業によって大きく異なります。

特に目立つのは次の三つの変化です。

  • 若年層の賃金上昇
  • 中高年層の格差拡大
  • 技能による賃金差の拡大

これまでの日本では、年齢とともに賃金が上昇する「年功型賃金」が一般的でした。
しかし現在は、その構造が少しずつ変化しています。

企業は人材確保のために若手の待遇を改善し、同時に職務や技能による賃金差を拡大させています。

その結果、賃上げの時代は「格差が縮小する時代」ではなく、「格差の形が変わる時代」になっているとも言えるでしょう。


結論

日本の賃金は長い停滞を経て、ようやく上昇の動きが定着しつつあります。中央値の伸びが平均を上回るなど、低所得層の底上げも確認されています。

しかし、その一方で、世代間や技能間の格差は拡大しています。若年層の賃上げが進む一方、中高年では賃金のばらつきが広がりつつあります。

今後の賃金構造は、従来の年功型から、職務や技能を重視した構造へと変化していく可能性があります。賃上げの広がりを評価する際には、平均値だけでなく、その分布の変化にも目を向けることが重要です。


参考

日本経済新聞 2026年3月12日朝刊
内閣府 日本経済リポート(ミニ白書)
厚生労働省 賃金構造基本統計調査

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