住宅税制は再設計できるのか(仮説編) ― 分断構造を超えるための視点

税理士
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これまで本シリーズでは、住宅税制の分断設計、持ち家優遇の構造、資産格差や世代間格差との関係を検証してきました。

住宅税制は取得・保有・譲渡という局面ごとに分かれ、それぞれ独立して設計されています。その結果、家計の人生設計とは必ずしも整合しない場面が生じています。

では、住宅税制は再設計できるのでしょうか。本稿では、あくまで仮説として、制度再構築の方向性を考えます。


再設計が難しい理由

まず前提として、住宅税制の再設計は容易ではありません。

理由は次のとおりです。

1.税目が分かれている(所得税・住民税・固定資産税など)
2.国税と地方税が交錯している
3.政策目的が複数存在する(景気対策・少子化対策・地域政策)
4.住宅市場への影響が大きい

制度は長年の改正の積み重ねで形成されており、一括見直しは市場に大きな影響を与えます。

したがって、再設計は理論上は可能でも、政治的・財政的制約を伴います。


仮説1:取得支援から居住支援へ

現在の住宅税制は、所有を前提とした取得支援中心の構造です。

これを、

・所有の有無にかかわらず
・居住という行為そのものを支援する

制度へ転換するという考え方があります。

例えば、

・所得に応じた居住給付
・賃貸・持ち家を問わない支援

という設計です。

この場合、持ち家優遇という構造は相対的に縮小します。


仮説2:取得時優遇と譲渡時精算の一体化

取得時に税額控除を与える代わりに、譲渡時に一定の精算を行う仕組みを組み込むことも理論上は可能です。

例えば、

・短期売却時の優遇返還
・長期保有時の追加優遇

といった設計です。

これにより、取得から譲渡までの時間軸を通じた一体設計が可能になります。

ただし、制度は複雑化します。


仮説3:世代間調整機能の組み込み

住宅資産は世代間で偏在しています。

そこで、

・若年層への重点支援
・高齢世代の過度な優遇縮小

といった世代調整型の設計も考えられます。

ただし、既得権益との調整が大きな課題となります。


仮説4:税制から金融政策へ重心移動

住宅支援の重心を税制から金融政策へ移すという方向もあります。

例えば、

・政府保証付き低利融資
・返済負担軽減型ローン

税額控除よりも直接的に負担を軽減する手法です。

この場合、税制の分配機能を弱め、市場調整機能を強めることになります。


再設計の本質的論点

住宅税制再設計の核心は次の問いに集約されます。

1.住宅を資産政策とみるか
2.住宅を社会保障とみるか
3.市場安定と分配公平のどちらを優先するか

この価値選択なしに、制度の方向性は定まりません。


完全な中立は存在しない

いずれの再設計案も、何らかの誘導効果を持ちます。

・取得を促進すれば価格維持につながる
・給付型にすれば財政負担が増える
・精算型にすれば制度は複雑化する

完全な中立設計は存在しません。

重要なのは、どのバイアスを許容するかです。


段階的再設計という現実解

現実的には、

・対象の明確化
・所得制限の見直し
・支援の重点化

といった漸進的改正が想定されます。

大枠を維持しつつ、分配への影響を調整する形です。


結論

住宅税制の再設計は理論上可能です。

しかし、それは単なる制度技術の問題ではありません。

1.税目構造の壁
2.財政制約
3.市場影響
4.世代間調整

という現実的制約を伴います。

住宅税制は経済政策であると同時に、分配政策でもあります。

再設計の議論は、「誰を支え、誰に負担を求めるのか」という社会選択の問題に直結します。

制度は中立ではありません。

だからこそ、再設計の議論は価値判断を明示するところから始まります。


参考

・国税庁「住宅借入金等特別控除のあらまし」令和7年分
・総務省「住宅・土地統計調査」
・内閣府「国民経済計算」

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